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「わかりました。すぐに出ていきます。今までありがとうございました」

 そう思うとスッキリして、追放してくれる彼らにも感謝の気持ちが湧いてきた。
 聖女を辞めるきっかけを作ってくれた二人に、私は頭を下げる。

「マリィ……? 急にどうしたんだい? 頭がおかしくなったのかい?」
「そうかもしれませんね」
「何を……」

 清々しい気分だ。
 悪態をつかれても、気にしなくていい。
 どうせもう聖女じゃない。
 その役目は、偽者が代わってくれるそうだから。

「マリィさん……いえ、イリアスさんですね」
「え、ええ、そうよ。私がイリアスよ」
「頑張ってください。聖女の役目は大変ですけど、やりがいはありますから」
「そ、そんなこと言われなくてもわかっているわ。偽者はあなたよ」
「はい。それで構いません」

 本物とか偽者とか、もうどうでもよかった。
 私は解放される。
 もう義務感や仕事で、祈りを捧げなくてもいいんだ。
 酷い話ではあるけれど、私は身体が軽くなったように感じた。

「お世話になりました。それでは失礼します」
「あ、ああ」
「さようなら。マリィさん」
「はい。本当に頑張ってくださいね? イリアスさん」

 これから大変になるであろう彼女に、同情と少しの意地悪を込めて別れの言葉を告げた私は、振り返ることなく大聖堂を出ていく。
 外は快晴だった。
 早朝の朝日が私を照らしている。
 
「さぁ、どこに行こうかな」

 自由をもらい、私は歩き出す。
 こうして聖女としての人生ではなく、私の人生を歩み始めた。
 その足取りは、軽やかだった。


  ◇◇◇

 マリィ……ではなく、本物のイリアスが立ち去った大聖堂に、マリィとライゼンが残る。
 彼女が去った扉をじっと見つめ、唖然としていた。

「ライゼン様……彼女はどういうつもりで、あんな顔を……?」
「僕にもわからないよ。きっと突然のことで気がおかしくなったのさ。そうじゃなきゃ、あんな態度をとれるはずがない。居場所をなくしたんだからね」
「そうですね。きっと強がりです。私にこの座を奪われて、今頃泣いているかもしれません」
「ははっ、だとしたらどうする?」
「どうもしませんわ。これが本来あるべき姿です。陛下もお父様も了承しています。名をイリアスに変えるのは、少し残念ではありますが……」

 今回の一件、すべては計画されたものだった。
 宮廷に在籍する魔導具師の手によって作られた偽りの奇跡を起こす腕輪。
 疑似的に聖女の力を再現しているだけで、原理は魔法である。
 イリアスが感じた違和感は正しかった。
 これは聖女の力などではない。
 人知を超えない魔導具技術、その進化の形である。

 マリィとイリアスの入れ替わりは、王族とノーマン家も同意している。
 彼らはずっと思っていた。
 これこそが、正しき聖女と国の形なのだと。
 縁もゆかりもない田舎娘が聖女の座につくなど、あってはならないと。
 故に、彼らに罪悪感はない。

「さぁ、そろそろ時間だ。聖女としてしっかり働いてもわなくてはね」
「はい。頑張りますわ。いつも通りに」

 こうしてスパーク王国に史上初となる偽りの聖女が誕生した。
 国民がそのことをに気付くのは、まだまだ先の話である。
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