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 前世も含めて四十年にも満たない人生。
 長いようで短いようで、でもどちらも女性として生まれ育った。
 一度もなかった。
 ナンパとか、それこそ空想の出来事だと思っていた。
 ちょっぴり感動する。

 ただ……。
 どう見てもまともな人たちじゃない。
 冒険者だからじゃなくて、視線がわかりやすく向けられている。
 ある意味、こんな鍛冶ばかりしている私にも、女性としての魅力があるという証明にはなったけど、正直複雑な気分だ。
 とりあえず丁重にお断りしよう。

「すみませ――」
「おいお前たち、俺の女を口説くとはいい度胸をしているな」

 と思ったけど、私より先に声を出した人がいた。
 今さら気づく。
 グレン様が一緒にいて、この状況で、彼が黙って見ているわけがないだろうと。
 
「あん? なんだてめぇ、こいつの男か?」
「そうだが?」

 違いますよ!
 国王陛下のご相手なんて恐れ多い。
 というよりこの人すごい度胸だなぁ。
 相手は魔王と呼ばれている凄い人なのに……あ、偽装の魔法があるから気づいていないんだ?
 喧嘩腰には喧嘩腰に。
 そうやって相対したのが、世界最強の魔法使いであることに。
 だから大男は平然とグレン様を睨む。

「優男が、調子に乗ってやがるな。嬢ちゃん、こんなヒョロガリはやめて俺たちと遊ぼうぜ」
「お前こそ、図体がデカいでただの的だ」
「なんだと……てめぇ、喧嘩売ってんのか?」
「この俺と喧嘩が成立するほどの相手か? お前が」

 大男の挑発を何倍にも膨らませて返すグレン様。
 体格ではグレン様が劣るけど、その太々しさや態度は引けを取らない。
 当然だろう。
 きっと驚くはずだ。
 偽装の魔法が消えた時、この人はどんな反応をするのだろうか。
 だがもちろん、大男は気づかない。
 気づかぬまま、挑発に苛立って拳を力いっぱい握り、振り上げる。

「この――!?」

 振り上げた拳がピタッと止まる。
 彼が止めたわけではなかった。
 振り下ろそうとしても、動かないのだ。
 殿下が魔法で止めている。

「ここは店の中だ。暴れると迷惑だぞ?」
「っ……こいつ……」
「他の二人もだ」

 加勢しようと動いた二人を、先手で止めた。
 どんな魔法を使ったのか見えなかったけど、さすがグレン様だと思う他ない。

「お前たちには戦うほどの価値はない。だから親切だと思え。まず彼女はここでは客だが、ただの女性ではない。鍛冶師だ」
「鍛冶師……?」

 男たちはグレン様に止められながら、私のほうに視線を向けて驚く。
 私はどうも、という風に頭を軽く下げた。
 
「いずれ店を出す。お前たちも冒険者なら、彼女は敵に回さないほうがいいぞ」
「……ぷっ、女が鍛冶師? 本気で言ってんのか?」
「――!」

 大男が私を見て笑った。
 嘲笑った。
 それに私がピクリと反応する。

「おいおい、マジか? 女が鍛冶師なんて聞いたことねーよ。誰が行くか、女鍛冶師の店なんて! そんな細腕で作った剣なんて簡単に折れちまうよ」
「お前たちは……」

 グレン様は呆れていた。
 人を見た目で判断する彼らの浅はかさに。
 でも、それ以上に私は……。

「なら、試してみますか?」
「あ?」
「ソフィア?」

 腹が立った。
 気づけば勝手に、口が動いていた。
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