31 / 35
14-2
しおりを挟む
見覚えのある後姿を見つけた。
まさか、そんなことがあるのだろうか?
人違いだと思ったけど、頬を流れる汗を拭った時、横顔が見えて確信した。
「アクト様?」
「ん? ああ、イリアスとシオンか。来ていたんだね」
「はい。イリアス様に街を案内しております」
「そうか。ちょっと待ってくれ。今そっちに向かうから」
アクト様は耕した土を踏まないように飛び越えて、私とシオンの前にやってきた。
何度見てもアクト様だ。
汗を流し、頬や服には土をつけているけど。
「そっちは順調か?」
「はい。イリアス様のご提案で、街の方々の声を聞いているところです」
「そういうことか。いいことだが、みんな驚いていただろう?」
「はい。ですがすぐに打ち解けていらっしゃいました」
驚いているのは今、この状況に……なのだけど。
シオンは普段通りに会話をしているし、驚くような素振りを見せない。
つまり、これが普通ということ?
一国の王様が、国民と一緒に畑仕事をしている光景が?
私の脳裏には疑問符がいくつも浮かんでいた。
「イリアス? どうかしたか?」
「あ、いえ……陛下も、畑仕事をされているのですね」
「ああ、偶にな。人手が足りない時は、こうして手伝いに来ているんだよ」
「そうなのですね……」
「驚いたか?」
「はい……驚きました。国王が畑仕事をしているなんて、スパーク王国ではありえない光景でしたので」
「ははっ! たぶんうちだけだろうな。俺も聞いたことはないし、他国の王に知られたら呆れられるだろうな」
アクト様は笑いながら、腰に手を当てて畑のほうを見ながら言う。
「うちは動ける若い人間が限られている。畑仕事は力がいるからな」
「それはそうですが……」
「言いたいことはわかるよ。これは俺の仕事じゃない。本来なら、俺がここにいること自体がおかしいことだ。でも、何かしたいって思うんだよ」
「アクト様……」
アクト様は目を細めて、共に畑仕事で汗を流す人たちを見つめていた。
若い人よりも、お年寄りの方のほうが多い。
街で働く人たちは、比較的若い男性が多かったように思う。
きっと今ここで働いている方は、昔から畑仕事に取り組んでいる方なのだろう。
汗を流し、時に腰をトントンと叩きながら……。
「この国はいつだってギリギリだ。休むことすら許されないほど……ここで働く人も高齢だしな。これからさらに歳を取ったら、畑仕事は誰がやる? そういうことも考えなきゃいけないんだけど……結局、今やれることはこれくらいなんだよ」
「アクト様は国外にも赴き、若い働き手を勧誘されたり、王国に協力を依頼されているのです」
「国外に?」
そんなことまでされていたのか……。
スパーク王国にも、そういう相談をしていたのだろうか?
少なくとも、私の耳には入ってこなかった。
「大体が門前払いされてしまうけどな。未来のない国に、投資する価値がどこにある……と」
「そんな……」
「事実だ。彼らも慈善事業をしているわけじゃない。何の利益もないのに、他国に協力する理由はない。わかってはいるんだ。だから少しでも、この国の価値を示さないといけないのに……」
「アクト様……」
悔しさに、彼は唇をかみしめていた。
貧困はどんどん悪化していく。
これから冬になれば、病や体調不良の方が増えるだけじゃない。
食材も手に入りにくくなるし、冬の寒さに耐えながら、外で働くのはお年寄りには厳しい。
それこそ、命を削る行為に他ならない。
まさか、そんなことがあるのだろうか?
人違いだと思ったけど、頬を流れる汗を拭った時、横顔が見えて確信した。
「アクト様?」
「ん? ああ、イリアスとシオンか。来ていたんだね」
「はい。イリアス様に街を案内しております」
「そうか。ちょっと待ってくれ。今そっちに向かうから」
アクト様は耕した土を踏まないように飛び越えて、私とシオンの前にやってきた。
何度見てもアクト様だ。
汗を流し、頬や服には土をつけているけど。
「そっちは順調か?」
「はい。イリアス様のご提案で、街の方々の声を聞いているところです」
「そういうことか。いいことだが、みんな驚いていただろう?」
「はい。ですがすぐに打ち解けていらっしゃいました」
驚いているのは今、この状況に……なのだけど。
シオンは普段通りに会話をしているし、驚くような素振りを見せない。
つまり、これが普通ということ?
一国の王様が、国民と一緒に畑仕事をしている光景が?
私の脳裏には疑問符がいくつも浮かんでいた。
「イリアス? どうかしたか?」
「あ、いえ……陛下も、畑仕事をされているのですね」
「ああ、偶にな。人手が足りない時は、こうして手伝いに来ているんだよ」
「そうなのですね……」
「驚いたか?」
「はい……驚きました。国王が畑仕事をしているなんて、スパーク王国ではありえない光景でしたので」
「ははっ! たぶんうちだけだろうな。俺も聞いたことはないし、他国の王に知られたら呆れられるだろうな」
アクト様は笑いながら、腰に手を当てて畑のほうを見ながら言う。
「うちは動ける若い人間が限られている。畑仕事は力がいるからな」
「それはそうですが……」
「言いたいことはわかるよ。これは俺の仕事じゃない。本来なら、俺がここにいること自体がおかしいことだ。でも、何かしたいって思うんだよ」
「アクト様……」
アクト様は目を細めて、共に畑仕事で汗を流す人たちを見つめていた。
若い人よりも、お年寄りの方のほうが多い。
街で働く人たちは、比較的若い男性が多かったように思う。
きっと今ここで働いている方は、昔から畑仕事に取り組んでいる方なのだろう。
汗を流し、時に腰をトントンと叩きながら……。
「この国はいつだってギリギリだ。休むことすら許されないほど……ここで働く人も高齢だしな。これからさらに歳を取ったら、畑仕事は誰がやる? そういうことも考えなきゃいけないんだけど……結局、今やれることはこれくらいなんだよ」
「アクト様は国外にも赴き、若い働き手を勧誘されたり、王国に協力を依頼されているのです」
「国外に?」
そんなことまでされていたのか……。
スパーク王国にも、そういう相談をしていたのだろうか?
少なくとも、私の耳には入ってこなかった。
「大体が門前払いされてしまうけどな。未来のない国に、投資する価値がどこにある……と」
「そんな……」
「事実だ。彼らも慈善事業をしているわけじゃない。何の利益もないのに、他国に協力する理由はない。わかってはいるんだ。だから少しでも、この国の価値を示さないといけないのに……」
「アクト様……」
悔しさに、彼は唇をかみしめていた。
貧困はどんどん悪化していく。
これから冬になれば、病や体調不良の方が増えるだけじゃない。
食材も手に入りにくくなるし、冬の寒さに耐えながら、外で働くのはお年寄りには厳しい。
それこそ、命を削る行為に他ならない。
35
お気に入りに追加
2,230
あなたにおすすめの小説
影の聖女として頑張って来たけど、用済みとして追放された~真なる聖女が誕生したのであれば、もう大丈夫ですよね?~
まいめろ
ファンタジー
孤児だったエステルは、本来の聖女の代わりとして守護方陣を張り、王国の守りを担っていた。
本来の聖女である公爵令嬢メシアは、17歳の誕生日を迎えても能力が開花しなかった為、急遽、聖女の能力を行使できるエステルが呼ばれたのだ。
それから2年……王政を維持する為に表向きはメシアが守護方陣を展開していると発表され続け、エステルは誰にも知られない影の聖女として労働させられていた。
「メシアが能力開花をした。影でしかないお前はもう、用済みだ」
突然の解雇通知……エステルは反論を許されず、ろくな報酬を与えられず、宮殿から追い出されてしまった。
そんな時、知り合いになっていた隣国の王子が現れ、魔導国家へと招待することになる。エステルの能力は、魔法が盛んな隣国に於いても並ぶ者が居らず、彼女は英雄的な待遇を受けるのであった。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います
かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。
現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。
一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。
【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。
癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。
レイナの目標は自立する事なのだが……。
姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました
鈴宮ソラ
ファンタジー
オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。
レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。
十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。
「私の娘になってください。」
と。
養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。
前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる