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第一章
19.最強夫婦
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ぞろぞろと木々の影から姿を見せたのは、父さんたちを含む村の住人たちだった。
行動しているは意識はない。
魔法によって操られているみたいだ。
「精神支配か」
「正解。あたしの得意な魔法の一つなの。村人の人数が少なくてよかったわ。たくさん操るのはとっても疲れるのよ」
彼女は得意げに語る。
監視されていることに気付いて村から離れたのが逆効果になったか。
「人間のくせに、魔族みたいなことするんだな」
「あら癇に障ったかしら? でも貴方が強すぎるのが悪いのよ。こうでもしないと殺せないでしょう?」
村の人間を人質にとる。
野蛮な奴らだ。
人間は弱い。
だから守らなくてはならない。
そのために剣を握り、立ち上がった。
「どこが弱いんだかな……」
まったく、強かもいいところだろう。
こんな奴らのために戦ったのだと思うと、さすがの俺も苛立ちを感じてしまう。
勇者という肩書を失った今だからこそ余計に。
「さぁ、もう十分理解したでしょ? 貴方はつんでるのよ」
「それはどうかな?」
「強がりね。この状況をどうするつもりかしら? 少しでも抵抗すればあなたの大切な家族はこの世とバイバイしちゃうのよ?」
「確かにピンチだ。俺はエクスカリバーを返却したから、遠隔で洗脳を解く手段を持っていない」
あの聖剣は万能だった。
願えば洗脳くらいやすやす解除できただろう。
残っている他の聖剣も強力だが、あれは聖剣の中でも格が違う。
それを返却してしまったことに、今さら若干の後悔をする。
「おいおい主よ、ワシを手籠めにしておいて後悔などするでないぞ?」
「手籠めにはしてないけどな」
「しておろう。ワシの初めてのキスを奪った男が」
「俺も初めてだったんだぞ? 奪われたのはこっちだ」
「かっかっ! ならばお互い奪い奪われた者同士ということじゃな。うむ、やはり似合いじゃ」
愉快に笑うアスタロトにつられて、俺も笑顔がこぼれる。
そんな俺を見て、女は眉を引く付かせる。
「何を笑ってるんだい? 諦めておかしくなったか?」
「いいや、逆だよ。不憫に思えてね」
「なんだって?」
「この状況でも彼女の存在に気付かないなんて、お前たちはまぬけだ」
頼んだぞ。
仕方ないのう。
俺たちは心で伝え合う。
「――眠れ」
その一言によって、父さんたちはバタンと倒れ込む。
「な、なんだ? 急にどうしたんだ?」
「騒ぐな。眠らせただけじゃ」
「……は? だ、誰だよお前は! どこからでてきた!」
「ワシはずっとここにおったぞ? お前さんらが気付かなかっただけじゃ。いや、気づけぬようにしておったのはワシじゃがのう」
奴らの尾行に彼女は俺より早く気付いていた。
そして先んじて魔法をかけ、自分の存在を奴らにだけ認識できないようにした。
特定の個人にのみ作用する魔法なんて、魔王でなければ使い熟せない。
「だ、だがあたしの洗脳をどうやって解いたんだ!」
「じゃから眠らせたんじゃよ。お前さんのような三流魔法使いが、魔王であるワシに通じるわけがなかろうて」
「ま、魔王……だって?」
「そうじゃよ。お前さんらが喧嘩を売ったのは勇者だけではない。このワシ、魔王アスタロトも同時に敵に回したのじゃ」
あっさりと正体を口にしているが、こいつら相手ならいいだろう。
ピッタリな脅しになる。
元より、このまま無事に返すつもりはない。
「あ、ありえない! 魔王と勇者が一緒に逃げてるなんてあるわけない!」
「信じぬか? じゃが――ひれ伏せ」
「ぐあっ!」
女を含む賊たちが一斉に地面に倒れ込む。
否、地面に押し付けられている。
「洗脳などせんでも、こうして言葉で操ればよい。これでも信じぬか?」
「う、う……嘘だろ? 勇者が……人間を裏切ったのか!」
「それをお前がいうのか」
利用するだけ利用して、必要なくなったら処分する。
そんなことを平気でする奴らと、金で簡単に人を殺そうとする者たち。
人間の中にも、魔族と比較にならないクズはいる。
俺はもう勇者じゃない。
だが、それでも許せない悪はある。
「俺の敵はか弱き者にあだなす者だ。人だから守る。魔族だから倒す。そんなものに俺は縛られない。何が正しいのかどうかは俺が自分で決める」
「その通りじゃよ。ワシらはもう、肩書きを気にする必要はないんじゃ。好きにすればよい。ワシは主を肯定しよう」
「何をしても……か?」
「うむ。ワシは良妻じゃからのう」
「だから夫婦じゃ……いや、そうだな」
結婚式までしておいて、夫婦じゃないと否定するのも馬鹿らしくなってきた。
どうせこの先、俺たちは永遠に生きている。
二人で一緒に。
それってもう、夫婦みたいなものだろ?
