上 下
50 / 50

50.永遠の愛を誓う

しおりを挟む
 七大絶景で最も難関とされる場所。
 それが空に浮かぶ大地ベネディクトゥスだ。
 言葉通り、土地そのものが空中を浮遊していて、高度を変えながら絶えず移動し続けている。
 何千年も昔に造られたそれは、現在の技術では再現不可能とされた技術の集合体。
 エレンの冒険記に記される前から逸話が残されており、見ることが出来たなら、その者に幸福が宿ると言われている。
 
 そして、浮かぶ大地の中心には、世界最古の教会がある。
 何千年経過しようと壊れることなく、色褪せることもない。
 一つの伝説として残されたのは――

 教会で誓い合った愛は永遠を約束される。

 というロマンチックなものだった。
 冒険記でもエレンが語っている。
 彼女には婚約者がいたそうだけど、病で先立たれてしまったそうだ。
 もしも願いが叶うなら、婚約者と一緒に教会を訪れたかったと、後悔の一文も書かれていた。
 そういう点でいえば、私たちは幸運だろう。
 だって……

「ユーレアス!」
「うん。ようやく見つけたね」

 私たちは二人で、その教会に立ち入ろうとしているのだから。

 あの戦いから半年。
 私たちは旅を続けて、あの教会を探していた。
 ようやく通じ合った想いを噛みしめ、永遠にするために。

「伝説に縋るのも、何だか格好悪い気がするけどね」
「そんなことないよ。せっかくだし、とっびっきり最高な場所がいいよ」
「はははっ、ノアも乙女だねぇ」
「当たり前。そうじゃなかったら、ユーレアスを好きになってないよ」

 そんな話をしながら、私たちはドラゴンに乗り空へ。
 空飛ぶ大地には特殊な仕掛けが施されていて、普通は肉眼でとらえられない。
 ユーレアスの霊視を頼りに探して、半年かけてようやく見つけられた。
 中へ降り立つと、目の前には噂の教会がある。
 天を舞う大地に構える教会は、とても綺麗で神秘的だった。
 地上で見かける教会とは、造りも雰囲気も全く異なる。
 それこそまるで、神様が住んでいるお城のようだと思った。

「ノア、これを」

 ユーレアスが手渡してきたのは純白のドレス。
 この日のために用意した特注品。
 私はそれを受け取って微笑む。

「待っててね」
「長引いちゃだめだよ? 僕が不安になるから」

 ユーレアスもそんな風に弱音を口にするようになった。
 私のこと信頼してくれている証拠だと思うと、すごく嬉しい。
 私が着替えている間に、彼も黒い服に着替える。
 同じく白が良いと思ったけど、やっぱり彼には黒が似合う。

 互いの準備が出来て、教会の祭壇へ向かう。
 そこではすでに、私たちを見守る人ではない彼らの姿があった。

「まったく、なんでワタシがこんな役を」
「良いじゃないか偶には」

 フクロウに憑依した冥王様が、祭壇の中央で待っていた。
 一番前の座席には、ウルとフィーがちょこんと座っている。

「まぁいいわ。さっそく始めましょう」
「うん」
「お願いします」

 今から始まるのは、私たちの結婚式。
 女王様が咳ばらいをする。

「おほん! 新郎ユーレアス、あなたはノアを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」

 ユーレアスが微笑む。

「新婦ノア、あなたはユーレアスを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも……って長いわねこれ! もういいわ、全部誓うわね?」

 途中から面倒になったのか、女王様は途中をすっとばして尋ねてきた。
 これにはユーレアスも呆れ顔で笑う。

「やれやれ」
「はははっ、女王様らしいね」
「で、誓うのね?」
「もちろん! 誓います」
「はい聞いたわ! そんじゃさっさと誓いのキスしちゃって」

 なんというムードのなさ。
 こんな場所まで来たのに、本来の結婚式とは程遠い。
 でも、私たちらしいかもしれない。

「ねぇユーレアス、まだドレスの感想を聞いていないよ?」
「そうだったかい?」
「うん……どうかな?」
「綺麗だよ。世界で……いいや、過去も未来も含めて一番」

 とても嬉しい感想だ。
 大げさすぎると笑われてしまうかな?
 
「それに良かった」
「何が?」
「僕と繋がっても、君の魂は美しいままだったようだからね」

 ユーレアスの眼には、私の無色透明な魂が映っているのだろう。
 ほっとしている様子が見てとれる。

「安心したよ。僕の所為で、世界の宝が失われるところだった」
「大げさだな~ 私は別に、汚されても良かったのに」

 自分で口にして恥ずかしい。
 恥ずかしいけど事実だから、もっと恥ずかしい。
 そんな私を見つめながら、ユーレアスは優しく微笑んでくれた。
 私が大好きな笑顔だ。

「ノア、僕は君が大好きだ」
「私も、ユーレアスが大好きだよ」

 誓いの言葉を胸に、私たちは唇を重ね合う。
 永遠に続く未来でも、二人で歩いている幸福を想像して。

「さーて、これからどこに行こうか?」
「残ってる絶景は三つだね。また地図と睨めっこだ」
「うん。一先ずは全部見て回って、君の本を完成させようか」
「頑張って書くよ」

 私とユーレアスの物語。
 ずっと続く物語を、ハッピーエンドで締めくくる。
 それは本の中でしか出来ないことだ。
 だって、私たちの物語は、この先も永遠に続いてくのだから。

 国を失い、家族を失い、最愛の人を失い。
 色々なものをなくして、はぐれ者同士で始めた旅路。
 まだずっと、先へ続いていくだろう。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ランゲルハンス

やっと両片思いから両想いに!!!
寿命の差もこれで心配なくなってよかった~

解除

あなたにおすすめの小説

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】捨てられた悪役令嬢を救います!

古い炭酸水
恋愛
王太子に浮気され、その浮気相手には虐められたと嘘をつかれ悪役にされたベルリーナ。 明日は卒業パーティー。 どうせありもしないことを言われて断罪されるんだろう。 だったら断罪されて辛い人生を送る前に死んでやる! ―――――――――――――――― そんなベルリーナを見守っていた女神が彼女になりきって断罪に立ち向かう話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。