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しおりを挟む「それに、最初に攻めてきたのはリヒト王国だ」
「そうなんですか?」
「そうだぞ。今の国王は随分と欲深い。残る土地まで奪おうとして戦争を仕掛けてきた。返り討ちにしたがな」
知らなかった。
私たち国民には真実がわからないように隠蔽されていたのだろう。
それを知ると、確かに侵略戦争ではない。
むしろ侵略者はリヒト王国だ。
「俺は国を立て直している途中だ。優秀な人材がほしい。つまりお前だ」
「私に……ヴァールハイト帝国で働けということですか?」
「そういうことだ。お前はすでに、我が国に対して素晴らしい恩恵をもたらしている。故にその褒美を先にやろう」
「素晴らしい成果……あ」
勇者に与えた試練のことか。
確かに、知らずのうちに私はヴァールハイト帝国に貢献している。
「望むものがあるなら叶えよう。金か? 名誉か? それとも……なんでもいい」
「なんでも……」
ヴァールハイトの国王様がそう言ってくれている。
行く当てもないし、この国に愛着もない。
私の望みは何?
お金?
名誉?
それとも……。
「自分の店が開きたいです」
「店?」
「はい。鍛冶屋を! それが私の夢でした!」
自分の鍛冶場、自分のお店をいつか持ちたい。
なんて子供の頃の夢を思い出す。
いいや、何度も思った。
こんな劣悪な環境捨てて、自分で一から店を出せないかなとか。
勇気がなくて踏み出せなかったけど、私はもう宮廷鍛冶師じゃない。
自由になったからこそ、選ぶ権利がある。
「ふっ、くく……なんでもと言っているのに、願うのはそれか?」
「はい! お金とか名誉とか、どうでもいいです。私はただ、好きなことを頑張りたい!」
「――いいな。お前」
「へ、ええ!?」
パチンと音がした。
途端、私は空中にいた。
落下する私を、魔王様は優しく抱きかかえる。
「ようこそ俺の国へ!」
下はすでに、私が知らない街が広がっていた。
お城もある。
ここがヴァールハイト帝国?
魔王と呼ばれた人が暮らす世界?
「お前の望みを叶えよう。その代わり、俺からも一つ要求させてくれ」
「な、なんですか?」
「お前を俺の婚約者にしたい」
「――え?」
思わぬ要求にキョトンとする。
婚約者?
そう言ったの?
天下の魔王様が?
「私を?」
「お前以外にいない。ずっと探していたんだ。俺に相応しい相手! お前のように、優れた才能を持ち、金や地位に固執しせず、胸の奥に揺るがぬ信念、願いがある人間を! ようやく見つけた」
「そ、そんなすごい人じゃないですよ。私なんてただの鍛冶師で」
「異論は認めん! お前を俺の婚約者に、いずれは妻にする! 決定事項だ」
魔王様は悪戯な笑顔を見せる。
「覚悟しておけよ? 俺の婚約者になるんだ。人生に後悔なんて一つも残させないぞ」
「……それって、覚悟じゃなくて期待することじゃ」
「ははっ、そうかもな。なら期待しておけ」
突然のことで頭が混乱している。
理解には時間がかかりそうだ。
でも、一つだけ予感する。
私の人生は、ここから新しく始まるのだと。
この先何が起こるかわからないけど、きっと……今までよりはずっと楽しい。
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