上 下
11 / 46
三女サーシャ

しおりを挟む
 小さい頃から、身体を動かすことが好きだった。
 勉強は苦手だし、女の子らしくお淑やかにするのも窮屈だったから。
 身体を動かしている間は、余計なことを考えなくて良い。
 聖女になってからも、それは変わらなかった。
 日々のお務めよりも、騎士の人たちと稽古したり、庭を走り回るほうが楽しい。

 そんなある日、騎士の人から冒険者というお仕事があるという話を聞いた。
 冒険者は言葉通り、森とか洞窟とか、色々な場所を冒険する人のこと。
 ギルドという所に所属して、冒険ついでに依頼をこなし、報酬をもらって生活しているらしい。
 ボクはその話を聞いた時、なんてピッタリな仕事があるんだ、と思った。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 清々しい朝が来た。
 窓から差し込む日差しに刺激されて、瞼がパッチリと開く。
 目をこすり、身体を起こして背伸びをする。
 時計を確認すると、午前六時半を指していた。

「ぅ~ もう朝か~」

 身体も頭も半分は眠っているような感じがする。
 寝起きはいつもこんな感じで、ベッドから降りるまで時間がかかる。
 そしてカチカチと時計の針が進み、しばらくすると――

「サーシャ! もう朝だから起きなさい」

 と、扉の向こう側からアイラお姉ちゃんの声が聞こえてくる。
 これも普段通り。

「はーい!」
 
 アイラお姉ちゃんの声がボクにとっての目覚まし代わりだ。
 身体と頭が目覚めたボクは、ベッドから起きて服を着替える。
 そのまま支度を済ませて、一階まで降りる。
 食堂へ行くと、二人のお姉ちゃんが待っていた。

「おっはよー!」
「……遅い」
「もう、いいかげん一人で起きられるようになりなさい」
「えへへへっ、ごめんなさい」

 よく言われているけど、直らないと自覚している。
 だって一人で起きられるようになったら、もうアイラお姉ちゃんが起こしに来てくれないから。
 三人で食卓を囲む。
 料理はアイラお姉ちゃんがしてくれている。
 ボクとカリナお姉ちゃんは、あんまり料理が得意じゃない。
 だからボクは、代わりに洗濯物を干したり、掃除したりを手伝っている。

「アイラお姉ちゃんは今日も聖堂にいくの?」
「ええ、帰りはいつもの時間になるわ」
「わかった! カリナお姉ちゃんもお仕事だよね?」
「そうよ」

 王国を出て三か月くらい。
 この借家での暮らしも慣れてきている。
 ボクたちはそれぞれに仕事を見つけて、それなりに忙しい日々を送っていた。

 アイラお姉ちゃんは王城近くの聖堂で、聖女として街の人たちと関わっている。
 何でも王子様と縁があったみたいで、その時に聖女だったこともバレてしまったらしい。
 その後に色々あって、結局は前と同じようなことをしている。
 だけど、見ていて前より楽しそうだから、これで良かったのだと思う。

 カリナお姉ちゃんは街の図書館で司書をしている。
 初めてここへ来た日も、司書になりたいと言っていた。
 元々本が好きだったカリナお姉ちゃんには、ピッタリの仕事だと思う。
 他にも色々とあるみたいだけど、詳しいことは教えてくれない。
 ただ、カリナお姉ちゃんも楽しそう。

 そしてボク、三女のサーシャはというと……

「サーシャは今日もギルドへ行くのよね?」
「もちろん! ボクは冒険者だからね!」

 ずっとなりたかった職業についている。
 冒険者――依頼を受けて魔物を狩ったり、未知の場所を探検する職業。
 身体を動かしてお金を稼ぐ仕事の中で、一番自由な職業だと思う。

「いつも言ってるけど気を付けてね?」
「大丈夫だよ! アイラお姉ちゃん」
「サーシャちゃんの大丈夫は……あんまり信用できない」
「えぇ~ ひどいよカリナお姉ちゃん、ボクなら本当に大丈夫だよ? なんたって頼れる仲間がいるからね」

 そう言って、僕は自分の胸をドンと叩く。
 二人は心配そうな顔をしたまま、同じタイミングでため息をついた。
 アイラお姉ちゃんが言う。

「その人にあんまり迷惑かけちゃダメよ?」
「甘えすぎも良くない」
「もぉー、じゃあどうすればいいのさぁ」

 二人のお姉ちゃんは心配性だ。
 ボクのことを心配してくれるのは嬉しいけど、少しは信用してほしいとも思う。
 それにボクだって一人で冒険するわけじゃないから。
 さっきも言った通り、頼れる仲間がいてくれる。
 ちょっと変わった人だけど、頼りになってボクは大好きだ。
 そのうち二人にも会わせてあげたいと思っている。

