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2.辺境追放
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「エドワード、お前は明日より領主になってもらうぞ」
「領主?」
突然のことだった。
ある朝、父上に呼び出されたと思ったらこれだ。
領地を与えるから、その領主になれという。
帰属において自らの領地を与えられることは、一人前として認められたことを意味する。
ただし、そうでない場合もある。
今回はおそらく、俺をここから追い出すための口実だろう。
まず年齢的に一番若く、才能なしと言われている三男に領地を与える意味がわからない。
「父上、領地の場所は?」
「あとで部屋に資料を送る。それを確認してから明日には出発しなさい。資金と必要なものはこちらで準備しておこう」
そこまで手配してもらえるなら駄々をこねても仕方がないな。
もっともこれは決定事項なのだろう。
俺が拒否したところで、無理やり追い出されるだけだ。
「わかりました。ありがとうございます」
「……うむ」
父上は俺に背中を向けて乾いた返事をした。
俺の顔も見たくないのか。
それとも多少の後ろめたさがあるのか。
どちらでもいい。
俺が邪魔なことに変わりはない。
部屋に戻ると父上の執事が資料を持ってきた。
記されていた場所を見て、思わず笑ってしまった。
「はは……これは……確定だな」
父上が俺に与えた領地は、王都からも遠く離れた辺境の土地。
大自然に囲まれいるが、目ぼしい資源はなく、小さな町で人々は細々とした農業で暮らしている。
一応は俺の家の管理課ではあるものの、利用価値が低いため放置された土地。
つまり、いらない領地を宛がわれたということだ。
「そんなに嫌なのか……俺が近くにいるのが……」
嫌われている自覚はあった。
だけど、ここまでとなると正直つらいものがあるな。
「まぁ……仕方ないか」
諦めろ。
俺には父上が求めているような才能はなかった。
世の中から浮いた存在である俺を、十四年間育ててくれただけでもありがたいと思え。
そう、思うだけでいいんだ。
「準備するか」
領地へ持って行きたい物を集めよう。
と、最初に考えた時思いついたのは、書斎にある本だった。
普通の本を持ち出すには父上の許可がいる。
だけど、魔術関連の本は俺が集めたもので、父上の許可はいらない。
せっかく集めた資料だ。
この屋敷に残しても処分されるのがわかっているし、持って行っても問題ないな。
俺は自室を出て書斎に向かった。
道中、聞きなれた声が耳に届く。
「どうしうことですか旦那様!」
「この声は……」
サラ?
父上と話しているのか?
それにしてはこんな大声で……怒っているように聞こえる。
俺は気になって廊下の隅に隠れる。
「伝えた通りだ。エドワードに明日よりここを出てもらう。お前にはグレイの教育係になってもらうぞ」
「なぜ坊ちゃまなのですか! まだ成人もしていない坊ちゃまを一人で……しかもあの地には何もありません! 旦那様もいずれ手放すと仰っていた場所ではありませんか!」
「だからこそだ。お前とて理解しているはずだ。あれは我がワイズマン家に相応しくない。我が家は代々、優れた異能の使い手を輩出している。そんな歴史の中であのような者を生み出してしまったのは……一族の恥だ」
「坊ちゃまは旦那様のご子息でしょう?」
「所詮は妾の子だ。エドワードは気づいていないだろうがな」
気づいているよ、とっくに。
俺が母上の子供ではないことくらい。
だって、あの人は俺を見るとき、殺したいほど憎い相手を見るような目で見るから……。
「そこまで心配ならばお前がついていくか? 勧めはしないが」
「っ……」
サラは口を紡ぐ。
彼女だって嫌だろう。
俺についてきて、何もない辺境の土地に飛ばされるなんて。
ちょうどいい機会だ。
俺から離れて、自分の幸せを優先すればいい。
俺と違ってサラには才能もある。
グレイ兄さんは自信家で傲慢だけど、女性相手には弱いからな。
きっと上手くやれるさ。
「今までありがとう。サラ」
俺は彼女には聞こえない声量で呟き、その場を後にした。
◇◇◇
翌日。
出発の馬車に乗る。
「……」
「坊ちゃま、忘れ物はありませんか?」
「……」
「荷物はすべてこちらに積んでおきます。窮屈でしょうがしばらく我慢してください」
彼女は重そうなカバンを軽々と持ち上げ、馬車の中に積んでいく。
最後の一つを積み終わったら、馬車の御者台に腰を下ろす。
「では出発しますね」
「待て」
「どうかなさいましたか? やはり忘れものですか? それともお手洗い?」
「違う。どうしてお前がそこに座っているんだ?」
「もちろん馬車を走らせるためですよ? 手綱を引く者がいなければ馬車は動きませんから」
「そうかそうか。わざわざ遠い地まで運んでくれるのか。帰りも大変なのによくやる」
辺境までの道のりは、馬車でも片道五日間かかる。
生き返りで十日。
俺の送迎のために十日も使うなんて、最後まで律儀な奴だと思った。
「何を言っているんですか? 帰りませんよ?」
「は?」
「当たり前じゃないですか。だから私の荷物も一緒に乗せているんです」
そういえば俺の荷物意外にもたくさん……。
これサラの荷物だったのか?
