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「こちらになります」
「ありがとうございます」
「中へどうぞ。陛下がお待ちです」
「はい」

 メイドさんが扉を開けてくれて、私は食堂へと入る。
 長いテーブルが一つに、椅子が前後左右に合計五つ用意されていた。
 一番奥の席に、すでに一人座っている。
 視線が合い、彼は微笑む。

「おはよう、ソフィア」
「お、おはようございます! グレン様」

 本日二度目の、夢じゃないんだと実感する瞬間がやってきた。
 グレン・ヴァールハイト様。
 ヴァールハイト帝国の王にして、魔王と呼ばれる人。
 私はこの人に連れられて、敵国であるこの地に足を踏み入れた。

「いつまで立っているつもりだ? 座ったらいい」
「は、はい。すみません。えっと……」

 どの席に座ればいいのだろうか?
 グレン様から一番遠い席が妥当かな?
 この世界でも、上座下座の概念があるのか。
 悩んでいると、グレン様は指をさす。

「そこでいい」
「はい!」

 指定されたのは、グレン様に一番近い席の片方だった。
 座ってから改めて悩む。
 この席でいいのか。
 グレン様に近い席って、親族の方が座ったり、近しい人が座る場所じゃ……。

「気にするな。そこは誰も使っていない席だ」

 私の不安を見透かすように、グレン様が教えてくれた。

「そ、そうなんですね」

 ホッと胸をなでおろす。
 そこへシェフの方が歩み寄り、グレン様に尋ねる。

「ご用意をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。二人分頼む」
「かしこまりました」

 二人分……。
 改めて部屋の中を確認して、私と陛下しかいないという当たり前のことに気づく。
 他の方は朝食を一緒に取らないのだろうか。
 ご家族とか、昨日挨拶をしてくれたレーゲンさんは?
 キョロキョロしていると、ふいにグレン様と視線が合ってしまった。

「あ、あの」
「聞きたいことがあるなら聞いてくれて構わないぞ?」
「はい。えっと、他の方はいらっしゃらないのですか?」
「ここを使うのは王族だけだ。妹がいるが、今は外に出ていていない。だから俺たちだけだ」

 グレン様は淡々と説明してくれた。
 王族が食事する場所に、私みたいな部外者がいても大丈夫なのか、とか。
 妹さんがいたことを初めてしったとか。
 ご両親は……?
 とかいろいろ一瞬で思ったけど、何を聞いても許されるのかわからなくて、数秒の沈黙を生む。

「聞きたいことは聞いていい。そう言ったはずだぞ」
「――!」

 また見透かされたようにグレン様がそう言ってくれた。
 私は許されて心が軽くなり、疑問を一つずつ口に出す。

「ご両親は?」
「二人とも十年ほど前に亡くなっているよ。知らなかったか?」
「す、すみません! 鍛冶のお仕事のことで頭がいっぱいで」
「ははっ、お前らしいな」

 そう言って彼は笑う。
 ヴァールハイト帝国は敵国、その情報は制限されている。
 王族の家族構成なら、調べらればすぐわかっただろう。
 私は興味がなかったし、十年前は鍛冶の修行で手いっぱいだったから。
 ご両親は病死されたらしい。
 当時は珍しい病で完治できず、治療法が確立されるまで身体がもたなかった。
 と、グレン様が続けて教えてくれた。

「だから俺が王になった。妹はまだ幼なかったからな」
「それは……」

 グレン様も同じはずだ。
 十年前なら、グレン様も子供だっただろう。
 幼くして王座につくしかなかった。
 どれほどの重圧、苦悩、不安があったのか、一般人の私には計り知れない。
 両親を早くに失ったこと。
 一瞬、自分と近い境遇なのかと勘違いしてしまったのが恥ずかしい。
 私には祖父がいたし、なんだかんだ恵まれている。

「聞きたいことは終わりか?」
「あ、えっと、ここって王族の方が食事する場所なんですよね?」
「そうだ」
「わ、私なんかが一緒で大丈夫なんですか?」

 私が質問すると、グレン様は呆れたように笑う。

「ふっ、何を今さら。お前はいずれ俺の妻になる。何の問題もない」
「な、なるほど……」

 グレン様がそれでいいなら、私はこれ以上何も言えない。
 
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