2 / 11
2
しおりを挟む
「もちろん嫌いだったわけじゃない。君は真面目だし、容姿も悪くない。特にその桃色の髪は珍しくて綺麗だと思っていたよ」
彼はゆっくり手を伸ばし、私の髪に優しく触れる。
桃色の髪は珍しく、こうした大勢集まる場でもよく目立つ。
今までも彼はよく褒めてくれた。
他人と違う髪はコンプレックスだったけど、彼が褒めてくれるから誇りに思えた。
「けどね……」
彼はさらりと、私の髪から手を放す。
そうして人が変わったように、冷たい視線で私を見下す。
「ずっと見ていたら飽きてしまったよ」
「マルク……様?」
「改めて気づいたよ。君の魅力はその珍しい髪くらいだ。それ以外は何もない。君と一緒にいても楽しくない。つまらないんだ」
「え……」
突然始まる罵倒に私は困惑する。
いつも優しい言葉をかけてくれる彼から、聞いたことのない罵倒が聞こえる。
「まだ没落前だったらよかったよ? 地位はあるし、お金もある。将来性もあったからね? けど今はどうかな? 没落した今の君は、貴族の癖に街で働いている。君が周りでなんと呼ばれているか知っているかい? 貧乏令嬢だよ」
「貧乏……令嬢……」
「そう。まったくその通りだと思ったよ。今の君は一般人となんら変わらない。君と僕とじゃ、もう釣り合わないんだ」
出会って十数年、婚約者となって五年。
分かり合っていると思っていたのは一方通行で、初めて知る彼の本音……本質。
ある意味貴族らしい考え方だった。
地位や威厳を何より大事にすることは、貴族では当たり前の考え方ではある。
ただし彼の場合はそれだけじゃなくて、彼自身の好みも入ってくる。
「君がもっと女性として魅力的ならよかったのだけどね? 生憎君より魅力的な女性はたくさんいる。この会場を見てごらん? 君が張り合えるのはせいぜいその髪だけだろう?」
彼は大げさに両腕を広げてアピールする。
いつの間にか彼の周りにはたくさんの令嬢が集まっていた。
知っている顔もあれば、知らない顔もある。
その中の一人……特に煌びやかで目立つ格好をしている金髪の女性が、マルク様の隣に立つ。
徐にマルク様は彼女の肩に手を回す。
「紹介するよ。彼女が僕の新しい婚約者、レティシアだ」
「ごきげんよう、アイリスさん」
彼女はニコリと微笑む。
よくできたガラス細工みたいな瞳で、私のことをじっと見つめる。
表の笑みに隠れて、瞳の奥で私のことをあざ笑っているように見えて、胸がチクチクと痛い。
レティシア・ミストレイン公爵令嬢。
私の家が没落してから交流を持つようになり、ことあるごとに私のことを馬鹿にするような陰口を言っていた人だ。
よりによってこの人と……いいや、だからこそだろう。
彼女が影でマルク様にアプローチしていることは知っていたし、マルク様とよく二人で会っている姿を見ている。
告げられたのは唐突だけど、思い返せば今に始まったことじゃない。
ずっと前から……こうなることはわかっていたんだ。
彼はゆっくり手を伸ばし、私の髪に優しく触れる。
桃色の髪は珍しく、こうした大勢集まる場でもよく目立つ。
今までも彼はよく褒めてくれた。
他人と違う髪はコンプレックスだったけど、彼が褒めてくれるから誇りに思えた。
「けどね……」
彼はさらりと、私の髪から手を放す。
そうして人が変わったように、冷たい視線で私を見下す。
「ずっと見ていたら飽きてしまったよ」
「マルク……様?」
「改めて気づいたよ。君の魅力はその珍しい髪くらいだ。それ以外は何もない。君と一緒にいても楽しくない。つまらないんだ」
「え……」
突然始まる罵倒に私は困惑する。
いつも優しい言葉をかけてくれる彼から、聞いたことのない罵倒が聞こえる。
「まだ没落前だったらよかったよ? 地位はあるし、お金もある。将来性もあったからね? けど今はどうかな? 没落した今の君は、貴族の癖に街で働いている。君が周りでなんと呼ばれているか知っているかい? 貧乏令嬢だよ」
「貧乏……令嬢……」
「そう。まったくその通りだと思ったよ。今の君は一般人となんら変わらない。君と僕とじゃ、もう釣り合わないんだ」
出会って十数年、婚約者となって五年。
分かり合っていると思っていたのは一方通行で、初めて知る彼の本音……本質。
ある意味貴族らしい考え方だった。
地位や威厳を何より大事にすることは、貴族では当たり前の考え方ではある。
ただし彼の場合はそれだけじゃなくて、彼自身の好みも入ってくる。
「君がもっと女性として魅力的ならよかったのだけどね? 生憎君より魅力的な女性はたくさんいる。この会場を見てごらん? 君が張り合えるのはせいぜいその髪だけだろう?」
彼は大げさに両腕を広げてアピールする。
いつの間にか彼の周りにはたくさんの令嬢が集まっていた。
知っている顔もあれば、知らない顔もある。
その中の一人……特に煌びやかで目立つ格好をしている金髪の女性が、マルク様の隣に立つ。
徐にマルク様は彼女の肩に手を回す。
「紹介するよ。彼女が僕の新しい婚約者、レティシアだ」
「ごきげんよう、アイリスさん」
彼女はニコリと微笑む。
