上 下
26 / 80

3-6

しおりを挟む

「と言っても、使い方くらいならもうわかっているわ。実戦で試したし」
「魔物に襲われていた時か」
「ええ。助けられる前までは、自分で魔物と戦っていたのよ」

 あの時は、連戦に続く連戦と疲労。
 それによって限界に達し、ついに魔力が枯渇してしまった。
 もしも彼が駆け付けなければ、私は今頃魔物のお腹の中にいただろう。
 そう思うとぞっとする。

「試しに使ってみてくれないか?」
「いいけど、魔物が寄ってきても知らないわよ?」
「この辺りに魔物はいないよ。俺が修行で狩っていたら、いつの間にかいなくなったんだ」
「狩り尽くしたのね……」

 子供の頃から魔物と戦っていたらしい。
 一歩間違えば命を落とすようなことを……。
 レントは見かけによらず、命知らずなのかもしれない。
 少し呆れてため息をこぼし、私は池のほうへと歩み寄る。

「ふぅ……」

 私の身体には、魔力が流れている。
 魔力は感情によって増減し、コントロールすることができる。
 女王時代、魔女については学んだ。
 数ある国の中には、魔女を戦力や相談役として囲い、力をつけている国もある。
 もしもそういう国と敵対したら、魔女と戦わなければならない。
 実際に戦うのは騎士団になるけど、私も知識としては頭に入れておきたかった。

「まさか、自分の身体で役に立つなんてね」

 人生、何が役立つかなんてわからないものだ。
 私は右手を前に突き出す。
 魔法はイメージだ。
 身体に流れる魔力を手のひらに集めて、イメージした現象を引き起こす。
 イメージするのは炎。
 猛々しく燃える炎が、池の水を蒸発させるように。

「燃えろ」

 瞬間、手のひらから火炎が発生する。
 火炎は球体となり、池の中心に生成され、わずか一秒ほどで拡散された。
 周りは木々だ。
 下手に放てば大惨事になるから、池の上で留めて消えるようにイメージした。
 上手くいってホッとする。

「凄いな。他にもできるだろ?」
「そうね。あんまり試したことなかったけど」

 逃げている時は炎の魔法ばかり使った。
 イメージしやすかったし、魔物を一瞬で燃やせるから便利で多用している。
 別に炎しか使えないわけじゃない。
 目の前には水があるし、ちょっと別のイメージをしよう。
 私は池に手を突っ込み、肌で水を感じながらイメージする。

「水よ――走れ」

 池に大きな波が発生し、瞬く間に池の外へと流れていく。
 池の向こう側の木々がびちゃびちゃになり、池の水は半分以下になってしまった。

「ちょっとやりすぎたわね」

 可哀想だから、水を戻そう。
 イメージさえ明確なら、ゼロから水を生み出すこともできる。
 私は池の上に水球を生成し、そのまま落下させた。

「冷たっ」

 勢いがよすぎて水が跳ねて、少し顔にかかってしまった。
 しかしこれで池の水は元通りだ。

「これでよし」
「……何がよしだ?」
「あっ……」

 池の端に、水を浴びたレントがムスッとした顔で立っていた。
 どうやらさっきの衝撃で、思いっきり水を被ったらしい。

「何か言うことは?」
「……ごめんなさい」

 まだ制御は難しい。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱
ファンタジー
ある開拓村で生まれた女の子が辿る特殊な物語。 使い古されている異世界物です。 初投稿に付き、誤字が多いかも知れません。読みづらいかも知れませんが、追々是正します。 追記)作者の気分で、更新が早くなったり、若干遅かったりします。定時更新ではありません、たまに修正の文字を入れずに直していることもありますので、悪しからず。 追記2)タグいれてみました。変化があるのか分かりません 2020/8/31に完結しました。 2020/11/12に第二部投稿始めました。https://www.alphapolis.co.jp/novel/797490980/566417553

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

追放された?異世界転生第三王子と魔境の森の魔女の村

陸奥 霧風
ファンタジー
とある小学1年生の少年が川に落ちた幼馴染を助ける為になりふり構わず川に飛び込んだ。不運なことに助けるつもりが自分まで溺れてしまった。意識が途切れ目覚めたところ、フロンシニアス王国の第三王子ロッシュウは転生してしまった。文明の違いに困惑しながらも生きようとするが…… そして、魔女との運命的な出会いがロッシュウの運命を変える……

処理中です...