10 / 26
10.不信神
しおりを挟む
貴族の野次は無視しつつ、順番を待って受付を済ませた。
特別問題なく手続きを終わらせ、僕らは学舎から早々に脱出する。
人の流れに逆らいながら進むのは、流される三倍はきつかった。
やっとの思いで人混みを脱し、学園の入り口横にたどり着く。
「はぁ、はぁ……この人混みってずっとなのかな?」
「試験中はそうなんじゃないの? これも受かっちゃえば減るよ」
「なるほどね」
とにかく全て、試験が終わるまでの我慢ということか。
やれやれと心の中でぼやきながら、僕は改めて学園の建物を見つめる。
母さんの話では、千年くらい前までは神殿だったらしい。
そこいつしか大聖堂として扱われるようになって、一度改築され学び舎になった。
神を称える場所が、今では人間の学び舎だ。
別に悪いとは言っていないけど、これも人々が神を忘れていった結果なのだろう。
そう思うとやはり悲しい気持ちになる。
「ここが元は神殿だったこと……みんなは知っているのかな?」
「そうだったのか?」
「ミラも知らないんだ。千年以上前の話らしいけどね……今じゃもう、忘れられたことみたいだ」
「別に良いんじゃないの? 神殿なんかより学園のほうが便利だし、現に国は発展したしさ」
ミラは呆れたようにそう言った。
確かにその通りだけど、ハッキリ言われると余計に来るものがある。
「そうだけど……母さんが悲しむなって」
「……何だよ。お前のお母さんも神様信じてるのか?」
「信じてるも何も、母さんは水神様だからね。神様にとって神殿は信仰を――」
後になって、しまったと思った。
あえて語らなかった母さんのことを、つい口を滑らせてしまった。
どうして話してしまったのだろう。
神様という言葉に反応して、思わず話してしまったのか。
それとも僕が内心、離したいと思っていたからなのかもしれない。
ただそれでも、話すべきじゃなかった。
ミラがこんな反応をするなら……
「何だよ……それ」
「ミラ?」
明らかに普段と違う。
驚きよりも、怒っているように見える表情に、僕は思わず一歩後ずさる。
「冗談にしても笑えないぞ」
「いや……冗談じゃないんだ。信じてもらえないかもしれないけど、僕の母さんは本当に神様なんだ」
「……ふざけんなって。いるわけないだろ神様なんて」
「ちゃんといるよ。僕はそれを――」
グチッ。
唇をかみしめる音が微かに聞こえた。
「いるわけないだろっ!」
ミラの怒声が響く。
周囲の人たちもビックリして、一度は僕たちを見る。
ミラは周りが目に入っていないのか、怒りで呼吸を乱しながら僕を睨んでいた。
いきなりで驚かされる。
だけど神の存在を否定されたことは、僕にも苛立ちを感じさせた。
「どうしてそんな風に決めつけるのさ。この世界を創造したのは神様だ。空も、大地も全て、神様が作ってくれたからある。世界誕生から長い間、神様は僕たち人間を守ってきてくれたんだ」
「そんなのおとぎ話だろ! 今を見ろよ! 神様なんてどこにもいやしない! いたとしも何もしてくれないだろ!」
互いの意見を言い合い、否定し合い、決して交わらない。
最初は何事かと見物していた人々も、飽き飽きしたのか離れていく。
それでもお構いなく互いの主張をぶつけ合う。
「君は神様を見たことがないだろ? 信じられないなら見に来ると良い!」
「そんなもんどうせ偽物だろ! 神様なんていないんだから」
「どうして君はそこまで否定するんだ? 神様の存在を否定したって、僕たちの――」
「いるんなら!」
ポツリ……ポツリと雫が落ちる。
雨じゃない。
彼女の瞳から流れ落ちる……悲しい涙だ。
「神様がいるなら……何で……何でお母さんを助けてくれないんだよ」
「え……」
ポツリと頬に雫が落ちる。
今度は涙じゃない、本当の雨だった。
彼女が流した涙をかき消すように、王都の空を雨雲が覆い隠す。
雨はザーザーと強くなり、周りから人々がいなくなった。
「ぅ、う……」
彼女の涙は雨に消える。
悲しい声も激しい雨音でかきけされる。
それでも僕には届いていた。
耳を塞いだって聞こえてくる。
彼女の悲痛な叫びと怒りが、神様なんて信じないという強い意志が……
僕の心を締め付けて離さない。
◇◇◇
雨の中、僕は一人で宿屋を探し街をさまよった。
ミラといつ離れたのかは記憶にない。
いつの間にか、互いに別々の方向へ歩いていたらしい。
神様がいるなら……何で……何でお母さんを助けてくれないんだよ。
ミラの言葉が何度も頭の中で響いて聞こえる。
あの言葉に僕は、何も応えることが出来なかった。
否定も肯定もできず、ただ立ち尽くすだけだ。
「急な雨って嫌だわ~」
「ママ早く早く! 洗濯物が濡れちゃうよ!」
そんな会話が聞こえてくる。
誰も彼も、雨を邪魔者みたいに扱っていた。
それだけじゃない。
この街には何も、神様がいたという形跡は残っていない。
神様に支えられていた事実なんて、本当におとぎ話の空想みたいに。
それでも普通に生活していた。
幸せそうに、多くの人たちが日々を過ごしていた。
そんな光景を見せられたら、嫌でも考えてしまう。
「神様って……」
何のために必要なんだろう?