よくできたガラス細工みたいな瞳で、私のことをじっと見つめる。
表の笑みに隠れて、瞳の奥で私のことをあざ笑っているように見えて、胸がチクチクと痛い。
レティシア・ミストレイン公爵令嬢。
私の家が没落してから交流を持つようになり、ことあるごとに私のことを馬鹿にするような陰口を言っていた人だ。
よりによってこの人と……いいや、だからこそだろう。
彼女が影でマルク様にアプローチしていることは知っていたし、マルク様とよく二人で会っている姿を見ている。
告げられたのは唐突だけど、思い返せば今に始まったことじゃない。
ずっと前から……こうなることはわかっていたんだ。
35
お気に入りに追加
508
あなたにおすすめの小説
弟との婚約を破棄した伯爵令嬢に『泥』を塗り付けてやります。絶対に許しません。
冬吹せいら
恋愛
子爵令嬢であるハナン・オズベルは、ある日弟のレイダー・オズベルが、伯爵令嬢との婚約を破棄されたことに腹を立て、復讐を誓う。
伯爵令嬢は、ハナンに復讐をされても、全く反省しようとしない。
ついにハナンは、最終手段を取ることにした……。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい
カレイ
恋愛
公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。
聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。
その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。
※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。
勇者惨敗は私(鍛冶師)の責任だからクビって本気!? ~サービス残業、休日出勤、日々のパワハラに耐え続けて限界! もう自分の鍛冶屋を始めます~
日之影ソラ
恋愛
宮廷鍛冶師として働く平民の女の子ソフィア。彼女は聖剣の製造と管理を一人で任され、通常の業務も人一倍与えられていた。毎日残業、休日も働いてなんとか仕事を終らせる日々……。
それでも頑張って、生きるために必死に働いていた彼女に、勇者エレインは衝撃の言葉を告げる。
「鍛冶師ソフィア! お前のせいで僕は負けたんだ! 責任をとってクビになれ!」
「……はい?」
サービス残業に休日出勤、上司に勇者の横暴な扱いにも耐え続けた結果、勇者が負けた責任をかぶせられて宮廷をクビになってしまう。
呆れを通り越して怒りを爆発させたソフィアは、言いたいことを言い放って宮廷を飛び出す。
その先で待っていたのは孤独の日々……ではなかった。
偶然の出会いをきっかけに新天地でお店を開き、幸せの一歩を踏み出す。
婚約破棄されたイライラを魔法で発散していたら、隣国の騎士様にべた惚れされました
日之影ソラ
恋愛
魔法騎士団最高の魔法使いエレメス。彼女は女性でありながら魔法使いとして秀でた才能を持ち、努力の末に最も優れた魔法使いと呼ばれるまでに至った。
少しでも国やみんなの役に立てるように、自分を認めてくれない親に自分の存在を認めさせるために。
しかし、彼女の努力は報われなかった。
信じていた婚約者から突然の婚約破棄を言い渡され、可愛いだけの妹に奪われてしまう。
強すぎて化け物みたいな君を女性として見られない?
ふざけないで!
苛立ちを魔物退治にぶつけている姿は常人離れしていた。
だけどそんな姿をただ一人、美しいと言ってくれる騎士様が現れて……。
【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた
堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」
ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。
どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。
――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。
ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。
義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。
第一王子の婚約者選び→選ばれたのは伯爵令嬢じゃなくてその侍女!?
サイコちゃん
恋愛
この国では第一王子が貴族の娘に試験を行い、婚約者を選ぶという風習がある。影で侍女を虐めている伯爵令嬢マルチナはその試験を完璧にこなした。自分が選ばれるに違いないと期待する中、第一王子は言い放った。「僕はこの家の侍女アデルを婚約者にしようと思う」――その言葉にマルチナと伯爵は唖然となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる