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「お待たせ。つれてきたぞ」
「失礼します。お呼びですか? アクト様」
「ああ、紹介するよ。彼女がシオンだ」

 現れたのは黒髪にメイド服を着た小柄な女性だった。
 身長は私よりも低く、少し幼さが感じられる容姿で、一言で表現するなら……お人形のようだ。
 視線が合う。

「あなたがイリアス様ですね」
「――!」

 彼女も私のことを知っている?

「来る途中に軽く説明はしておいたぞ」
「助かるよ。何度も説明すると、イリアスにも迷惑だからな」
「いえ、そんなことは……初めまして、シオンさん。イリアスです」
「はい、初めまして。アクト様の専属メイドを任されております、シオンです」
「専属とはしているが、彼女には王城内での仕事の大半を任せているんだ」

 殿下が補足説明をしてくれた。
 メイドのシオン。
 彼女も二人と同じ幼馴染であり、幼い頃から王族に仕える使用人の一族として教育を受けている。
 年齢は二人よりも年下で、今年に十九歳になったばかりらしい。
 私よりも一つ年下だった。

「シオン、君にはしばらく、彼女の補佐をお願いしたいんだ。頼めるか?」
「かしこまりました」
「ありがとう。シオンが一緒なら俺も安心だ」
「俺たちはずっと一緒にいられるわけじゃないからな」

 と、ジンさんが肩の力を抜いて呟いた。
 二人とも忙しい立場にある。
 第一王子とその補佐なら、本来であればこうして暢気に話している時間すら勿体ないだろう。
 私のために時間を作ってくれていると思うと、改めて申し訳ない気分だ。

「ありがとうございます。私のためにここまでして頂いて」
「まだ何もしていないぞ? むしろ俺たちのほうが貰うものが多い。聖女が来てくれたというだけで、安心感が違うからな」
「だよな。ちょうど時期的にもあれが流行るし、聖女がいてくれたら国民も安心するだろ」
「ああ、それに……」

 唐突に、殿下が暗い表情を見せる。
 その表情にジンさんが気づき、合わせるように言う。

「アクト、せっかく聖女の彼女がいるんだ。相談してみたらどうだ?」
「私もそう思います」
「ああ、そのつもりではいるよ」
「……?」

 よく見ると、三人とも暗い表情をしていた。
 何か悩みを抱えているのだろう。
 それも個人ではなく、三人に共通する悩みがあると予想した。
 殿下は真剣な表情で私を見る。

「イリアス、聖女として活動してもらうのは明日以降になる。だがその前に一人、君の力で見てほしい人がいるんだ」
「はい。構いませんが、どなたですか?」

 この三人の誰か?
 見るからに三人とも健康体で、どこも悪いようには見えないけど……。
 殿下は言いづらそうに拳に力を込める。

「……俺の父だ」
「――! 殿下のお父様……」

 つまり、スローレン王国の現国王。
 殿下やジンさん、シオンさんの表情から読み取れるのは、不安と悲しみ。

「何かあったのですか? 国王陛下に」
「……ああ、父上は……病気なんだ。ずっと前から体調を崩している」
「そう……だったのですね」

 知らなかった。
 隣国の事情だから当然かもしれないが、仮にも国王が病に倒れていることを。
 
「案内しよう。話は歩きながらで構わないか?」
「はい。行きましょう」

 こうして私たちは、国王陛下の部屋に向かって歩き出した。
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