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次女カリナ

十一

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 我に返ったのは、口を開いた二秒後だった。
 二人の視線がこちらに集まっている。
 驚く二人とは別の意味で、わたしの頭の中は驚きのパニック状態だった。
 
 な、なな……何を口走ってたの!
 わたしぃ!

 心の中で叫ぶ。
 恥ずかしさで顔が強張って動かない。
 逆にそれで目を逸らすことが出来ず、わたしは二人のキョトンとした表情を見つめる。

 そして……

 館長がニヤリと笑った。

「ふぅーん、なるほどね~」
「な、何でもないです!」

 と、後から否定しても手遅れだろう。
 博士は驚いている様子だけど、それ以上は感じていないようだ。
 良くも悪くも鈍感な人だから、博士一人なら誤魔化せたかもしれない。
 でも、館長の表情から何を考えているのか察しが付く。

「カリナ、貴女って何才だったかしら?」
「えっ、えっと……十六歳……です」

 消え入りそうな小さな声で答えると、館長はふむふむと頷き考えている。
 一応あと一か月後には十七歳になる。

「そうか。まぁギリギリだけど有りね」
「あの……」
「ナベリス! 悪いけどさっきのお見合いの話はなしにしましょう!」
「は? 何なんだ急に。そっちから持ち込んだ話だろう?」

 鈍感な博士は、まだ館長の思惑に気付いていない。
 普通に苛立っているのがわかる。
 そんな博士を見て、館長は笑いながら言う。

「ふふふっ、そう言わないで。それよりもっと良い相手を見つけたのよ」
「良い……相手?」

 さすがの博士も、この時点で察したようだ。
 館長が口にするより、僅かに早く博士の視線がわたしに向く。
 そう、館長の言うもっと良い相手とは――

「ここにいるじゃない! 貴方にとって最高のパートナー!」
「え、えぇ!」
「カリナ……」

 わたしが口を滑らせた時点で、こうなる未来は予想できていた。
 ただ、実際にその場面に直面すると、わかっていても動揺を隠せない。
 さっき口にしていたギリギリというのは、年齢差の話だろう。
 この国での成人年齢は十五歳。
 成人していなければ婚約は出来ない決まりとなっている。
 そこはクリアしているのだが、年齢が離れすぎている相手との婚約は、周囲から白い目で見られることが多い。
 気にしない者もいるが、色々と面倒なので互いに気を遣う事柄だ。
 博士は今年で二十五、わたしは十六歳。
 今年で十七になるから、年の差は八歳だ。

 慌てるわたしの肩を、館長がトンと叩いて言う。

「どうかしら?」
「ふむ……」
「ちょ、ちょっと待ってください! わたしはその……」
「あら? 嫌だったかしら?」
「え、いえ別に嫌では……」
「じゃあカリナにその気はあるってことね」

 館長はニコリと笑う。
 あまりに強引な解釈と会話の流れで、わたしは置いてけぼりをくらっていた。
 続けて館長は博士にも問いかける。

「貴方はどう? この子より貴方のことをわかっている人なんていないと思うけど?」
「うん、それは一理あるな」

 博士は研究中と変わらない態度で考えている。
 冷静かつ慎重に、私を下から上に見渡して言う。

「確かに、どこのだれかわからん見合い相手よりも、君のことはよく知っている。僕のことも……まぁ知っている方だろう。それに……」

 と言いながら、博士はわたしをじっと見つめる。
 その時の博士の表情は、懐かしさを感じているように思えた。

「良いだろう。それで見合いを受ける必要もなくなる。僕としてもありがたい話だ」
「じゃあ決まりね」
「ああ」

 淡々と話が進んでいく。
 当人であるわたしは会話に入り込めず、オドオドしながら二人を行動に見る。

 え、えぇ!?
 これって本当に婚約する流れなの?
 わたしと博士が……婚約!

 想像したのは、夢で見た光景だった。
 さらにその先の未来を連想して、勝手に恥ずかしくなって顔を赤くする。
 そんなわたしとは対照的に、博士は落ち着いていた。
 
 館長が博士に言う。

「こういうのは男からよ」
「はぁ……仕方ない。僕だってそれくらいの知識はあるさ」
「そう? じゃあ任せるわ」

 そう言って、館長がわたしから離れる。
 代わりに博士がわたしに歩み寄ってきた。

 そして――

「カリナ」
「……は、はい」

 臆面なく、普段通りの表情で博士はわたしに――

「僕と婚約してくれ」

 プロポーズをした。

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新作投稿しました。
そちらも良ければどうぞ。
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