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33.もう一人の死神

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 精霊と契約を結んだ者には、その力の全てを委ねられる。
 私はその力で、これまで多くの人を癒してきた。
 だけど、フィーの力はそれだけじゃない。
 光はあらゆる闇を消し去り、魔を祓う力を持つ。
 例えばこんな風に――

「フィー! 太陽!」

 フィーの鳴き声が墓地に響く。
 私たちの頭上には、白く光る玉が浮かんでいる。
 白い球は徐々に大きくなり、より上へと上っていく。
 まるで太陽のように、辺り一面を照らしている。

「光の雨よ――降り注げ!」

 が、照らすだけでは終わらない。
 光の玉は輝きを増し、白い刃を降らせる。
 精霊の力がこもった刃は、アンデッドに突き刺さり、朽ちた肉体を浄化していく。

「ぐお、おぅおおおぉぉお」

 浄化によって消える肉体。
 全身に走る痛みに耐えながらも、彼らは前進してくる。
 望んで戦っているわけでもない。
 焼けるような痛みと負の感情が、朽ちた身体を突き動かしている。

「ごめん。どうか安らかに眠って」

 私に出来ることは、彼らの肉体を浄化して、戦いを終わらせることだけ。
 例え痛み苦しみ、恨まれることになっても。

「君が心を痛める必要はないさ。彼らの魂はでっち上げられた偽物だ」
「そうだとしても、身体は生きていた人のものだよね? だったら、やっぱり悲しいよ」
「そうか。ノアは本当に優しいな」

 ユーレアスはニコリと微笑み、大鎌を振り一瞬でアンデッドを刈り取っていく。

「残念ながら、僕はそこまで優しくなれないよ」

 そんなことない。
 ユーレアスはちゃんと優しい。
 だって、彼は怒っていたから。
 墓地の話を聞いた時、わかり辛かったけど、彼は怒っていたんだ。
 そうだとわかったのは、道中の話を聞いた時だけど。

「ユーレアス。やっぱりネクロマンサーの仕業で間違いないの?」
「うん、間違いないね。僕の眼に狂いはないよ」

 彼の眼は、人の魂を見ることが出来る。
 その彼が言うのだから、本当に間違いないのだろう。
 だとすれば、新たに生まれる疑問がある。
 私はぼそりと口にする。

「じゃあ……ネクロマンサーはどこにいるのかな?」

 その直後――

「ここにいるぞ? おじょーさん」

 全身が震えあがるほどの寒気が私を襲う。
 声がじゃない。
 肩にトンと乗せられた手を、こんなにも気持ち悪いと思ったのは、生まれて初めてだった。

「へぇ~ 面白い魂してるじゃねーかよ」
「貴方は……」
「ちょっと触ら――っと!」

 私の目の前に、大鎌が振り下ろされた。
 男は後ろに避けて、華麗に空中で一回転して着地する。

「ユーレアス!」

 彼は大鎌を持ち上げ、私の前に立つ。
 一瞬だけ見えた彼の表情は、今までに見たことのないほど怖かった。

「おいおい、いきなり物騒なもん振り回すなよ。最近の奴は礼儀がなってねぇーな~」
「生憎だけど、僕は最近の人間じゃないからね」
「はっ! ちげーねぇな~ お前が当代の【死神】か?」
「おやおや、確認しないとわからないのとは。 君ってもしかして、聞いていたより馬鹿だったりするのかな?」
「言ってくれるな~ 冥王の犬風情がよぉ」

 二人の会話が淡々と進む。
 この場で私だけが、状況についていけていない。
 ユーレアスの反応を見る限り、彼はあの男を知っている。
 それも良い関係ではなく、冥王様とも関係があるみたいだ。

「ねぇ、ユーレアス」
「ごめんね。今はゆっくり説明している余裕がないんだよ」

 私が尋ねる前に、彼はそう答えた。
 さらに続けて言う。

「出来るなら、君だけでも先に逃げてほしいな」
「なっ、ちょっと待って!」
「そうだぜ~ 仲間外れは良くないと思うぞ? 俺はそっちのおじょーさんにも興味があるからなぁ」

 男はニヤリと笑う。
 その笑顔は恐ろしくて、怖くて身が竦む。
 ユーレアスはそんな私を庇うように話題を逸らす。

「君の相手は僕だよ?」
「なぁおじょーさん、名前はなんて言うんだ? オレはシリスっつーんだよ」
「聞いてないよ。僕の許可なく彼女に話し掛けないでもらえるかな?」
「あぁん? んなけちくせーこと言うなよ。お前だった同じ眼があんだし見てるんだろ? そんな綺麗に澄んだ魂なんて見たことねーよ。なぁ、そんなもん見せられたらよぉ……汚したくならねーか?」

 シリスは今までで一番ぞっとする笑顔を見せた。
 恐怖のあまり私は動けない。
 でも、ユーレアスは動く。
 地面を力強く蹴り飛ばし、シリスに向けて大鎌を振り下ろした。

「はっ! 早漏野郎がぁ!」

 シリスはどこからか大剣を取り出し、ユーレアスの大鎌を受け止める。
 続けて連撃をユーレアス。
 シリスはその全てを受け止め、反撃すらしている。

「はっは! 久しぶりの戦闘たぜぇ!」
「随分と楽しそうだね」
「そりゃそーだろぉ? なんたって死ぬかもしれねー殺し合いだぁ~ こんなスリリングなもん楽しまねーわきゃーないぜ!」
「そうかい。あいにく僕は、楽しむ気なんてサラサラないけどね」

 ユーレアスは青い炎を生み出し、シリスに向けて放つ。

「チッ、冥界の炎か」
「その通りさ。この炎なら、君の肉体にも効果はあるんだろう?」
「めんどくせーなぁ~ しゃーねぇ」

 炎を大剣で弾き、シリスは切っ先を地面に突き刺す。
 直後、巨大な地響きが私たちを襲う。

「とっておきだぜ」

 墓地がひび割れ、裂けた大地に呑み込まれていく。

「う、うわっ」
「ノア!」

 ユーレアスは私を抱きかかえ、裂けた地面から離れる。
 次に振り返った時、私たちの視界には……

 巨大なドラゴンがいた。
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