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三女サーシャ
⑪
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アイスドラゴンのブレスは、触れた物すべてを凍らす。
生物であれ無機物であれ、凍らされてしまえば終わりだ。
加えて、今回のドラゴンは大きい。
ジュードさんが話していた通り、普通の倍はあるみたいだ。
翼を広げれば、辺り一面が陰に覆われてしまうほどの巨大さに、誰もが身をすくめる中……
「でっかいな~」
「ちょっとおじさん! 呑気に見てる場合じゃないよ」
おじさんはマイペースだ。
目の前にドラゴンがいても、大量の魔物が迫ってきても。
普段と何ら変わらない。
そしてもう一人、普段通りであろう人もいる。
「怯むなー! 王国騎士の誇りにかけて、悪しき竜を地に落とすぞ!」
騎士団長のジュードさん。
彼が先陣を切ってドラゴンへ突っ込んでいく。
その姿に鼓舞されたように、尻込んでいた騎士団員たちが奮い立った。
ジュードさんは剣を抜き、空を蹴ってドラゴンへ斬りかかる。
ドラゴンはブレスと翼の羽ばたきで寄らせない。
剣で戦う騎士にとって、翼あるドラゴンは戦い辛い相手だろう。
「足場を!」
そこを補うために、騎士団には魔法使いの部隊がいる。
ジュードさんが指示を出し、魔法で空中に足場が生成される。
足場へ華麗に飛び乗り、ドラゴンの翼を斬りつける。
さらに連撃、ドラゴンはたまらず距離を取ろうとするが、それをジュードさんは許さない。
「すごい……」
「言った通りだろ? 戦ってるときは別人だ」
「うん」
この間の優しい表情とは一変。
笑顔で戦いながら剣を振るう姿は、まるで狂戦士のようだと思った。
ドラゴン戦は優勢に運んでいる。
「ホントに助けはいらなそうだな。さて、んじゃオレも」
おじさんは重い腰を起こすように、腰から剣を抜く。
気だるげに歩む後姿を、格好良いと思うのはボクだけだろうか?
「ちょっとは働くか」
迫りくる魔物の群れの中を、散歩するかのように堂々と進む。
彼が進んだその道は、魔物の死体で埋め尽くされる。
誰も彼の剣筋を見ることは出来ない。
その域に至っていなければ、美しき剣に気づくこともままならない。
彼は振り返り、ボクに言う。
「遅れんなよ。サーシャ」
「うん!」
ボクも負けていられない。
おじさんの仲間として、恥じない活躍をしよう。
「主よ――か弱き我らに白き雷を遣わしたまえ。我らを阻む障害を、打ち破らんがため!」
白い雷が落ちる。
聖女の力の一つ、魔を撃ち滅ぼす裁きの光。
ボクの聖女としての力は、癒すよりもこっちのほうが向いている。
剣術だけではまだまだ未熟。
だけど、持っているものを全部合わせれば、ボクだって戦えるんだ。
「いい感じだな」
「えっへへ」
おじさんに褒められたい。
もっと頑張らなきゃと気合を入れる。
ドラゴン戦も順調の様子。
ジュードさんを中心に、翼を斬り裂き飛行能力を低下させている。
じきにドラゴンも地に落ちるだろう。
押し寄せていた魔物の大群も、冒険者たちが主体となって殲滅している。
作戦は順調そのものだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
違和感――
最初にそれを感じたのは、オレとジュードだ。
ドラゴンは本来、生まれ育った環境によって強さや大きさを変える。
山頂に巣があるのなら、これまでの発見例と同じだ。
環境は大きく変化していない。
それなのに、なぜ今回のドラゴンだけは大きい?
ドラゴンの翼に穴が開く。
飛行能力を失ったドラゴンは地に落ちる。
「畳みかけろ!」
ジュードの声が響く。
あの状態に持ち込めば、ドラゴンとの戦闘は終わったも同然だ。
違和感――
やはり不自然だ。
あの巨大さの割に、強さはさほど変化していない。
予想していたよりもあっさりしすぎている。
いや、それどころか魔力が弱くなっていないか?
