上 下
8 / 44

3-3

しおりを挟む

「それに、最初に攻めてきたのはリヒト王国だ」
「そうなんですか?」
「そうだぞ。今の国王は随分と欲深い。残る土地まで奪おうとして戦争を仕掛けてきた。返り討ちにしたがな」

 知らなかった。
 私たち国民には真実がわからないように隠蔽されていたのだろう。
 それを知ると、確かに侵略戦争ではない。
 むしろ侵略者はリヒト王国だ。

「俺は国を立て直している途中だ。優秀な人材がほしい。つまりお前だ」
「私に……ヴァールハイト帝国で働けということですか?」
「そういうことだ。お前はすでに、我が国に対して素晴らしい恩恵をもたらしている。故にその褒美を先にやろう」
「素晴らしい成果……あ」

 勇者に与えた試練のことか。
 確かに、知らずのうちに私はヴァールハイト帝国に貢献している。

「望むものがあるなら叶えよう。金か? 名誉か? それとも……なんでもいい」
「なんでも……」

 ヴァールハイトの国王様がそう言ってくれている。
 行く当てもないし、この国に愛着もない。
 私の望みは何?
 お金?
 名誉?
 それとも……。

「自分の店が開きたいです」
「店?」
「はい。鍛冶屋を! それが私の夢でした!」

 自分の鍛冶場、自分のお店をいつか持ちたい。
 なんて子供の頃の夢を思い出す。
 いいや、何度も思った。
 こんな劣悪な環境捨てて、自分で一から店を出せないかなとか。
 勇気がなくて踏み出せなかったけど、私はもう宮廷鍛冶師じゃない。
 自由になったからこそ、選ぶ権利がある。

「ふっ、くく……なんでもと言っているのに、願うのはそれか?」
「はい! お金とか名誉とか、どうでもいいです。私はただ、好きなことを頑張りたい!」
「――いいな。お前」
「へ、ええ!?」

 パチンと音がした。
 途端、私は空中にいた。
 落下する私を、魔王様は優しく抱きかかえる。

「ようこそ俺の国へ!」

 下はすでに、私が知らない街が広がっていた。
 お城もある。
 ここがヴァールハイト帝国?
 魔王と呼ばれた人が暮らす世界?

「お前の望みを叶えよう。その代わり、俺からも一つ要求させてくれ」
「な、なんですか?」
「お前を俺の婚約者にしたい」
「――え?」

 思わぬ要求にキョトンとする。
 婚約者?
 そう言ったの?
 天下の魔王様が?

「私を?」
「お前以外にいない。ずっと探していたんだ。俺に相応しい相手! お前のように、優れた才能を持ち、金や地位に固執しせず、胸の奥に揺るがぬ信念、願いがある人間を! ようやく見つけた」
「そ、そんなすごい人じゃないですよ。私なんてただの鍛冶師で」
「異論は認めん! お前を俺の婚約者に、いずれは妻にする! 決定事項だ」

 魔王様は悪戯な笑顔を見せる。
 
「覚悟しておけよ? 俺の婚約者になるんだ。人生に後悔なんて一つも残させないぞ」
「……それって、覚悟じゃなくて期待することじゃ」
「ははっ、そうかもな。なら期待しておけ」

 突然のことで頭が混乱している。
 理解には時間がかかりそうだ。
 でも、一つだけ予感する。
 私の人生は、ここから新しく始まるのだと。
 この先何が起こるかわからないけど、きっと……今までよりはずっと楽しい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

ちょっっっっっと早かった!〜婚約破棄されたらリアクションは慎重に!〜

オリハルコン陸
ファンタジー
王子から婚約破棄を告げられた令嬢。 ちょっっっっっと反応をミスってしまい……

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...