「なんでだ? お前には関係ないだろ?」
「関係ありますよ。だって私、坊ちゃまのメイドですから」
「――!」
「逃げようとしたってそうはいきませんよ? 坊ちゃまがどこに逃げても、私は地の果てまで追いかけますから」
そう言って彼女は笑う。
作り笑いではなく、楽しそうに。
俺なんかと一緒にいることを選んで……。
「……馬鹿な奴だ」
けど、ありがとう。
心の中で呟く。
「領主?」
突然のことだった。
ある朝、父上に呼び出されたと思ったらこれだ。
領地を与えるから、その領主になれという。
帰属において自らの領地を与えられることは、一人前として認められたことを意味する。
ただし、そうでない場合もある。
今回はおそらく、俺をここから追い出すための口実だろう。
まず年齢的に一番若く、才能なしと言われている三男に領地を与える意味がわからない。
「父上、領地の場所は?」
「あとで部屋に資料を送る。それを確認してから明日には出発しなさい。資金と必要なものはこちらで準備しておこう」
そこまで手配してもらえるなら駄々をこねても仕方がないな。
もっともこれは決定事項なのだろう。
俺が拒否したところで、無理やり追い出されるだけだ。
「わかりました。ありがとうございます」
「……うむ」
父上は俺に背中を向けて乾いた返事をした。
俺の顔も見たくないのか。
それとも多少の後ろめたさがあるのか。
どちらでもいい。
俺が邪魔なことに変わりはない。
部屋に戻ると父上の執事が資料を持ってきた。
記されていた場所を見て、思わず笑ってしまった。
「はは……これは……確定だな」
父上が俺に与えた領地は、王都からも遠く離れた辺境の土地。
大自然に囲まれいるが、目ぼしい資源はなく、小さな町で人々は細々とした農業で暮らしている。
一応は俺の家の管理課ではあるものの、利用価値が低いため放置された土地。
つまり、いらない領地を宛がわれたということだ。
「そんなに嫌なのか……俺が近くにいるのが……」
嫌われている自覚はあった。
だけど、ここまでとなると正直つらいものがあるな。
「まぁ……仕方ないか」
諦めろ。
俺には父上が求めているような才能はなかった。
世の中から浮いた存在である俺を、十四年間育ててくれただけでもありがたいと思え。
そう、思うだけでいいんだ。
「準備するか」
領地へ持って行きたい物を集めよう。
と、最初に考えた時思いついたのは、書斎にある本だった。
普通の本を持ち出すには父上の許可がいる。
だけど、魔術関連の本は俺が集めたもので、父上の許可はいらない。
せっかく集めた資料だ。
この屋敷に残しても処分されるのがわかっているし、持って行っても問題ないな。
俺は自室を出て書斎に向かった。
道中、聞きなれた声が耳に届く。
「どうしうことですか旦那様!」
「この声は……」
サラ?
父上と話しているのか?
それにしてはこんな大声で……怒っているように聞こえる。
俺は気になって廊下の隅に隠れる。
「伝えた通りだ。エドワードに明日よりここを出てもらう。お前にはグレイの教育係になってもらうぞ」
「なぜ坊ちゃまなのですか! まだ成人もしていない坊ちゃまを一人で……しかもあの地には何もありません! 旦那様もいずれ手放すと仰っていた場所ではありませんか!」
「だからこそだ。お前とて理解しているはずだ。あれは我がワイズマン家に相応しくない。我が家は代々、優れた異能の使い手を輩出している。そんな歴史の中であのような者を生み出してしまったのは……一族の恥だ」
「坊ちゃまは旦那様のご子息でしょう?」
「所詮は妾の子だ。エドワードは気づいていないだろうがな」
気づいているよ、とっくに。
俺が母上の子供ではないことくらい。
だって、あの人は俺を見るとき、殺したいほど憎い相手を見るような目で見るから……。
「そこまで心配ならばお前がついていくか? 勧めはしないが」
「っ……」
サラは口を紡ぐ。
彼女だって嫌だろう。
俺についてきて、何もない辺境の土地に飛ばされるなんて。
ちょうどいい機会だ。
俺から離れて、自分の幸せを優先すればいい。
俺と違ってサラには才能もある。
グレイ兄さんは自信家で傲慢だけど、女性相手には弱いからな。
きっと上手くやれるさ。
「今までありがとう。サラ」
俺は彼女には聞こえない声量で呟き、その場を後にした。
◇◇◇
翌日。
出発の馬車に乗る。
「……」
「坊ちゃま、忘れ物はありませんか?」
「……」
「荷物はすべてこちらに積んでおきます。窮屈でしょうがしばらく我慢してください」
彼女は重そうなカバンを軽々と持ち上げ、馬車の中に積んでいく。
最後の一つを積み終わったら、馬車の御者台に腰を下ろす。
「では出発しますね」
「待て」
「どうかなさいましたか? やはり忘れものですか? それともお手洗い?」
「違う。どうしてお前がそこに座っているんだ?」
「もちろん馬車を走らせるためですよ? 手綱を引く者がいなければ馬車は動きませんから」
「そうかそうか。わざわざ遠い地まで運んでくれるのか。帰りも大変なのによくやる」
辺境までの道のりは、馬車でも片道五日間かかる。
生き返りで十日。
俺の送迎のために十日も使うなんて、最後まで律儀な奴だと思った。
「何を言っているんですか? 帰りませんよ?」
「は?」
「当たり前じゃないですか。だから私の荷物も一緒に乗せているんです」
そういえば俺の荷物意外にもたくさん……。
これサラの荷物だったのか?
「なんでだ? お前には関係ないだろ?」
「関係ありますよ。だって私、坊ちゃまのメイドですから」
「――!」
「逃げようとしたってそうはいきませんよ? 坊ちゃまがどこに逃げても、私は地の果てまで追いかけますから」
そう言って彼女は笑う。
作り笑いではなく、楽しそうに。
俺なんかと一緒にいることを選んで……。
「……馬鹿な奴だ」
けど、ありがとう。
心の中で呟く。
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