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一方その頃。
希望に満ちたスタートを果たすソフィアに対して、絶望する男が一人。
「ど、どういうことなんだ!」
勇者エレインは顔を真っ赤にしていた。
怒っているから、ではなく、力を込めているから。
「ぬ、抜けない……」
聖剣を引き抜こうとして、失敗する。
どれだけ力を込めても、ピクリとも反応しない。
「はぁ……はぁ……どうなっている? なんで急に……」
彼は知らない。
ソフィアが残した試練、嫌がらせとは。
聖剣を限定付きで魔剣に作り替えること。
その効果は、剣を抜くに値する実力を持つ者しか、鞘から剣を抜くことができない。
剣を引き抜き初めて、封印されし魔剣は聖剣へと戻る。
要するに、勇者として未熟者では聖剣も抜けないんだよ、バーカという気持ちが込められていた。
案の定、エレインは剣を抜けない。
今までどれだけ、聖剣の性能に頼っていたのかがハッキリわかる。
「まさか、ソフィアの仕業か? 僕に嫌がらせをするなんて……許せない」
怒り心頭。
当然のことだが、ソフィアもただ嫌がらせをしたわけじゃない。
もし彼が剣を抜くことができれば、聖剣はより強靭に、大きな力を発揮するよう進化を果たす。
言い換えればこれは強化だ。
エレインが勇者として成長していれば何の問題もなく、世界最高の聖剣となるはずだった。
「ソフィアアアアアアアアアアア!!」
彼は気づいていない。
自分の未熟さに。
ソフィアという鍛冶師の存在が、どれほど自分を、王国を支えていたのかを。
彼はさらに絶望することになるだろう。
聖剣の鍛冶師が、魔王の元にいると知れば。
◇◇◇
人生何が起こるかわからない。
異世界に転生した時もすごく驚いたけど、あの時と似た驚きが私の身体を駆け抜ける。
トンと優しく、私を抱きかかえた魔王様は着地する。
彼が治める国に。
国の象徴たる城の敷地内に。
そう、ここがいわゆる魔王城ということだ。
「到着だ」
「……」
「どうかしたのか? 城なら飽きるほど見慣れているだろう?」
「いえ、お城は普通なんですね」
魔王のお城だから、どれだけ禍々しい場所なのかと想像していたけど、私が少し前まで働いていたお城となんら変わらない。
規模も、外観もよく似ている。
違いがあるとすれば、色合いが少し暗めということくらいか。
「なんだ? 俺の城に不満か?」
「い、いえ! 滅相もありません!」
「ふっ、そう畏まるな。思ったことは素直に口に出せばいい。誰も咎めることはない」
「は、はぁ……」
想像と違ったのは城だけじゃない。
彼のこともだ。
魔王なんて呼ばれているから、どんな恐ろしい人なのかと想像していたけど……。
こうして話してみると、ちょっぴり気が強そうなだけで、普通に優しい王様って感じがする。
「では行くぞ。ついてこい」
「は、はい!」
私は彼の後を歩く。
大きな背中を眺めながら、空高く舞い上がり、世界を見下ろしながら告げられた言葉を思い返す。
――お前を俺の婚約者にしたい。
あれは聞き間違えだったのだろうか。
まさか、天下の魔王様が私みたいな一般人を婚約者にしたいとか、意味不明なことをいう訳がないし。
それじゃまるで、私は鍛冶師じゃなくて白雪姫だ。
小間使いから王子様と結婚。
女の子なら誰でも一度は憧れたであろうあの童話のようには――
「皆に紹介しないとな。俺の婚約者だと」
「え……」
二度見ならぬ二度聞きをしたい気分になる。
聞き間違えじゃない?
