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1.三十回目です
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「パッパラパッパッパーン!」
陽気な音を奏でるのはどの口ですか?
祝福の鐘を再現しているみたいだけど、こうも不愉快なのは生まれて初めてだ。
いいや……死んで初めてというべきか。
「おめでとうー! ついにコンティニュー三十回を突破だね~」
「……」
「これは中々の快挙だよ! 三十回も悲惨な最期を迎えたというのに、未だに魂を保っているのは君が初めてだよ」
「……」
彼女は軽快なリズムで私を称賛していた。
そう、彼女は褒めている。
褒めているのに……それがどうしようもなく腹立たしい。
なぜかって?
そんなの決まっている。
「お前が……」
「ん?」
「お前が全ての元凶か!」
「ぶっ!」
私は思いっきり彼女の頬をビンタした。
それはもう本気で、首を吹き飛ばしてしまおうと思ったくらい豪快に。
小柄な彼女は飛んでいき、そのまま地面なのか床なのかわからない白い縁にぶつかった。
「いったいなー! 女神のわたしをぶったね! 天使にもぶたれたことないのに!」
「うるさいわよ! 何が女神よ! 何がコンティニューよ! 全部お前が悪いんでしょ!」
「ちょっ、ちょっと落ち着こうか? 君ってまだ状況理解できてないでしょ? ほら、何でこんな何もない白い空間にいるのか、とか。女神って言ってるけどわたしは誰なのか、とか。そもそもコンティニューって、とかさ!」
「そんなのどうだっていいわ!」
確かに意味がわからない。
私はついさっきまでお屋敷にいた。
こんな何もない、ただ白いだけの空間なんて知らない。
目の前にいるうるさい女の子は誰?
綺麗な金色の髪に中性的な顔立ち、肌なんて見たことがないくらい白くて透き通っている。
とてもこの世の女性とは思えない神秘的な雰囲気で、ちょっと幼い容姿だけど、女神様とか天使様と言われたら納得してしまう。
コンティニューなんて言葉は知らない。
三十回という回数には心当たりがあるから、たぶんやり直しって意味だと思うけど。
そんなこと……そんな些細なことなんて知らない。
どうだって良い。
私が激しく怒っているのは――
「私にへんてこな能力を与えたのはお前か!」
「さっきから口悪いな~ 仮にも貴族の令嬢がそんなんじゃ駄目でしょ?」
「関係ないわよそんなこと! だって私はもう死んでるんだから!」
「あ、一応そこは覚えているんだ」
彼女は感心したように何度も頷く。
当然だろう。
自分が死んでしまったことくらい理解できている。
何度も見て、経験しているから。
「へんてこな能力ってのも勘違いだよ~ あれはわたしから君へのプレゼントさ。バッドエンドを回避して、唯一のハッピーエンドへたどり着くためのね」
「何がハッピーエンドよ……そんなのないじゃない! 私が……私が何回死んだと思ってるのよ!」
「だから三十回だろ? さっき祝福してあげたじゃないか」
「祝われることじゃないのよ! 人が何度も死んでるのに楽しそうに……他人事みたいに!」
頭に血が昇っている私は、怒りのままに言い散らす。
そんな私を見ながら、彼女は呆れたように笑う。
「他人事だよ。わたしには直接関係ないことさ。君が死のうと生きようと、結局のところわたしには関係ない。ただわたしは興味があるだけさ」
「興味……?」
「そう。君のハッピーエンドが見てみたい。ただそれだけだよ」
「何を言って……」
彼女の言葉に嘘はなかった。
何の根拠もなく、感覚的にそう思っただけなのに、私の怒りはふわっと消えていく。
燃え上がった炎が弱まって、荒々しくなっていた呼吸も落ち着いてくる。
