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 私は小さい頃から変わった趣味のある女の子だった。
 別に、私自身が変わっていると思ってはいない。
 周りの女の子を普通と呼ぶなら、私は普通じゃないのだろうと思っただけだ。

 たとえば勇者の物語がある。
 男の子は勇敢な勇者に憧れ、女の子はお姫様に憧れる?
 女の子の中にも、格好いい勇者様に目を惹かれる人だって大勢いる。
 だけど、私が目を惹かれたのは勇者はなく、お姫様でもなく、魔王様でもない。

 剣だ。
 
 勇者が持つ聖剣、魔王が持つ魔剣。
 その強さに、鈍い輝きに、恐ろしい鋭さに。
 あんなにも美しい物が、人の手によって作れるのだろうか。
 刀鍛冶の動画を何度も見返した。
 両親に頼み込んで、実際に作っているところを見学しに行ったこともある。
 刃物が好き。
 あまり大きな声では言えない趣味だったから、私はいつも周りの目を気にしていた。
 男の子は普通だ。
 女の子たちは私の趣味を知ると、怖ーいとかいって馬鹿にしてくる。
 本気でひかれると、私だって悲しい。
 何度も思った。
 ここがゲームや漫画の中の世界なら、私の刃に対する思いも、受け入れてもらえるのだろうか。

  ◇◇◇

「僕が負けたのは君のせいだ!」
「……え?」

 とある日の早朝。
 偉大なる勇者様が突然、鍛冶場にやってきて言い放った一言に驚愕する。
 私は耳を疑った。
 聞き間違いだと思った。
 だから、念のために聞き返すことにした。

「えっと……どういうことでしょう……?」
「聞こえなかったのか? まったくこれだから平民上がりは……目上の人間に同じ説明を二度もさせるなんて」

 やれやれと首を横に振る勇者様。
 若干腹が立ったけどぐっとこらえて、私は表情を作って謝罪する。

「申し訳ありません」
「いいか? よく聞くんだ。僕は先日、魔王の幹部と交戦した」
「はい」

 そこは知っている。
 勇者と魔王の戦いは、身分を問わず大勢の人間が注目している。
 宮廷で鍛冶師として働き、聖剣の調整や管理をしている私が知らないはずがない。
 当然、勝敗についても把握済みだ。

「僕は……敗れた。魔王どころか……その幹部に惨敗したんだ」

 そう、彼は敗北した。
 人類の希望。
 勇者エレイン・フォードは、魔王軍幹部の一人が率いる軍勢と交戦。
 半日に及ぶ戦闘の末、勇者側の人間は壊滅した。
 ギリギリ全滅だけは免れたけど、味方側に甚大な被害をもたらした。
 唯一無傷で生還したのは勇者エレイン一人だけ。
 幹部を倒すことも叶わず、むざむざと逃げ帰る結果となった。
 勇者惨敗の知らせは瞬く間に王都中に広まり、不安や困惑の声があがっている。

「僕は負けるはずがなかったんだ。勇者である僕が、魔王の幹部ごときに敗れるなんてありえない。ならばなぜ負けたのか? 僕に原因がないのであれば、その他に原因はある。そう思わないか?」
「はぁ……」
「共に戦った騎士たちはよく頑張ってくれていたよ。命を賭して戦う姿は、まさに騎士の鑑だった。彼らに原因はない。ならば答えは一つだ」

 そう言いながら、勇者エレインはピシッと指をさす。
 
「宮廷鍛冶師ソフィア! 君が原因だ!」
「……」
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