私は耳を疑うと、魔王様は立ち止まって振り返る。
ちょっぴり不服そうだ。
「なんだその反応は」
「あ、えっと、冗談じゃ……」
「冗談で婚約者を選ぶ愚か者に見えるか?」
「そ、そんなことは!」
「ふっ、冗談ではない。俺は本気だ」
「……」
その瞳から、態度から、言葉から伝わってくる。
彼は本気なのだと。
まっすぐと私のことを見つめている。
馬鹿にしていたり、からかっているわけじゃない。
本心から私を……。
「なんで……」
「言っただろう? お前のことが気に入った。才能に溢れ、地位や名誉に固執しない。自分が描いた夢を追い求めている。俺と同じだ」
「魔王様と?」
「グレンと呼べと言っただろう? ソフィア」
「――! はい、グレン様」
私は初めて名前を呼んだ。
すると、グレン様はちょっぴり照れくさそうに笑い、私に背を向けて歩き出す。
私も置いていかれないように、彼の後を追う。
希望に満ちたスタートを果たすソフィアに対して、絶望する男が一人。
「ど、どういうことなんだ!」
勇者エレインは顔を真っ赤にしていた。
怒っているから、ではなく、力を込めているから。
「ぬ、抜けない……」
聖剣を引き抜こうとして、失敗する。
どれだけ力を込めても、ピクリとも反応しない。
「はぁ……はぁ……どうなっている? なんで急に……」
彼は知らない。
ソフィアが残した試練、嫌がらせとは。
聖剣を限定付きで魔剣に作り替えること。
その効果は、剣を抜くに値する実力を持つ者しか、鞘から剣を抜くことができない。
剣を引き抜き初めて、封印されし魔剣は聖剣へと戻る。
要するに、勇者として未熟者では聖剣も抜けないんだよ、バーカという気持ちが込められていた。
案の定、エレインは剣を抜けない。
今までどれだけ、聖剣の性能に頼っていたのかがハッキリわかる。
「まさか、ソフィアの仕業か? 僕に嫌がらせをするなんて……許せない」
怒り心頭。
当然のことだが、ソフィアもただ嫌がらせをしたわけじゃない。
もし彼が剣を抜くことができれば、聖剣はより強靭に、大きな力を発揮するよう進化を果たす。
言い換えればこれは強化だ。
エレインが勇者として成長していれば何の問題もなく、世界最高の聖剣となるはずだった。
「ソフィアアアアアアアアアアア!!」
彼は気づいていない。
自分の未熟さに。
ソフィアという鍛冶師の存在が、どれほど自分を、王国を支えていたのかを。
彼はさらに絶望することになるだろう。
聖剣の鍛冶師が、魔王の元にいると知れば。
◇◇◇
人生何が起こるかわからない。
異世界に転生した時もすごく驚いたけど、あの時と似た驚きが私の身体を駆け抜ける。
トンと優しく、私を抱きかかえた魔王様は着地する。
彼が治める国に。
国の象徴たる城の敷地内に。
そう、ここがいわゆる魔王城ということだ。
「到着だ」
「……」
「どうかしたのか? 城なら飽きるほど見慣れているだろう?」
「いえ、お城は普通なんですね」
魔王のお城だから、どれだけ禍々しい場所なのかと想像していたけど、私が少し前まで働いていたお城となんら変わらない。
規模も、外観もよく似ている。
違いがあるとすれば、色合いが少し暗めということくらいか。
「なんだ? 俺の城に不満か?」
「い、いえ! 滅相もありません!」
「ふっ、そう畏まるな。思ったことは素直に口に出せばいい。誰も咎めることはない」
「は、はぁ……」
想像と違ったのは城だけじゃない。
彼のこともだ。
魔王なんて呼ばれているから、どんな恐ろしい人なのかと想像していたけど……。
こうして話してみると、ちょっぴり気が強そうなだけで、普通に優しい王様って感じがする。
「では行くぞ。ついてこい」
「は、はい!」
私は彼の後を歩く。
大きな背中を眺めながら、空高く舞い上がり、世界を見下ろしながら告げられた言葉を思い返す。
――お前を俺の婚約者にしたい。
あれは聞き間違えだったのだろうか。
まさか、天下の魔王様が私みたいな一般人を婚約者にしたいとか、意味不明なことをいう訳がないし。
それじゃまるで、私は鍛冶師じゃなくて白雪姫だ。
小間使いから王子様と結婚。
女の子なら誰でも一度は憧れたであろうあの童話のようには――
「皆に紹介しないとな。俺の婚約者だと」
「え……」
二度見ならぬ二度聞きをしたい気分になる。
聞き間違えじゃない?
私は耳を疑うと、魔王様は立ち止まって振り返る。
ちょっぴり不服そうだ。
「なんだその反応は」
「あ、えっと、冗談じゃ……」
「冗談で婚約者を選ぶ愚か者に見えるか?」
「そ、そんなことは!」
「ふっ、冗談ではない。俺は本気だ」
「……」
その瞳から、態度から、言葉から伝わってくる。
彼は本気なのだと。
まっすぐと私のことを見つめている。
馬鹿にしていたり、からかっているわけじゃない。
本心から私を……。
「なんで……」
「言っただろう? お前のことが気に入った。才能に溢れ、地位や名誉に固執しない。自分が描いた夢を追い求めている。俺と同じだ」
「魔王様と?」
「グレンと呼べと言っただろう? ソフィア」
「――! はい、グレン様」
私は初めて名前を呼んだ。
すると、グレン様はちょっぴり照れくさそうに笑い、私に背を向けて歩き出す。
私も置いていかれないように、彼の後を追う。
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