「ごちそうさま! じゃあ行ってくるね!」
「本当に気を付けるのよ!」
「行ってらっしゃい」

 玄関にある剣を拾い、腰に装備してから出発する。
 二人に見送られ、ボクは冒険者ギルドに向って走る。
 
「おはよう! サーシャちゃん」
「おっはよー!」
「サーシャは今日も元気だな~」
「えっへへ~ おじさんも元気出して行こう!」

 この街の人たちは、とても暖かくてやさしい。
 よそ者だったボクたちを快く出迎えてくれて、手を振ってあいさつもしてくれる。
 綺麗な街に住んでいると、皆の心も綺麗になるのかな。
 そんなことを考えながら、海の近くにある大きな建物にたどり着いた。
 看板には大きな文字で『冒険者ギルドクレンベル支部』と書かれている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

攻撃できないやつはいらないと勇者パーティから追放されたので気ままに旅をします

やなぎ納屋
ファンタジー
ミツヒロはパーティメンバーに魔力を共有することができるユニークスキル持ちだ。そのおかげで勇者はスキルを使い放題。だが脳筋勇者はそんな単純なことにも気づかず、「攻撃できないやつはいらない」と追い出した。突然始まったひとり旅。新たな出会いと別れを繰り返し、生きる意味を見つけることはできるのか。

鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します

厘/りん
ファンタジー
 王都から離れた辺境の村で生まれ育った、マオ。15歳になった子供達は適正職業の鑑定をすることが義務付けられている。 村の教会で鑑定をしたら、料理人•宿屋の主人•魔王とあった。…魔王!?  しかも前世を思い出したら、異世界転生していた。 転生1回目は失敗したので、次はのんびり平凡に暮らし、お金を貯めて美味しい料理を出す宿屋のオヤジになると決意した、マオのちょっとおかしな物語。 ※世界は滅ぼしません ☆第17回ファンタジー小説大賞 参加中 ☆2024/9/16  HOT男性向け 1位 ファンタジー 2位  ありがとう御座います。        

魔王に養われる【ヒモ勇者】ですが何か?~仲間に裏切られたけど、魔王に拾われたので、全力で魔界ライフを満喫しようと思います~

柊彼方
ファンタジー
「エル、悪いが君にはここで死んでもらう」 【勇者】の称号を持つ少年、エルは魔王を討伐するため、勇者パーティーと共に冒険をしていた。 しかし、仲間である【賢者】に裏切られ、囮として捨てられてしまう。 追手の魔族たちに囲まれ、何もかも諦めたエルだったが、そんな彼の前に突如、美少女が現れる。 それは仲間達でも人間でもない……【魔王】だった。 何故か魔王に拾われたエルは魔界で魔王に養われることに。 そこでエルは魔族の温かみを知り、魔界で暮らしたいと思うようになる。 そして彼は決意した。魔族と人間が笑い合える世界を作ることを。 エルを捨てた勇者パーティーは全てが空回り。エルを捨てたことで生んだ亀裂は徐々に広がっていく。 人間界は勇者に戻ってもらおうと躍起になるが、エルが戻るわけもなく…… これは、ヒモとなった勇者が魔界ライフを満喫するために、魔王と世界を救う、そんな物語。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

あらゆる属性の精霊と契約できない無能だからと追放された精霊術師、実は最高の無の精霊と契約できたので無双します

名無し
ファンタジー
 レオンは自分が精霊術師であるにもかかわらず、どんな精霊とも仮契約すらできないことに負い目を感じていた。その代わりとして、所属しているS級パーティーに対して奴隷のように尽くしてきたが、ある日リーダーから無能は雑用係でも必要ないと追放を言い渡されてしまう。  彼は仕事を探すべく訪れたギルドで、冒険者同士の喧嘩を仲裁しようとして暴行されるも、全然痛みがなかったことに違和感を覚える。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

最強の魔帝の少年〜魔力がゼロの無能と思われているが実は最強。落ちこぼれの令嬢を守る為に力を奮い無双する

黒詠詩音
ファンタジー
世界最古の魔法国ユーグリア。 ユーグリアが誇る最強魔法師家系ヒュウガ。 ヒュウガの少年クロは一族の恥と言われ、奴隷のような生活を送っていた。魔力がゼロの無能と貶され追放をされてしまう。 途方もなく道を進んでいた時、魔物に襲われている可憐な美少女に出会う。 少女ユウナと出会いクロの人生は一変する。 ユウナはヒュウガに並ぶ最強の家系リステリ。 二人には共通点があり、ユウナは魔法院ソロモンで落ちこぼれといわれている。 クロはユウナを守る為に最強を誓い、ソロモンに入学する。 ソロモンは実力主義の学園、クロには様々な波乱が襲いかかる。 ユウナの為に秘められている力を出し無双する。 若き魔帝の最強の道……。

処理中です...