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 鍛冶場も完成し、店構えも後は微調整だけになった。
 お店のほうはグレン様が手配してくれた業者に任せ、私は鍛冶仕事に専念する。
 当たり前だけど、お店を始めるなら商品を用意しなければならない。
 私のお店なのだから、他人が作った剣は一つも置けない。
 素材はある、道具もある、あとは作るだけだ。 

「頑張らないと!」

 私はパンと気合を入れるように頬を叩く。
 グレン様や騎士の方々のおかげで、最高の仕事環境は手に入れた。
 不安はない。
 不満もない。
 全身全霊で恩返しができるように、私は鍛冶師として剣を打とう。

 素材を選定し、作る物を決めて作業に取り掛かる。
 始めてしまえば普段通りだ。
 慣れた手つきで鍛冶仕事を開始する。
 集中している時の私は、周りの音が聞こえなくなる。
 必要な情報以外は全てキャンセルされて、一本の剣に全霊を注ぐ姿勢となる。
 こうなったら自分でも、集中を途切らせることは難しい。

 作業開始から八時間後――

「ふぅ……あれ、もう夜だ」

 外を見ると、すでに夕日すら沈んでしまっていた。 
 空には月と星々が輝いている。
 時間を忘れて仕事に集中してしまって、お昼ご飯を食べるのも忘れてしまっていた。
 今になってお腹が空腹を思い出し、ぐーと音がなる。

「お腹空いた……ご飯にしよう」

 今日のお仕事はこれで終わり。
 片づけをして、今度は屋敷のキッチンへと足を運ぶ。
 鍛冶場が完成したことをきっかけに、私はこの家で暮らすことになった。
 グレン様は寂しそうに、もう少し王城にいてもいいのにと言ってくれたけど、仕事を始めるなら鍛冶場に近い住居のほうが便利だ。
 その分、王城と距離が離れたことで、グレン様と会う回数は減ってしまっている。
 今日もお忙しいのか、顔を見ていない。
 
「……」

 あれ? 
 もしかして今、私は寂しいと思ったのだろうか?
 誰かに会えないことが……。
 こんなの初めてだ。

「明日は来てくれるかな……」

 そんなことを考えながら一日を終えた。

  ◇◇◇

 翌日。
 今日も朝から仕事を開始する。
 回転予定日は二週間後に決めていた。
 簡単だけどチラシも作って、街の掲示板にも張り付けてある。
 声をかけた冒険者のお客さんだけじゃなく、他の方も興味を持ってくれるように。
 何事も最初が肝心だから、開店日までには待合せたい。
 理想とするお店の造形に。

「今日中に剣は仕上げて、あ、防具も作らないと。それから……」

 やりたいことはたくさんある。
 武器や防具だけじゃなくて、一般の方が利用する包丁なんかもデザインしたいと思っていた。
 剣は戦うための道具だけど、刃物すべてがそうであるわけじゃない。
 使う場面は多岐に渡る。
 日常の中で使われる刃物も、私が作りたいものの一つだ。

 昔、とあるきっかけで『親切』という言葉の意味を調べた。
 親切の意味と、漢字の構成があっていないのが気になったからだ。
 親しく優しいことを示すのに、親を切る?
 どうやら切るという感じは刃物を表しているらしい。
 刃物に直接触れるほど身近である、というのが親切に込められた意味だそうだ。
 刃物は文字通りよく切れる刃、危険なもの。
 しかし私たちの生活に、刃物は必要不可欠なものとなっていた。
 親切という感じは、刃物と人間の関係性を示していると、私は勝手に解釈している。
 
 私はもっと、刃物を身近なものにしたい。
 怖いだけじゃない。
 危険なだけじゃない。
 刃物は便利で、剣士でなくとも相棒になれると。

「――なんて、夢を想うだけなら許されるよね」

 たとえ何年、何十年かけても不可能だとしても。
 私はこの夢を抱き、追い続ける。
 そのための第一歩が、この鍛冶場から始まる。
 手は抜けない。
 今日も、明日も、明後日も全力で、剣に全てを捧げよう。
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