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 食事を終えた私たちは、改めて王城内を歩き回った。
 彼の執務室、普段から使っている部屋や場所、他の職員が働いている姿を観察する。
 当然、何事かと多くの人に注目された。
 王子の隣に見知らぬ女性がいる。
 不思議に思わない人は少ないだろう。

「しばらくは注目の的だな」
「我慢するわよ。はぁ……」
「そんなに嫌か? 俺の隣を歩くのは」
「そういうことじゃなくて、結局これは変わらないんだなと思っただけよ」

 注目されるのには慣れている。
 嫌というほど見られてきた。
 女王として振る舞い、正しく生きる。
 ちゃんとできている?
 彼らは、彼女たちは、私のことがどんなふうに見えているのだろう。
 女王になってばかりの頃は、特にそんなことを考えていた。
 慣れというのは恐ろしく、いつしか他人の視線も、考えるだけ面倒だと思うようになった。

「どうせすぐ慣れるわ」

 今は物珍しさで見られているだけだ。
 この光景が当たり前になれば、誰も気にも留めないだろう。
 
「さすが堂々としてるな」
「元女王だからね」
「ははっ、そうだな! けど、この先は少しくらい緊張してくれ」
「……」

 レントに連れられたどり着いたのは、国王の執務室。
 ここに誰がいるのか……否、本来誰がいるべきなのか考えるまでもない。
 そう、挨拶すべき相手は、この国の現統括者。
 彼の……実兄。

「兄上! レントです!」
「――入れ」
「失礼します」

 部屋に入ると、一人の男性が椅子に座って仕事をしていた。
 当然ながらレントに似ている。
 しかし雰囲気から別人なのはわかった。
 なんというか、鋭いのだ。
 視線が?
 そうじゃなくて、姿が。

「兄上、彼女がそうです」
「君が……」
 
 視線が合う。
 私のことを訝しむように見つめている。
 挨拶というから、新しい側役としての挨拶かと思ったけど、この雰囲気は何か違う。
 私はレントに視線を向ける。

「もしかして、伝えてあるの?」
「ああ」
「そういうこと」

 彼はもう、知っているのだ。
 私が何者なのか。

「こんにちは、ジベルト殿下。こうしてお会いするのはお久しぶりですね」
「本当に、あなたがアリエル陛下なのか?」
「はい。見た目は変わってしまいましたが、私の本当の名はアリエル・ユーラスティアです。もっとも、その名は二度と名乗れないでしょう」

 元より名乗る気もないのだが。
 難しい顔をして、ジベルト殿下は腕組みをする。

「魔女の呪い、ということだったが」
「間違っていません。私は魔女に呪われ、この姿になりました」
「公表する気はないというのも?」
「はい。私はもう、あの国に戻るつもりはありませんので」

 女王のセリフとしては最低だ。
 国を捨てる、という意味なのだから。
 同じく国を支え、まとめる彼からは、非難を受けても仕方がない。
 多少の覚悟はしている。

「にわかに信じられない。私が知っている女王陛下とは別人だ」
「実際、もう別人です」
「姿のことではなく……いいや、それがあなたの本来の姿、ということか」
「はい。幻滅しましたか?」
「まさか。気が抜けただけです。少々こちらも緊張していましたが、これなら気を遣う必要もない」
「そうしてください。私はもう、女王ではありません。今の私はリベルです」

 彼がくれた名前を口にする。
 これから先、この名を口にする機会のほうが多い。
 いつしか、私がアリエルだったことも忘れるくらいに。

「事情はおおむね把握している。一先ず、ようこそ我が国へ。歓迎しましょう」
「ありがとうございます」

 こうして私は、新天地へ快く迎えられた。
 驚くほど呆気なく、これでいいのかと思えるほどに。
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