「お前たちも運がないな」
「まったくじゃ。ワシら二人を敵に回すなど、世界そのものを敵に回すのと変わらんぞ?」
勇者は魔王を倒すために生まれる。
魔王は勇者と戦える唯一の存在。
互いに対になる最強が、今は一つになっている。
たとえ世界中の全てを敵に回しても、俺たちは負けない。
「俺たちを敵に回したこと」
「後悔するんじゃな」
「う、うあああああああああああああああああああああああ」
その悲鳴は月夜に消えていく。
行動しているは意識はない。
魔法によって操られているみたいだ。
「精神支配か」
「正解。あたしの得意な魔法の一つなの。村人の人数が少なくてよかったわ。たくさん操るのはとっても疲れるのよ」
彼女は得意げに語る。
監視されていることに気付いて村から離れたのが逆効果になったか。
「人間のくせに、魔族みたいなことするんだな」
「あら癇に障ったかしら? でも貴方が強すぎるのが悪いのよ。こうでもしないと殺せないでしょう?」
村の人間を人質にとる。
野蛮な奴らだ。
人間は弱い。
だから守らなくてはならない。
そのために剣を握り、立ち上がった。
「どこが弱いんだかな……」
まったく、強かもいいところだろう。
こんな奴らのために戦ったのだと思うと、さすがの俺も苛立ちを感じてしまう。
勇者という肩書を失った今だからこそ余計に。
「さぁ、もう十分理解したでしょ? 貴方はつんでるのよ」
「それはどうかな?」
「強がりね。この状況をどうするつもりかしら? 少しでも抵抗すればあなたの大切な家族はこの世とバイバイしちゃうのよ?」
「確かにピンチだ。俺はエクスカリバーを返却したから、遠隔で洗脳を解く手段を持っていない」
あの聖剣は万能だった。
願えば洗脳くらいやすやす解除できただろう。
残っている他の聖剣も強力だが、あれは聖剣の中でも格が違う。
それを返却してしまったことに、今さら若干の後悔をする。
「おいおい主よ、ワシを手籠めにしておいて後悔などするでないぞ?」
「手籠めにはしてないけどな」
「しておろう。ワシの初めてのキスを奪った男が」
「俺も初めてだったんだぞ? 奪われたのはこっちだ」
「かっかっ! ならばお互い奪い奪われた者同士ということじゃな。うむ、やはり似合いじゃ」
愉快に笑うアスタロトにつられて、俺も笑顔がこぼれる。
そんな俺を見て、女は眉を引く付かせる。
「何を笑ってるんだい? 諦めておかしくなったか?」
「いいや、逆だよ。不憫に思えてね」
「なんだって?」
「この状況でも彼女の存在に気付かないなんて、お前たちはまぬけだ」
頼んだぞ。
仕方ないのう。
俺たちは心で伝え合う。
「――眠れ」
その一言によって、父さんたちはバタンと倒れ込む。
「な、なんだ? 急にどうしたんだ?」
「騒ぐな。眠らせただけじゃ」
「……は? だ、誰だよお前は! どこからでてきた!」
「ワシはずっとここにおったぞ? お前さんらが気付かなかっただけじゃ。いや、気づけぬようにしておったのはワシじゃがのう」
奴らの尾行に彼女は俺より早く気付いていた。
そして先んじて魔法をかけ、自分の存在を奴らにだけ認識できないようにした。
特定の個人にのみ作用する魔法なんて、魔王でなければ使い熟せない。
「だ、だがあたしの洗脳をどうやって解いたんだ!」
「じゃから眠らせたんじゃよ。お前さんのような三流魔法使いが、魔王であるワシに通じるわけがなかろうて」
「ま、魔王……だって?」
「そうじゃよ。お前さんらが喧嘩を売ったのは勇者だけではない。このワシ、魔王アスタロトも同時に敵に回したのじゃ」
あっさりと正体を口にしているが、こいつら相手ならいいだろう。
ピッタリな脅しになる。
元より、このまま無事に返すつもりはない。
「あ、ありえない! 魔王と勇者が一緒に逃げてるなんてあるわけない!」
「信じぬか? じゃが――ひれ伏せ」
「ぐあっ!」
女を含む賊たちが一斉に地面に倒れ込む。
否、地面に押し付けられている。
「洗脳などせんでも、こうして言葉で操ればよい。これでも信じぬか?」
「う、う……嘘だろ? 勇者が……人間を裏切ったのか!」
「それをお前がいうのか」
利用するだけ利用して、必要なくなったら処分する。
そんなことを平気でする奴らと、金で簡単に人を殺そうとする者たち。
人間の中にも、魔族と比較にならないクズはいる。
俺はもう勇者じゃない。
だが、それでも許せない悪はある。
「俺の敵はか弱き者にあだなす者だ。人だから守る。魔族だから倒す。そんなものに俺は縛られない。何が正しいのかどうかは俺が自分で決める」
「その通りじゃよ。ワシらはもう、肩書きを気にする必要はないんじゃ。好きにすればよい。ワシは主を肯定しよう」
「何をしても……か?」
「うむ。ワシは良妻じゃからのう」
「だから夫婦じゃ……いや、そうだな」
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どうせこの先、俺たちは永遠に生きている。
二人で一緒に。
それってもう、夫婦みたいなものだろ?
「お前たちも運がないな」
「まったくじゃ。ワシら二人を敵に回すなど、世界そのものを敵に回すのと変わらんぞ?」
勇者は魔王を倒すために生まれる。
魔王は勇者と戦える唯一の存在。
互いに対になる最強が、今は一つになっている。
たとえ世界中の全てを敵に回しても、俺たちは負けない。
「俺たちを敵に回したこと」
「後悔するんじゃな」
「う、うあああああああああああああああああああああああ」
その悲鳴は月夜に消えていく。
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