特別問題なく手続きを終わらせ、僕らは学舎から早々に脱出する。
人の流れに逆らいながら進むのは、流される三倍はきつかった。
やっとの思いで人混みを脱し、学園の入り口横にたどり着く。
「はぁ、はぁ……この人混みってずっとなのかな?」
「試験中はそうなんじゃないの? これも受かっちゃえば減るよ」
「なるほどね」
とにかく全て、試験が終わるまでの我慢ということか。
やれやれと心の中でぼやきながら、僕は改めて学園の建物を見つめる。
母さんの話では、千年くらい前までは神殿だったらしい。
そこいつしか大聖堂として扱われるようになって、一度改築され学び舎になった。
神を称える場所が、今では人間の学び舎だ。
別に悪いとは言っていないけど、これも人々が神を忘れていった結果なのだろう。
そう思うとやはり悲しい気持ちになる。
「ここが元は神殿だったこと……みんなは知っているのかな?」
「そうだったのか?」
「ミラも知らないんだ。千年以上前の話らしいけどね……今じゃもう、忘れられたことみたいだ」
「別に良いんじゃないの? 神殿なんかより学園のほうが便利だし、現に国は発展したしさ」
ミラは呆れたようにそう言った。
確かにその通りだけど、ハッキリ言われると余計に来るものがある。
「そうだけど……母さんが悲しむなって」
「……何だよ。お前のお母さんも神様信じてるのか?」
「信じてるも何も、母さんは水神様だからね。神様にとって神殿は信仰を――」
後になって、しまったと思った。
あえて語らなかった母さんのことを、つい口を滑らせてしまった。
どうして話してしまったのだろう。
神様という言葉に反応して、思わず話してしまったのか。
それとも僕が内心、離したいと思っていたからなのかもしれない。
ただそれでも、話すべきじゃなかった。
ミラがこんな反応をするなら……
「何だよ……それ」
「ミラ?」
明らかに普段と違う。
驚きよりも、怒っているように見える表情に、僕は思わず一歩後ずさる。
「冗談にしても笑えないぞ」
「いや……冗談じゃないんだ。信じてもらえないかもしれないけど、僕の母さんは本当に神様なんだ」
「……ふざけんなって。いるわけないだろ神様なんて」
「ちゃんといるよ。僕はそれを――」
グチッ。
唇をかみしめる音が微かに聞こえた。
「いるわけないだろっ!」
ミラの怒声が響く。
周囲の人たちもビックリして、一度は僕たちを見る。
ミラは周りが目に入っていないのか、怒りで呼吸を乱しながら僕を睨んでいた。
いきなりで驚かされる。
だけど神の存在を否定されたことは、僕にも苛立ちを感じさせた。
「どうしてそんな風に決めつけるのさ。この世界を創造したのは神様だ。空も、大地も全て、神様が作ってくれたからある。世界誕生から長い間、神様は僕たち人間を守ってきてくれたんだ」
「そんなのおとぎ話だろ! 今を見ろよ! 神様なんてどこにもいやしない! いたとしも何もしてくれないだろ!」
互いの意見を言い合い、否定し合い、決して交わらない。
最初は何事かと見物していた人々も、飽き飽きしたのか離れていく。
それでもお構いなく互いの主張をぶつけ合う。
「君は神様を見たことがないだろ? 信じられないなら見に来ると良い!」
「そんなもんどうせ偽物だろ! 神様なんていないんだから」
「どうして君はそこまで否定するんだ? 神様の存在を否定したって、僕たちの――」
「いるんなら!」
ポツリ……ポツリと雫が落ちる。
雨じゃない。
彼女の瞳から流れ落ちる……悲しい涙だ。
「神様がいるなら……何で……何でお母さんを助けてくれないんだよ」
「え……」
ポツリと頬に雫が落ちる。
今度は涙じゃない、本当の雨だった。
彼女が流した涙をかき消すように、王都の空を雨雲が覆い隠す。
雨はザーザーと強くなり、周りから人々がいなくなった。
「ぅ、う……」
彼女の涙は雨に消える。
悲しい声も激しい雨音でかきけされる。
それでも僕には届いていた。
耳を塞いだって聞こえてくる。
彼女の悲痛な叫びと怒りが、神様なんて信じないという強い意志が……
僕の心を締め付けて離さない。
◇◇◇
雨の中、僕は一人で宿屋を探し街をさまよった。
ミラといつ離れたのかは記憶にない。
いつの間にか、互いに別々の方向へ歩いていたらしい。
神様がいるなら……何で……何でお母さんを助けてくれないんだよ。
ミラの言葉が何度も頭の中で響いて聞こえる。
あの言葉に僕は、何も応えることが出来なかった。
否定も肯定もできず、ただ立ち尽くすだけだ。
「急な雨って嫌だわ~」
「ママ早く早く! 洗濯物が濡れちゃうよ!」
そんな会話が聞こえてくる。
誰も彼も、雨を邪魔者みたいに扱っていた。
それだけじゃない。
この街には何も、神様がいたという形跡は残っていない。
神様に支えられていた事実なんて、本当におとぎ話の空想みたいに。
それでも普通に生活していた。
幸せそうに、多くの人たちが日々を過ごしていた。
そんな光景を見せられたら、嫌でも考えてしまう。
「神様って……」
何のために必要なんだろう?
0
お気に入りに追加
1,427
あなたにおすすめの小説
【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい
冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。
何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。
「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。
その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。
追放コンビは不運な運命を逆転できるのか?
(完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)
追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜
里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」
魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。
実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。
追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。
魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。
途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。
一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。
※ヒロインの登場は遅めです。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結・7話】マザコンと噂の旦那様と結婚した3つの理由<短編>
BBやっこ
恋愛
騎士のお家柄へ嫁ぐことになった。
真面目で寡黙な旦那様?
お義母様っ素敵!
子爵令嬢が、騎士とのお見合い。マザコンと噂の相手だけど?
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる