上 下
21 / 35

9-2

しおりを挟む
 殿下たちと一緒に外に出る。
 今日はとてもいい天気だ。
 雲一つない青空で、冬が近づいているけど温かい。
 少し暑いくらいだ。

「……いい空気だ」
「そうですね、父上」
「今は秋か?」
「はい。もうすぐ冬がきます。今日は比較的暖かいですが、昨日はそれなりに寒かったです」
「そうか……私が倒れてから、どれくらいの月日が経ったのだ?」
「……? 本格的に部屋から出られなくなったのは、三年ほど前からです」
「……そうか。もうそんなに経つのか」

 二人の会話を、少し離れたところから聞いている。
 国王陛下はまるで、自身が体調を崩されている間のことを、覚えていない様子だった。

「父上?」
「いや、すまない。覚えていないわけではない。ただ……ずっと夢を見ていた。まだ……彼女が生きていた頃の夢を」
「――! 父上……」
「すまないな。お前が私の代わりに、この国のために汗を流していたというのに……情けない」
「そんなことをおっしゃらないでください! 父上は必死に、病と闘っていたんです。医者も言っていました。これだけ病に侵されながら命を繋いでいるのは、父上の心の強さだと! 父上は今も、立派な国王です」

 殿下は力強く言い放ち、陛下の痩せた手を握る。
 様々な想いが殿下の表情から溢れ出ていた。

「ありがとう……アクト。そして、立派になったな」
「父上……」
「今のお前ならば、託せるだろう」
「え?」

 国王陛下は殿下の手を握り返し、優しく微笑みながら告げる。

「アクト、今日から……お前が国王だ」
「――!」

 殿下と同時に、私たちも目を丸くして驚いた。
 突然告げられた王位の継承。
 驚かないはずがない。
 私たちもだが、やはり一番驚いているのは殿下で、耳を疑っていた。

「父上? なぜ今、そんなことを言うんですか? せっかく身体もよくなったのに」
「今だからこそ、だよ。確かに病は完治したようだ。身体から、悪いものが全て消えてしまったような気さえする」
「だったらいいじゃないですか! 国民の皆も、元気な父上が見らえることを楽しみにしています」
「そうだと嬉しいな」
「間違いありません! 皆にとって、父上こそがこの国の国王なのですから」
 
 殿下は声を張り上げていた。
 病が治ったのだから、これからリハビリして落ちた体力を戻せばいい。
 そうして国王として復帰すれば、皆も喜ぶ。
 殿下はそう考えているのだろう。
 あるいは、ジンさんやシオンさんも同じ考えかもしれない。

 ただし、国王陛下は違う。
 陛下は私に視線を向けた。

「聖女様、あなたならわかっているはずですね?」
「――! イリアス?」

 殿下も私のほうへ振り向く。
 皆に注目される中、私は心苦しさを押し殺して、説明する。
 
「……殿下、確かに病は完治しました。ですが治ったのは病だけです」
「それは、どういう……」
「病によって蝕まれた時間……寿命は戻りません」
「――!」

 奇跡にも限度がある。
 例えば、死んだ人間はどれだけ本気で願おうと、蘇ることはない。
 命には終わりがあり、人に与えられた時間には限りがある。 
 それは自然の摂理であり、この世界の法則だ。
 聖女の奇跡も、この世界の法則に則っている。
 故に、失われた時間は戻らない。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

小説家になろうにて先行公開中です。
いち早く続きが見たいという方は、なろう版をご利用ください!

あらすじのURLをコピー、またPC版の方はページ下部にリンクがございます。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

処理中です...