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第一部

17.試験終了!

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 森の中を歩く三人の影。
 予想通り、他の受験者たちも協力関係を築き、チームやコンビで試験に挑んでいる。
 三人とも周囲を警戒している様子だ。

「いつ敵が襲ってくるかわからない。気を抜くなよ」
「大丈夫よ。近づいてくれば私の探知術式に反応するわ」

 探知領域。
 結界魔術の応用で、術者を中心とした円内に侵入した敵を感知できる。
 一定以上魔力を帯びた生物を対象としており、無機物や魔力の弱い者の感知は出来ない。
 また、守り防ぐ結界ではないため、接近そのものを妨害することも叶わない。
 対象の速度が対応不可能な速さであれば、感知しても間に合わないだろう。
 故に――

 パリン!

「なっ、腕輪が!」
「狙撃だと!?」

 さらに二発。
 光の矢が残りの二つのブレスレッドを破壊する。

 術者の距離は百メートルを超える先。
 太い木の枝に乗って光の弓を構えるシトネが、破壊を確認してガッツポーズをする。

「よし!」
「え、当たったのか?」
「うん! 三人撃破だよ」

 残念ながら俺には全然見えない。
 木や葉っぱが邪魔だし、距離が離れていて腕まで見えないぞ。

「よく見えるな」
「私は目が良いからね」

 えっへんと効果音が聞こえるように、彼女は胸を張った。

「千里眼でも持ってるのか?」
「ううん、私の場合はただ普通の人より目が良いだけだよ」

 純粋な身体機能か。
 これも先祖返りの影響とかなのかもしれない。
 加えて、彼女が使用しているのは光弓術式。
 光属性魔術の一つで、高密度に圧縮された魔力の形状を変化させ、様々な武器や道具として使うことが出来る術式だ。
 高度な魔力コントロールと、術式を維持し続けるだけの魔力量が必要となる高等術式。
 これを使えるだけでも、シトネの実力は相当なものだろう。
 それにしても……

「てっきり腰のそれで戦うかと思ったよ」

 彼女の左腰には剣が装備されていた。
 変わった形の剣だな。

「私も最初はそう思ったんだけどね。予想より乱戦になりそうだし、今はこっちのほうが戦いやすいかなって」
「なるほどね。ちなみにどっちの方が得意なんだ?」
「どっち?」
それそれ

 俺は順番に指をさしながら尋ねた。
 すると彼女は、迷うことなく腰に装備した剣に触れる。

「こっちだよ」

 それを聞いて、彼女が優れた魔術師だと再確認させられた。
 地形や相手、ルールに合わせて戦い方を変える。
 そういうことが出来るのは、多くの手札を持っている者だけだ。
 何より彼女も、魔術だけに固執していない。
 師匠がよく言っていた。
 優れた魔術師であるほど、様々な技術に精通しているものだと。

「今度、シトネとも手合わせしてみたいな」
「えっ、ちょっ……ちょっと私は遠慮したなぁ」

 なんて会話をしていると、試験中だということをまた忘れそうになる。

「さて、次は俺も戦うぞ」
「うん! 頑張って特待クラスに入らないとね」
「ああ」

 合格者百五十名は、五つのクラスに分けられる。
 その中でも、成績上位三十人のみが在籍を許されるのが特待クラスだ。
 聖域者を目指すなら、特待クラスに在籍していることが最低条件。
 卒業時に特待クラス主席の座にいることで、神への挑戦権が得られる。
 特待クラスの顔ぶれは、入学時点からほぼ変わらないという。
 つまり――

「聖域者になるなら、ここで特待クラスにらなきゃダメってことだ」
「うん!」

 迫りくる受験者を、俺とシトネはバッタバッタとなぎ倒す。
 聖域者になれるのはたったの一人だけ。
 欲を言えば、特待クラスに入るだけじゃなくて、首席合格を目指したい。
 というわけだから……

「こっからは暴れるぞ」

 そして――
 試験開始から一時間三十分後。
 バンと高い爆発音が森中に響き、魔道具による放送が流れる。

「規定人数に達しました! 現時刻をもって実戦試験は終了とします」
「ふぅ、終わったか」
「みたいだね」

 俺たちがいる森の一部は、木々が倒れ、大地は抉れ見るも無残なありさまだ。
 成績のためとはいえ、少々やり過ぎたかもしれない。
 周囲にはブレスレッドを破壊され、倒れている他の受験者たちの姿がある。

「さすがに疲れたな」
「そうだね。何だか途中か、ものすっごく狙われてた気がするけど……」
「やっぱりシトネもそう思う?」
「うん」

 途中まで森を駆けまわりながら倒していた俺たちだけど、残り五分はずっと同じ場所で戦っていた。
 というのも、次から次へと新しい受験者が襲い掛かってきて、その対処に追われたからだ。
 俺としては探す手間が省けてラッキーだったけど。

「示し合わせた感じもなかったし、ただ偶然戦いの真ん中に来ちゃったのかもな」
「だとしたら災難だね」

 あははは、とかれた笑いを見せるシトネ。
 その後、生き残った受験者は、森を出て闘技場へ戻る。
 闘技場に設けられたでかい看板には、実戦試験の順位がババンと表示されていた。

「リンテンス君!」
「ああ」

 実戦試験撃破数トップ――リンテンス・エメロード。
 なんと撃破数は過去最多の二九九人。
 二位と百以上の差をつけて、堂々の一位だった。

「凄いよリンテンス君!」
「ありがとう。そういうシトネだって、五位に名前があるだろ?」
「え? あ、ホントだ!」

 シトネの撃破数は七十二人。
 彼女もまた上位に名を連ねる一人になっていた。
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