そうしてようやく、状況の整理に頭が使えるようになってきた。
「私は……何度も死んで、やり直してきた」
「うん、ちょうど三十回目だ。記念すべき数字だから、ちょっとお話もしたくて君を呼んだんだよ」
「……これも貴女の力なの? 死んでやり直すなんて聞いたことない。何で私にこんな力が……」
「ふふっ、ようやくお話を聞いてくれそうになったね」
彼女はニヤっと微笑んで、二つの椅子を生み出した。
何もない所に光が集まって、椅子の形に変化した。
普通にありえない光景だけど、驚きはしない。
今いる場所、私が経験してきた三十回の死、それら全てがありえないことの塊だから。
私たちは座る。
向かい合って腰を下ろし、彼女が話し出す。
「まず誤解を解いておこうか? やり直しに関してはわたしの力じゃない。そもそもあれは力という寄り定め……いや、呪いと言うべきかな?」
「呪い……」
彼女はこくりと頷き説明を続けた。
まず大前提に、君は悪くない。
君は何も悪いことなんてしていない。
君に罪があるから、わたしが意地悪をしているとかじゃないんだ。
悪いのは君のご先祖様だよ。
ちょうど千年前、君のご先祖様は大罪を犯したんだ。
内容は教えられないけどね。
それはそれはもう恐ろしいことをやってしまったよ。
人々は怒り、恨み、世界すら震えた。
そいつは罪人になって地獄に落ちたんだけど、人々の恨みは治まらなかった。
犯した罪の大きさ故か、そいつの死だけじゃ償いきれなかったんだ。
だから罪の償いは次の世代へと引き継がれた。
本人じゃ償いきれないから、そいつと縁が深い人が代わりに償えってね。
それでも足りなかった。
次の世代、また次の世代へと受け継がれている罪。
「それは今、君の代になっても消えていない。むしろ時間をかけすぎて罪がより濃くなってしまっているんだ」
「だ、だから何度もやり直して、罪を償わせようと……しているの?」
「そう。そして百回繰り返したのち、君の魂は地獄へ落ちる」
「……そんな……」
ご先祖様が犯した罪。
その清算のために、子孫まで呪われているというの?
「そんなの……そんなの――とばっちりじゃない!」
「その通りだよん」
陽気な音を奏でるのはどの口ですか?
祝福の鐘を再現しているみたいだけど、こうも不愉快なのは生まれて初めてだ。
いいや……死んで初めてというべきか。
「おめでとうー! ついにコンティニュー三十回を突破だね~」
「……」
「これは中々の快挙だよ! 三十回も悲惨な最期を迎えたというのに、未だに魂を保っているのは君が初めてだよ」
「……」
彼女は軽快なリズムで私を称賛していた。
そう、彼女は褒めている。
褒めているのに……それがどうしようもなく腹立たしい。
なぜかって?
そんなの決まっている。
「お前が……」
「ん?」
「お前が全ての元凶か!」
「ぶっ!」
私は思いっきり彼女の頬をビンタした。
それはもう本気で、首を吹き飛ばしてしまおうと思ったくらい豪快に。
小柄な彼女は飛んでいき、そのまま地面なのか床なのかわからない白い縁にぶつかった。
「いったいなー! 女神のわたしをぶったね! 天使にもぶたれたことないのに!」
「うるさいわよ! 何が女神よ! 何がコンティニューよ! 全部お前が悪いんでしょ!」
「ちょっ、ちょっと落ち着こうか? 君ってまだ状況理解できてないでしょ? ほら、何でこんな何もない白い空間にいるのか、とか。女神って言ってるけどわたしは誰なのか、とか。そもそもコンティニューって、とかさ!」
「そんなのどうだっていいわ!」
確かに意味がわからない。
私はついさっきまでお屋敷にいた。
こんな何もない、ただ白いだけの空間なんて知らない。
目の前にいるうるさい女の子は誰?