戦う以前から、魔力の総量が低下し続けている。
まるで、何かに魔力を吸われ続けているように……
「これで――」
ジュードが止めを刺そうとした。
切っ先が胸を貫く。
否、貫こうとして、弾かれた。
「なっ……」
「まさか」
違和感の正体が、ドラゴンの胸から姿を現す。
漆黒の鎧を纏ったようなその姿は、かつての王国に牙を向いた人ならざる者。
失った左腕がうずく。
間違いない。
あれは――
「悪魔だ!」
オレが叫んだ時には、すでに何人かの騎士が殺されていた。
速い、強い、恐ろしい。
全て覚えている。
身体の細胞が、産毛に至るまで吠えている。
「タチカゼ!」
「ああ!」
この悪魔を倒せと。
「おじさん!」
「サーシャ! お前は逃げろ!」
悪魔が相手では、オレも守りながら戦えない。
せめて戦いに巻き込まれない所まで逃げてくれ。
悪魔が吠える。
たったそれだけで大地が震え、空気がきしむ。
騎士たちは恐怖し、その場で立ち尽くしている。
「下がれ! 死にたくなければ離れろ!」
ジュードが叫ぶ。
おそらくこの場で、悪魔と戦えるのはオレとジュードだけだ。
ジュードの剣が悪魔に迫る。
悪魔は剣を交わし、攻撃に転じている。
「させるかよ」
悪魔の拳をオレの剣が弾く。
そのまま大ぶりの一撃をかまし、悪魔は吹き飛ばされる。
ただ、この程度では倒せない。
「くそっ! あの時と同じかよ」
「いいや、あの時の悪魔よりは弱い。二人ならやれる」
その直後、悪魔は頭上に紫色のエネルギーの塊を生成した。
魔法の一種だろう。
それも数が多い。
「全方位攻撃か!」
「まずい――」
他の奴らもまきぞいになる。
「主よ――我らが同胞を守りたまえ」
サーシャが祈りを捧げると、光のヴェールが全体を包み込む。
悪魔だけが弾かれ、人々を守っている。
「サーシャ!」
「こっちは任せて!」
全く頼もしい限りだ。
これで悪魔との戦闘に集中できる。
そう思った時には、悪魔の両目が彼女を捉えていた。
生物であれ無機物であれ、凍らされてしまえば終わりだ。
加えて、今回のドラゴンは大きい。
ジュードさんが話していた通り、普通の倍はあるみたいだ。
翼を広げれば、辺り一面が陰に覆われてしまうほどの巨大さに、誰もが身をすくめる中……
「でっかいな~」
「ちょっとおじさん! 呑気に見てる場合じゃないよ」
おじさんはマイペースだ。
目の前にドラゴンがいても、大量の魔物が迫ってきても。
普段と何ら変わらない。
そしてもう一人、普段通りであろう人もいる。
「怯むなー! 王国騎士の誇りにかけて、悪しき竜を地に落とすぞ!」
騎士団長のジュードさん。
彼が先陣を切ってドラゴンへ突っ込んでいく。
その姿に鼓舞されたように、尻込んでいた騎士団員たちが奮い立った。
ジュードさんは剣を抜き、空を蹴ってドラゴンへ斬りかかる。
ドラゴンはブレスと翼の羽ばたきで寄らせない。
剣で戦う騎士にとって、翼あるドラゴンは戦い辛い相手だろう。
「足場を!」
そこを補うために、騎士団には魔法使いの部隊がいる。
ジュードさんが指示を出し、魔法で空中に足場が生成される。
足場へ華麗に飛び乗り、ドラゴンの翼を斬りつける。
さらに連撃、ドラゴンはたまらず距離を取ろうとするが、それをジュードさんは許さない。
「すごい……」
「言った通りだろ? 戦ってるときは別人だ」
「うん」
この間の優しい表情とは一変。
笑顔で戦いながら剣を振るう姿は、まるで狂戦士のようだと思った。
ドラゴン戦は優勢に運んでいる。
「ホントに助けはいらなそうだな。さて、んじゃオレも」
おじさんは重い腰を起こすように、腰から剣を抜く。
気だるげに歩む後姿を、格好良いと思うのはボクだけだろうか?
