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しおりを挟む「まったく、これで僕の婚約者なんて情けない限りだ」
「……」
ああ、そういえばそうだった。
勇者は特権として、複数の女性と結婚することができる。
だから婚約者も複数人いて、私もそのうちの一人……だったのを思い出した。
特に興味もなかったし、婚約者らしいイベントもなくて、冗談だと思っていた。
ま、そんなこと今はどうでもいい。
鍛冶場には修繕前の武具が山ほど置かれている。
目の前にある以外にも、倉庫には同様に直さないといけない武具が残っている。
加えて騎士団用の新しい剣も打たないといけない。
今日もサービス残業確定だ。
「では、聖剣をお預かりします」
「次こそ頼んだよ! いつまでも魔王なんかに遅れをとるわけにはいかないんだ!」
魔王どころかその幹部にすら勝てないのに、よく言えるなと正直思う。
私はエレイン様から聖剣を受け取る。
乱暴に手渡して、彼はそそくさと鍛冶場を後にする。
作業に取り掛かる前に、私は聖剣を確認する。
「折れてる……」
私は大きなため息をこぼす。
普通、こんなにも高頻度に聖剣をボロボロにする勇者がいるのだろうか?
私が知っている漫画やゲームでも、ここまで酷い勇者は知らない。
「こっちの世界も楽じゃないなー」
そう、私はこの世界の人間じゃない。
こことは別の、ごくごく普通の世界に生まれた女の子だった。
ちょっぴり変わっているのは、刃物が好きだったことだ。
刃物を作る技術を学び、ようやく高校を卒業して修行を始められる、というところで事故にあった。
刀剣の展示を見ているときに大地震が起こって、落下してきた刃物に串刺しにされた。
本望だった。
とはさすがに思えなかったけど、この世界に生まれ変わったのは幸運だった。
「はずなんだけどなぁ~」
思えば順風満帆には程遠い人生だ。
平民の家に生まれ、すぐに両親が病死した。
両親の顔も朧げなまま、私は祖父母に育てられた。
唯一の幸運は、祖父が鍛冶師だったことだ。
運命に感じた。
私の夢、願いを神様が聞いてくれたのだと。
祖父のもとで鍛冶の技術を学び、十五歳になる頃には一人前と呼べる程度にはなった。
ちょうどその頃に祖父が体調を崩し、あれよあれよとこの世を去った。
落ち込んでばかりもいられず、生活のために働き口を探す。
そんな時、宮廷鍛冶師募集の話を聞いて、ダメ元で受けることにした。
宮廷鍛冶師は、世の鍛冶師にとって最高の職場、だと聞いたことがある。
勇者の聖剣に触れることもできるから、鍛冶師としての技術を向上させるために、ちょうどいい場所だとも思った。
そうして合格し、宮廷鍛冶師になって二年が経った。
現在……。
「完全に社畜だ」
前世では経験できなかった社会を知った。
知りたくなかった。
好きなことをしているはずなのに、終わらない仕事に嫌気がさし、このままだと鍛冶の仕事そのものが嫌いになりそうだ。
もういっそ……。
私は首を振る。
「仕事しよ」
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