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「風が気持ちいいわね」
「そうか? 怖くない?」
「全然! これくらいなら平気よ」
「だったらもう少し速くするぞ」
「わっ!」
私は今、空を飛んでいる。
正確には飛び跳ねているだけで、飛行しているわけじゃない。
そもそも私じゃない。
私は彼に抱きかかえられ、まるでお姫様のように運ばれているだけだ。
「ホントに平気か?」
「……」
「アリエル?」
「……はぁ、歩かなくていいなんて最高ね」
「おい……」
しみじみと思い呟いた私に、レントは呆れた表情を見せる。
「これから移動は、全部あなたに任せていい?」
「いいわけないだろ。俺を何だと思っているんだ?」
「タクシー?」
「なんだそれ」
あ、この世界にはタクシーなんて存在しなかった。
私は転生者であることは、余計な混乱を避けるため、誰にも話していない。
幼馴染だった彼も知らない。
魔物に襲われピンチだったけど、彼のおかげで救われた。
安全が確保されたから、気が抜けてしまったのだろう。
「お金を払ったらどこでも連れいってくれる乗り物のことよ」
「長距離馬車のことか」
「あれは行き先が固定でしょ。行きたいところを指定して、その距離に応じたお金を払うの」
「そういうのがユーラスティアにあるのか。初耳だな」
隣国にはそんなものない。
馬車を動かすのは馬だ。
車のように、ガソリンを入れたらあとはアクセルを踏んでハンドルを回すだけ、というわけじゃない。
馬を操る御者も体力がいる。
基本的には決められたコースを、一定の休憩を挟んで往復するのが常識だ。
だから自分で行きたい場所がある時は、完全に徒歩か、途中で馬車を降りて歩く。
もしくはお金があるなら、馬車を借りて自分で操縦もする。
私は女王だったから、基本的な移動は任せていた。
これからは自分で歩かないといけない。
そう考えると憂鬱だ。
「はぁ……」
「急にため息をつくなよ」
「これからのことを考えたら憂鬱なのよ」
「そんなに嫌か? 俺と一緒に来るのは」
「そうじゃなくて……女王じゃなくなったし、身の回りのこととか色々、全部自分でやらなきゃいけないと思うとね……面倒じゃない」
「……お前って、そんな感じだったか?」
レントは呆れた顔で私に尋ねた。
「そんな感じって?」
「気が抜けているというか……ものぐさというか」
要するに、だらしないと言いたいのだろうか。
確かに幼いころの彼の前でも、基本的には王族の一員として接していた。
常に護衛の眼もあったし、一度も素を見せられなかった。
それでも彼との時間は楽しくて、あの時だけは、ただの子供でいられた気がする。
今となってはいい思い出だ。
「私は元々こうなのよ。王族で、女王だったから気が抜けなかっただけ。もう女王じゃないし、変に気張る必要はないでしょ?」
「ははっ、確かにな。驚いたけど、そっちのほうが君らしいと思う」
「私らしい?」
「うん。魂が輝いている」
彼の瞳は、女神の加護で他人の魂が見える。
一体、彼には私の魂がどんな風に見えているのだろうか?
ちょっと気になるけど、見たところで何もできないし、考えるのも面倒だ。
「さぁ、もう見えてきた」
「――!」
何度も訪れたことはある。
けれど、この角度から見たのは初めてだ。
「ようこそ、俺の国、俺の都へ!」
「そうか? 怖くない?」
「全然! これくらいなら平気よ」
「だったらもう少し速くするぞ」
「わっ!」
私は今、空を飛んでいる。
正確には飛び跳ねているだけで、飛行しているわけじゃない。
そもそも私じゃない。
私は彼に抱きかかえられ、まるでお姫様のように運ばれているだけだ。
「ホントに平気か?」
「……」
「アリエル?」
「……はぁ、歩かなくていいなんて最高ね」
「おい……」
しみじみと思い呟いた私に、レントは呆れた表情を見せる。
「これから移動は、全部あなたに任せていい?」
「いいわけないだろ。俺を何だと思っているんだ?」
「タクシー?」
「なんだそれ」
あ、この世界にはタクシーなんて存在しなかった。
私は転生者であることは、余計な混乱を避けるため、誰にも話していない。
幼馴染だった彼も知らない。
魔物に襲われピンチだったけど、彼のおかげで救われた。
安全が確保されたから、気が抜けてしまったのだろう。
「お金を払ったらどこでも連れいってくれる乗り物のことよ」
「長距離馬車のことか」
「あれは行き先が固定でしょ。行きたいところを指定して、その距離に応じたお金を払うの」
「そういうのがユーラスティアにあるのか。初耳だな」
隣国にはそんなものない。
馬車を動かすのは馬だ。
車のように、ガソリンを入れたらあとはアクセルを踏んでハンドルを回すだけ、というわけじゃない。
馬を操る御者も体力がいる。
基本的には決められたコースを、一定の休憩を挟んで往復するのが常識だ。
だから自分で行きたい場所がある時は、完全に徒歩か、途中で馬車を降りて歩く。
もしくはお金があるなら、馬車を借りて自分で操縦もする。
私は女王だったから、基本的な移動は任せていた。
これからは自分で歩かないといけない。
そう考えると憂鬱だ。
「はぁ……」
「急にため息をつくなよ」
「これからのことを考えたら憂鬱なのよ」
「そんなに嫌か? 俺と一緒に来るのは」
「そうじゃなくて……女王じゃなくなったし、身の回りのこととか色々、全部自分でやらなきゃいけないと思うとね……面倒じゃない」
「……お前って、そんな感じだったか?」
レントは呆れた顔で私に尋ねた。
「そんな感じって?」
「気が抜けているというか……ものぐさというか」
要するに、だらしないと言いたいのだろうか。
確かに幼いころの彼の前でも、基本的には王族の一員として接していた。
常に護衛の眼もあったし、一度も素を見せられなかった。
それでも彼との時間は楽しくて、あの時だけは、ただの子供でいられた気がする。
今となってはいい思い出だ。
「私は元々こうなのよ。王族で、女王だったから気が抜けなかっただけ。もう女王じゃないし、変に気張る必要はないでしょ?」
「ははっ、確かにな。驚いたけど、そっちのほうが君らしいと思う」
「私らしい?」
「うん。魂が輝いている」
彼の瞳は、女神の加護で他人の魂が見える。
一体、彼には私の魂がどんな風に見えているのだろうか?
ちょっと気になるけど、見たところで何もできないし、考えるのも面倒だ。
「さぁ、もう見えてきた」
「――!」
何度も訪れたことはある。
けれど、この角度から見たのは初めてだ。
「ようこそ、俺の国、俺の都へ!」
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