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 リヒト王国と並ぶ世界二代国家の一つ。
 ヴァールハイト帝国、第二十七代国王――グレン・ヴァールハイト。
 たった一人で数千の兵士を迎え撃ち、大自然と更地に変える大魔法の使い手。
 天上天下唯我独尊。
 自身の感情にみ従い、他を顧みない性格はまさに魔王。
 そんな恐ろしい人物が、私の前にいる。
 
 私の人生、詰んだ。

「……」
「そう怯えるな。俺はお前に感心している」
「え?」

 感心?

「さっきも言っただろう? 聖剣を魔剣に変える。対極に位置する存在を作り替えるなど、普通の鍛冶師にできることじゃない。少なくとも俺は知らないな、そんな芸当ができる人間」
「それは……なんで知っているんですか?」
「偶然だ。敵情視察、俺は千里眼を持っているからな」
「な、なるほど……」

 さすが魔王様、なんでもありだ。
 こっちの作戦もお見通しなら、勇者に勝ち目なんて最初からなかっただろう。
 よくボロボロでも無事に帰って来られたと感心する。

「千里眼では会話までは聞こえない。なぜお前がここにいるのか。経緯を聞かせてくれないか?」
「聞いてどうするんですか?」
「内容次第だ」
「……」

 まぁいいか。
 どうせ見つかった時点でゲームオーバーなんだ。
 私は半ばあきらめて、事情を話した。

「滑稽だな」
「……わかってますよ」
「お前じゃないぞ? 間抜けな勇者の話だ」
「え……」

 てっきり私のことを笑われているのかと思った。
 魔王様は呆れて続ける。

「これほどの逸材を手放すとはな。これまで辛うじて実力が拮抗していたのは、すべて優れた聖剣と鍛冶師の技術によるものだというのに。それに気づかないとは情けない」
「……」

 この人、私が言いたいことを全部口にしてくれた。
 なんだか気持ちがスカッとする。

「本当ですよね……」
「ソフィア、俺の国に来ないか?」
「え……魔王様の国に?」
「グレンでいい。魔王と呼ばれるのは好きじゃないんだ。まるで悪役だからな」

 確かにこの人は魔王じゃなくて人間だ。
 ただ、領地をかけて戦争を仕掛けたり、勇者と戦っているからピッタリだと思うけど……。

「勘違いしているようだから正しておくが、俺はただ奪われたものを取り返しているだけだ。お前も知っているだろう? この国の歴史を」
「少しは……」

 リヒト王国とヴァールハイト帝国。
 二大大国と呼ばれるようになったのは実は最近で、国王が彼になってからだった。
 それまでリヒト王国が世界最大の国家と呼ばれ、ヴァ―ルハイト帝国は数度の戦争に負け、領土の七割以上を奪われた。
 侵略戦争と呼ばれているが、実際は元々ヴァールハイト帝国の土地だった場所を、グレン陛下が回収している。
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