「ちょっとは働くか」
迫りくる魔物の群れの中を、散歩するかのように堂々と進む。
彼が進んだその道は、魔物の死体で埋め尽くされる。
誰も彼の剣筋を見ることは出来ない。
その域に至っていなければ、美しき剣に気づくこともままならない。
彼は振り返り、ボクに言う。
「遅れんなよ。サーシャ」
「うん!」
ボクも負けていられない。
おじさんの仲間として、恥じない活躍をしよう。
「主よ――か弱き我らに白き雷を遣わしたまえ。我らを阻む障害を、打ち破らんがため!」
白い雷が落ちる。
聖女の力の一つ、魔を撃ち滅ぼす裁きの光。
ボクの聖女としての力は、癒すよりもこっちのほうが向いている。
剣術だけではまだまだ未熟。
だけど、持っているものを全部合わせれば、ボクだって戦えるんだ。
「いい感じだな」
「えっへへ」
おじさんに褒められたい。
もっと頑張らなきゃと気合を入れる。
ドラゴン戦も順調の様子。
ジュードさんを中心に、翼を斬り裂き飛行能力を低下させている。
じきにドラゴンも地に落ちるだろう。
押し寄せていた魔物の大群も、冒険者たちが主体となって殲滅している。
作戦は順調そのものだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
違和感――
最初にそれを感じたのは、オレとジュードだ。
ドラゴンは本来、生まれ育った環境によって強さや大きさを変える。
山頂に巣があるのなら、これまでの発見例と同じだ。
環境は大きく変化していない。
それなのに、なぜ今回のドラゴンだけは大きい?
ドラゴンの翼に穴が開く。
飛行能力を失ったドラゴンは地に落ちる。
「畳みかけろ!」
ジュードの声が響く。
あの状態に持ち込めば、ドラゴンとの戦闘は終わったも同然だ。
違和感――
やはり不自然だ。
あの巨大さの割に、強さはさほど変化していない。
予想していたよりもあっさりしすぎている。
いや、それどころか魔力が弱くなっていないか?
戦う以前から、魔力の総量が低下し続けている。
まるで、何かに魔力を吸われ続けているように……
「これで――」
ジュードが止めを刺そうとした。
切っ先が胸を貫く。
否、貫こうとして、弾かれた。
「なっ……」
「まさか」
違和感の正体が、ドラゴンの胸から姿を現す。
漆黒の鎧を纏ったようなその姿は、かつての王国に牙を向いた人ならざる者。
失った左腕がうずく。
間違いない。
あれは――
「悪魔だ!」
オレが叫んだ時には、すでに何人かの騎士が殺されていた。
速い、強い、恐ろしい。
全て覚えている。
身体の細胞が、産毛に至るまで吠えている。
「タチカゼ!」
「ああ!」
この悪魔を倒せと。
「おじさん!」
「サーシャ! お前は逃げろ!」
悪魔が相手では、オレも守りながら戦えない。
せめて戦いに巻き込まれない所まで逃げてくれ。
悪魔が吠える。
たったそれだけで大地が震え、空気がきしむ。
騎士たちは恐怖し、その場で立ち尽くしている。
「下がれ! 死にたくなければ離れろ!」
ジュードが叫ぶ。
おそらくこの場で、悪魔と戦えるのはオレとジュードだけだ。
ジュードの剣が悪魔に迫る。
悪魔は剣を交わし、攻撃に転じている。
「させるかよ」
悪魔の拳をオレの剣が弾く。
そのまま大ぶりの一撃をかまし、悪魔は吹き飛ばされる。
ただ、この程度では倒せない。
「くそっ! あの時と同じかよ」
「いいや、あの時の悪魔よりは弱い。二人ならやれる」
その直後、悪魔は頭上に紫色のエネルギーの塊を生成した。
魔法の一種だろう。
それも数が多い。
「全方位攻撃か!」
「まずい――」
他の奴らもまきぞいになる。
「主よ――我らが同胞を守りたまえ」
サーシャが祈りを捧げると、光のヴェールが全体を包み込む。
悪魔だけが弾かれ、人々を守っている。
「サーシャ!」
「こっちは任せて!」
全く頼もしい限りだ。
これで悪魔との戦闘に集中できる。
そう思った時には、悪魔の両目が彼女を捉えていた。
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