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アカキツネと守り神
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古びた祠だ。
掃除はされているみたいだけど、何十年……もっと前からここにあるのだろう。
石はひび割れ苔が生えている。
何度か崩れたことがあるのか、いびつに修繕された痕も残っていた。
「……」
「……」
二人でじっと祠を見つめる。
何も見えない。
真っ暗で、祠の輪郭だけが視界に入る。
ぱっと見は何もいないように見えるけど、ファルス様の言う通りだ。
何かがいる。
そんな気配を感じて、ごくりと息を呑む。
姿を消している魔物かもしれない。
ファルス様も同じことを考えたのか。
腰の聖剣に触れていた。
その時だった。
ファルス様の懐から、一羽の鶴が飛び出した。
「――!」
「鶴が……」
祠の周りをぐるぐると飛び回っている。
まるで踊っているように。
喜んでいるようにも見えて、少しだけ緊張がほぐれた。
ファルス様は聖剣から手を離す。
「そういうことだったのか」
「何かわかったんですか?」
「うん。危険なものじゃない。この祠に宿っているのは――精霊だよ」
私は改めて祠に視線を向けた。
折り紙の鶴が嬉しそうに飛び回っている理由を理解する。
「仲間を見つけて嬉しそうに飛んでいる。あの祠の中には、見覚えのあるものあるはずだ」
「もしかして……」
「見てみようか」
「はい」
私たちは祠に近づいた。
正体が見えてきたことで、一気に緊張が抜ける。
軽い足取りで祠の前に立ち、中身を覗き込んだ。
するとそこには、確かに見覚えのある形をしたものが祭られていた。
「私が作った折り紙の鶴」
「そういうことみたいだね。この祠に宿っている精霊は、君が飛ばした鶴の精霊と同じだ」
「折り紙の鶴が、神様として祭られていたということですか? でも、この祠は……」
「そうだね。二人の話によれば、この村ができた頃からここにあるらしい」
夕食の際、老夫婦から祠の守り神の話を聞いた。
村が大きくなる以前からあり、豊作と安全を守ってくれた村の守護神。
村の人たちにとって大切な存在の話を。
「たぶん、触ってみればわかるよ。作った君ならね」
「さ、触っても大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫さ。悪い気は感じないし、何よりこの鶴を折ったのは君だろう? なら君には、触れる権利があるはずだよ」
「……わかりました」
少し緊張しながら、私は祠の中に手を入れる。
懐かしい千羽鶴の一羽。
いつ作り、飛ばした子なのかわからない。
王都から近いほうだし、もしかしたら最初の頃に作った子かもしれない。
私は大事に、優しく掬い上げた。
「……これは……」
「わかったかい?」
「はい」
鶴から私以外の魔力を感じた。
触れたことで気づく。
祠からも、微弱だけど魔力が漂っていることに。
通常、無機物に魔力は宿らない。
ただし例外が存在する。
「この祠には、鶴がたどり着く前から精霊がいたみたいです」
でも、消えてしまっている。
精霊の力の源は、生まれた場所に起因する。
私の想いが魔力に宿り、精霊となったように。
この祠に宿っていた精霊は、人々の願いによって生まれたのだろう。
「豊作や安全を願う村の人たちの力が合わさって、精霊になっていたんだと思います」
「その精霊が、村に繁栄をもたらしたわけだ」
「はい。でも……」
「そうだね。時代の流れによって、精霊は力を失ったんだ」
ファルス様も答えにたどり着いていた。
そう。
この地の精霊は、人々の願いによって形を作り、祠に宿っていた。
しかし時代は流れ、豊かになるほどに信仰心は薄れていく。
次第に新しい生き方や、仕事に興味を持つ人々が増え、人々の意識は村の外へと向くようになった。
徐々に力を失った精霊は、ついに存在を保てなくなった。
掃除はされているみたいだけど、何十年……もっと前からここにあるのだろう。
石はひび割れ苔が生えている。
何度か崩れたことがあるのか、いびつに修繕された痕も残っていた。
「……」
「……」
二人でじっと祠を見つめる。
何も見えない。
真っ暗で、祠の輪郭だけが視界に入る。
ぱっと見は何もいないように見えるけど、ファルス様の言う通りだ。
何かがいる。
そんな気配を感じて、ごくりと息を呑む。
姿を消している魔物かもしれない。
ファルス様も同じことを考えたのか。
腰の聖剣に触れていた。
その時だった。
ファルス様の懐から、一羽の鶴が飛び出した。
「――!」
「鶴が……」
祠の周りをぐるぐると飛び回っている。
まるで踊っているように。
喜んでいるようにも見えて、少しだけ緊張がほぐれた。
ファルス様は聖剣から手を離す。
「そういうことだったのか」
「何かわかったんですか?」
「うん。危険なものじゃない。この祠に宿っているのは――精霊だよ」
私は改めて祠に視線を向けた。
折り紙の鶴が嬉しそうに飛び回っている理由を理解する。
「仲間を見つけて嬉しそうに飛んでいる。あの祠の中には、見覚えのあるものあるはずだ」
「もしかして……」
「見てみようか」
「はい」
私たちは祠に近づいた。
正体が見えてきたことで、一気に緊張が抜ける。
軽い足取りで祠の前に立ち、中身を覗き込んだ。
するとそこには、確かに見覚えのある形をしたものが祭られていた。
「私が作った折り紙の鶴」
「そういうことみたいだね。この祠に宿っている精霊は、君が飛ばした鶴の精霊と同じだ」
「折り紙の鶴が、神様として祭られていたということですか? でも、この祠は……」
「そうだね。二人の話によれば、この村ができた頃からここにあるらしい」
夕食の際、老夫婦から祠の守り神の話を聞いた。
村が大きくなる以前からあり、豊作と安全を守ってくれた村の守護神。
村の人たちにとって大切な存在の話を。
「たぶん、触ってみればわかるよ。作った君ならね」
「さ、触っても大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫さ。悪い気は感じないし、何よりこの鶴を折ったのは君だろう? なら君には、触れる権利があるはずだよ」
「……わかりました」
少し緊張しながら、私は祠の中に手を入れる。
懐かしい千羽鶴の一羽。
いつ作り、飛ばした子なのかわからない。
王都から近いほうだし、もしかしたら最初の頃に作った子かもしれない。
私は大事に、優しく掬い上げた。
「……これは……」
「わかったかい?」
「はい」
鶴から私以外の魔力を感じた。
触れたことで気づく。
祠からも、微弱だけど魔力が漂っていることに。
通常、無機物に魔力は宿らない。
ただし例外が存在する。
「この祠には、鶴がたどり着く前から精霊がいたみたいです」
でも、消えてしまっている。
精霊の力の源は、生まれた場所に起因する。
私の想いが魔力に宿り、精霊となったように。
この祠に宿っていた精霊は、人々の願いによって生まれたのだろう。
「豊作や安全を願う村の人たちの力が合わさって、精霊になっていたんだと思います」
「その精霊が、村に繁栄をもたらしたわけだ」
「はい。でも……」
「そうだね。時代の流れによって、精霊は力を失ったんだ」
ファルス様も答えにたどり着いていた。
そう。
この地の精霊は、人々の願いによって形を作り、祠に宿っていた。
しかし時代は流れ、豊かになるほどに信仰心は薄れていく。
次第に新しい生き方や、仕事に興味を持つ人々が増え、人々の意識は村の外へと向くようになった。
徐々に力を失った精霊は、ついに存在を保てなくなった。
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