上 下
20 / 35

9-1

しおりを挟む
 聖女の奇跡によって、国王陛下の病は完治した。
 陛下は約三年ぶりに、ベッドがある自室から外に出る。
 ずっと眠っていたから足腰が弱っていて、立つことすらできなかった。
 移動は車いすを使う。

「すまないな。アクト」
「いいんですよ。これくらいやらせてください」

 ベッドから車いすの移動、車いすを押すのも殿下が一人でやりたがった。
 気持ちはわかる。
 死を待つだけだった父親が、こうして起き上がれるようになったのだ。
 息子として、してあげられることはしたいと思うだろう。
 殿下は優しい人だった。
 ジンさんとシオンも気遣って、二人の様子を見守っている。

「外に出ますか? 今日はとてもいい天気です」
「そうだな。久しぶりに、太陽の光を浴びてみたい」
「わかりました」

 殿下は車いすを押し、国王陛下を王城の外へと連れ出す。
 その後ろを見守るように、私とジンさん、シオンさんも歩いて続く。
 私たちは二人と距離を保つ。
 家族の時間を邪魔しないように。
 自然と少し遅いペースで歩きながら、ジンさんが呟く。

「嬉しそうだな、アクトのやつ」
「そうですね。気持ちはとてもわかります」
「だな。そういうお前も、機嫌がよさそうだな?」
「ジンもですよ。ニヤついています」
「ははっ、しょうがないだろ? こんなに嬉しいことがあるかよ」
「ええ」

 殿下と陛下を見守る二人の視線から、慈愛の気持ちを感じ取る。
 まるで我が子の成長を見守る両親のようだ。
 二人とも嬉しくて、本当ならもっと近づきたいという気持ちを、殿下の邪魔をしないようにと気を遣っている。
 殿下だけじゃない。
 この二人も、すごく優しい心の持ち主だ。

「ありがとな。イリアス」
「イリアス様のおかげで、この国の未来に光が見えました。心から感謝いたします」

 二人は私に向かって頭を下げる。
 そんな二人に私は首を振る。

「私の力ではありません。皆さんの祈りが本物だったから、国王陛下は回復されたのです」
「何言ってんだ。聖女の力、イリアスのおかげだろ?」
「いいえ。聖女の力は、奇跡を起こすきっかけを作るだけです。祈りに込められた想いが偽物なら、どれだけ願っても奇跡は起きません」
「そういうものなのですか?」
「はい」

 勘違いをしている人は多いだろう。
 聖女とは神様の代弁者だ。
 私にできることは、人々の祈りを集めて神様に届けること。
 奇跡が起こるか否かは、祈りが本物かどうかで決まる。
 お願いした通り、彼らは心から願ってくれた。
 国王陛下の回復を。
 
「だから奇跡は起こったのです。私一人では、奇跡は起こせませんから」
「だとしても、そのきっかけをくれたイリアスには感謝しているよ」
「そうですね。イリアス様がこの国に来てくださったことこそ、神様が起こしてくださった奇跡だと思っています」
「まさに運命だな!」
「はい」
「……そうだといいですね」

 私がスパーク王国を追放され、この国にたどり着いたことが運命だとしたら……。
 これまで頑張ってきた時間は何のためにあったのだろう?
 ふと、そんなことを考えてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

両親と妹から搾取されていたので、爆弾を投下して逃げました

下菊みこと
恋愛
搾取子が両親と愛玩子に反逆するお話。ざまぁ有り。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

処理中です...