綺麗な金色の髪に中性的な顔立ち、肌なんて見たことがないくらい白くて透き通っている。
とてもこの世の女性とは思えない神秘的な雰囲気で、ちょっと幼い容姿だけど、女神様とか天使様と言われたら納得してしまう。
コンティニューなんて言葉は知らない。
三十回という回数には心当たりがあるから、たぶんやり直しって意味だと思うけど。
そんなこと……そんな些細なことなんて知らない。
どうだって良い。
私が激しく怒っているのは――
「私にへんてこな能力を与えたのはお前か!」
「さっきから口悪いな~ 仮にも貴族の令嬢がそんなんじゃ駄目でしょ?」
「関係ないわよそんなこと! だって私はもう死んでるんだから!」
「あ、一応そこは覚えているんだ」
彼女は感心したように何度も頷く。
当然だろう。
自分が死んでしまったことくらい理解できている。
何度も見て、経験しているから。
「へんてこな能力ってのも勘違いだよ~ あれはわたしから君へのプレゼントさ。バッドエンドを回避して、唯一のハッピーエンドへたどり着くためのね」
「何がハッピーエンドよ……そんなのないじゃない! 私が……私が何回死んだと思ってるのよ!」
「だから三十回だろ? さっき祝福してあげたじゃないか」
「祝われることじゃないのよ! 人が何度も死んでるのに楽しそうに……他人事みたいに!」
頭に血が昇っている私は、怒りのままに言い散らす。
そんな私を見ながら、彼女は呆れたように笑う。
「他人事だよ。わたしには直接関係ないことさ。君が死のうと生きようと、結局のところわたしには関係ない。ただわたしは興味があるだけさ」
「興味……?」
「そう。君のハッピーエンドが見てみたい。ただそれだけだよ」
「何を言って……」
彼女の言葉に嘘はなかった。
何の根拠もなく、感覚的にそう思っただけなのに、私の怒りはふわっと消えていく。
燃え上がった炎が弱まって、荒々しくなっていた呼吸も落ち着いてくる。
そうしてようやく、状況の整理に頭が使えるようになってきた。
「私は……何度も死んで、やり直してきた」
「うん、ちょうど三十回目だ。記念すべき数字だから、ちょっとお話もしたくて君を呼んだんだよ」
「……これも貴女の力なの? 死んでやり直すなんて聞いたことない。何で私にこんな力が……」
「ふふっ、ようやくお話を聞いてくれそうになったね」
彼女はニヤっと微笑んで、二つの椅子を生み出した。
何もない所に光が集まって、椅子の形に変化した。
普通にありえない光景だけど、驚きはしない。
今いる場所、私が経験してきた三十回の死、それら全てがありえないことの塊だから。
私たちは座る。
向かい合って腰を下ろし、彼女が話し出す。
「まず誤解を解いておこうか? やり直しに関してはわたしの力じゃない。そもそもあれは力という寄り定め……いや、呪いと言うべきかな?」
「呪い……」
彼女はこくりと頷き説明を続けた。
まず大前提に、君は悪くない。
君は何も悪いことなんてしていない。
君に罪があるから、わたしが意地悪をしているとかじゃないんだ。
悪いのは君のご先祖様だよ。
ちょうど千年前、君のご先祖様は大罪を犯したんだ。
内容は教えられないけどね。
それはそれはもう恐ろしいことをやってしまったよ。
人々は怒り、恨み、世界すら震えた。
そいつは罪人になって地獄に落ちたんだけど、人々の恨みは治まらなかった。
犯した罪の大きさ故か、そいつの死だけじゃ償いきれなかったんだ。
だから罪の償いは次の世代へと引き継がれた。
本人じゃ償いきれないから、そいつと縁が深い人が代わりに償えってね。
それでも足りなかった。
次の世代、また次の世代へと受け継がれている罪。
「それは今、君の代になっても消えていない。むしろ時間をかけすぎて罪がより濃くなってしまっているんだ」
「だ、だから何度もやり直して、罪を償わせようと……しているの?」
「そう。そして百回繰り返したのち、君の魂は地獄へ落ちる」
「……そんな……」
ご先祖様が犯した罪。
その清算のために、子孫まで呪われているというの?
「そんなの……そんなの――とばっちりじゃない!」
「その通りだよん」
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