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「カインツ、それにみんなも……」
「よぉレオルス! 昨日は世話になったな」
「……なんのつもりだ?」
「聞こえなかったかよ。これだから無能は困るんだ」

 カインツはいつもの調子で悪態をつき、仲間たちもつられて嘲笑する。
 見慣れた光景、もう二度と見ることはないと思っていた。
 カインツはあきれ顔で言う。

「その結晶は俺たち、ワイルドハントが攻略したボスのものだ。返してもらうぞ」
「……何を言っているんだ? これは俺が――」
「嘘つくなよ! ゴミスキルしか持ってない無能の癖に!」
「――!!」

 いつになく、カインツは怒声を上げる。
 感情的になることの多いカインツだけど、ここまで苛立ちを顕著に表したのは初めてかもしれない。
 昨夜のことが影響しているのは明白だ。

「支部長さん、こいつは嘘の報告をしてるぜ」
「……ほう、どのあたりが嘘ですか?」
「全部だよ! 全部! こいつがボスモンスターを一人で攻略できるわけねーだろ。文字読み取るしかできないゴミスキル持ちだぜ? どうやって倒すんだ?」
「そうですよー、クビになった腹いせに嘘までついて……情けないですね、レオルス先輩」

 カインツに同調して、ロゼがニヤニヤと笑みを浮かべる。
 まさかと思うけど、昨夜のことを話していないのか?
 知っていればこんな態度は……いや、知っても同じ態度をとる可能性もあるか。
 どちらにしろ、彼らの思惑は透けて見える。

「嘘なんて一つもない。俺は自力でボスを倒したんだ。カインツ、君たちが俺をダンジョンで見捨ててくれたおかげだよ」
「見捨てた?」
 
 ピクリと反応したのはラクテルさんだった。
 彼は支部長、組合の規定側の人間だ。
 ダンジョン内での裏切り行為は禁止されている。
 この話は聞き逃せないだろう。

「逆だろうがよぉ。お前が一人で逃げ出したんだ。俺たちを置いて、せっせと一人だけ逃げたんだ。だから運よく助かったんだろ?」
「違う。君があの時、ガーディアンサーペントの前に俺を押し出したんじゃないか」

 俺とカインツは言い合う。
 どちらも譲らない。
 嘘と真実をぶつけ合い、話は平行線だ。

「お二人とも落ち着いてください」

 ヒートアップする俺とカインツに、ラクテルさんが割って入る。

「まずはお二人の話を、それぞれ私に聞かせていただけますか?」
「はい」
「いいぜ。どっちを信じるかは明白だからなぁ」

 カインツは笑みを浮かべる。
 ギルドとしての信用、これまでの貢献度。
 ラクテルさんが重視する実績の面で見れば、俺よりもカインツたちを信じることになる。
 それれでも、俺は嘘はついていない。
 裏切られ、見殺しにされたのは俺のほうなのだから。

「事情は把握しました。どちらの主張も、今のところ完全には信用しかねます」
「は? なんでだよ! 俺たちが倒したんだ!」
「ではなぜ? 結晶を彼が持っているのですか? 一人逃げ出したのなら、倒した現場に彼はいなかったはずでは?」
「っ……後からこっそり戻ったんだ。俺たちは疲れてて、結晶を回収する余裕がなかった」

 苦し紛れの主張だ。
 ラクテルさんは冷静に、カインツの主張の矛盾をつく。
 その次に俺へと視線を向ける。

「レオルス様の主張にも疑問はあります。あなたの情報はワイルドハントから伺っておりますが、確かに単独でボスを攻略するには能力が低い」
「そうだろ? こいつにボス攻略なんて不可能――」
「ですからこうしましょう」

 ラクテルさんはカインツの声を遮り、俺に提案する。

「レオルス様には、これよりご自身の力を証明して頂きたいのです」
「証明? どうすればいいんですか?」
「簡単です。レオルス様の実力を私に見せてください。ボスの単独攻略は非常に少ない事例です。幸運だけでは決して成しえない奇跡……英雄の所業です」

 英雄……俺が一番ほしい呼び名をラクテルさんは口にした。

「そうですね。では、カインツ様率いるパーティーと模擬戦を行って頂きましょう。そこでレオルス様の実力が主張に見合っているか否か、私の目で確かめさせていただきます。いかがでしょうか?」

 ラクテルさんは俺とカインツを交互に見る。
 提案を受け行けるか否か。
 聞くまでもない。
 俺も、カインツも、答えは決まっている。

「やります」
「いいぜ! 手っ取り早いじゃねーか!」

 こうして、俺とカインツ率いるパーティーの模擬戦が決定した。
 かつての仲間と刃を交えることになる。
 躊躇するだろうか?
 少なくともカインツ相手に、その心配はなさそうだ。
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