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「疲れは取れているのよ。不思議なくらい、身体が軽いわ」
「そうなのか?」
「ええ」

 私は自分の手を開いて見つめる。
 枯渇していた魔力が戻っている。
 一晩休んだことで、戦いで消費した魔力が回復したらしい。

「魔女の身体になったから、この程度の睡眠でも回復するようになったのかもね」
「魔女……か」
「信じられない?」
「信じるさ。確かに今のお前からは、普通じゃない力を感じるからね」

 彼の眼は、私の身体に宿る魔力すら見えるのだろうか。
 本当にチートだ。

「その魔女のことなんだが、念のために言うけど、無暗に話さないほうがいいぞ」
「わかっているわよ」
「ならいい」

 魔女は畏敬の対象だ。
 この世界には魔物もいるし、女神の奇跡や精霊の力を操る術もある。
 けれど、人の身で魔法を使うことはできない。
 それができるのは、魔女や魔人と呼ばれる存在だけだ。
 女神を信仰する人々が多い中、魔物と同じ魔力を持つ人間は、信仰を脅かす者として忌み嫌われている。

「人前で魔法は使わないし、そもそもまだうまく扱えないわ」
「それは逆に怖いな。扱えるようにする訓練はしたほうがいいんじゃないか」
「……めんどくさいわね」
「だらけるなよ。というか、いつまでベッドにいるんだ」

 実はさっきから、レントがきてもベッドで寝転がったままである。
 いい加減に突っ込まれてしまった。

「疲れはとれてるんだろ?」
「とれてないかも」
「嘘をつくな」
「バレるかー」

 レントの前で嘘は通じない。
 私はしぶしぶ起き上がり、背伸びをする。
 すると、私のベッドの横に彼は服を置いた。

「これは?」
「お前がこれから着る服だよ。この国の王城で働く人間の制服だ」
「私にここで働けと?」
「表面上はな? お前にはこれから、俺の側役」
「側役って……」

 要するに彼を隣で支える秘書みたいな役割の人だ。
 私がレントの秘書?
 王子の側役……。

「めんどうね」
「そう言うなよ。これでも苦労したんだぞ。一晩でお前の身分証作って、どうにか宮廷にねじ込めないかなと思ってな」
「別にわざわざそんなことしなくても。私は衣食住があればどこでもいいのよ」
 
 王城で暮らしたい、なんて欲はこれっぽっちもない。
 贅沢もいらない。
 最低限の生活、後はのんびり自由に過ごせたらそれでいいと考えていた。

「どこでもはよくないだろ? お前、自分が追われる身ってことわかってる?」
「わかってるけど、わざわざ探しに来るかしら」
「相手次第かな? でも、秘密を知る人間を野放しにするのが危険ということくらい、誰だってわかるだろう?」
「……それもそうね」

 身の安全を守るためにも、住む場所や肩書は重要かもしれない。
 私は魔女になった。
 ただ、私に呪いをかけたのもまた魔女だ。
 私の居場所くらい、簡単に見つけられてしまうかも……。
 そうなったらあの牢獄に逆戻りか、最悪その場で殺されるか。
 さすがに困るわね。

「ということで。これからはサポート頼むぞ? リベル」
「……楽しそうね」
「ちょっとな。そういうお前は、面倒くさいって顔してるな」
「よくわかっているじゃない」

 心の底から面倒だ。
 せっかく女王の重圧から解放されたのに……。
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