上 下
17 / 50

17.二人旅

しおりを挟む
 窓から差し込む光が、ちょうど顔にかかって目が覚める。
 小鳥のさえずりと、優しい風の音が聞こえて、ふぅと息をはく。
 寝起きの身体はとても重い。
 ぐーっと背伸びをして、半分寝ている身体に起きろとメッセージを送ってから、私はベッドから降りる。
 窓の近くにある机の上で、光の精霊がちょこんと座っていた。

「おはよう、フィー」

 フィーの頭を撫でたら、嬉しそうに喉を鳴らしていた。
 昨日の夜に出発の準備は済ませてある。
 あとは背癖をとかし、服を着替えるだけだ。
 私は部屋の入り口にある大きな鏡の前に歩み寄って、自分の身なりを整える。
 そして、自分の顔と身体を見て、しみじみと感じる。

「もう五年か」

 そう。
 私が国を出てから、ちょうど五年の月日が経過していた。
 十歳の子供だった私も、今では十五歳になっている。
 エストワール王国では十五歳を成人として扱っているから、一応もう大人という扱いだ。
 身長もちょっとは伸びたし、顔つきも大人っぽくなったと思う。

 明るく長かった髪も、今では黒く染めて短く切っていた。
 いいや、本当は真っ黒に染めたつもりだったのだけど、元々の明るさと混ざり合った所為で黒に近い濃いめの緑色になっている。
 最初は中途半端で嫌だなと思いながら、何だかんだで慣れてからは気に入っている。
 
 服を着替える。
 昨日の夜に用意した服は、地味で普通な男物っぽいズボンと上着。
 今の容姿でこれを着てしまえば、私は男の子に見えるだろう。
 もちろん敢えてやっていることだ。
 
「よし」

 出発の準備は出来た。
 次にやることも決まっている。

「フィー、おいで」

 フィーが私の肩にちょこんと乗る。
 部屋も綺麗に片づけて、お世話になりましたと一礼しておく。
 そのまま部屋を出て、隣の部屋の前に移動した。
 私はトントントンとノックをして声をかける。

「ユーレアス」

 中からの返事はない。
 私は小さくため息をもらして、預かっていた鍵で勝手に扉を開ける。
 室内は私の部屋と同じ間取りで、ベッドが奥に一つある。
 そのベッドでスヤスヤ眠るのは、かつて世界を救った英雄の一人にして、永劫の時を生きる冥界の契約者。

「ユーレアス、もう朝だよ」
「ぅ、う~ん……おや? もうそんな時間なのかい?」
「そうだよ。外見て」
「本当だ。清々しい空だね」

 むっくりと起き上がった彼は、枕の横にあった髪留めで長い銀色の髪を結ぶ。
 ニコッと微笑むその表情は、五年間変わらない。

「おはよう、ノア」
「うん、おはよう、ユーレアス」

 あの日から五年間。
 私は彼と一緒に世界中を旅して回っている。
 お父様とお母様の想いを胸に、幼かった頃の夢を叶えるため。

「着替えはここに置いておくね」
「あいがとう。いつもすまないね」

 旅は新しい発見が多い。
 世界のこともそうだけど、ユーレアスのことも色々知れた。
 意外と朝が苦手で、準備とか片付けもテキトーだったり。
 料理はとっても上手い。
 王国のシェフよりも、個人的には上なんじゃないかと思うほどだ。
 
 ユーレアスが身支度を整え終わり、荷物を持って部屋を出ようとした。
 途中の大きな鏡をチラッと見る。
 彼の前だと、自分の容姿が気になってしまう。
 それに気づいた彼が、私に向けて言う。

「君の男装もすっかり板についてきたね」
「それはもちろん。もう五年も経っているからね」
「五年か。僕にとっては、ついこの間の出来事に思えるけど」

 私の男装と髪色は、どちらも旅での余計なトラブルを防ぐためだ。
 女の子の旅は色々と危険が多いと聞く。
 私は身体も小さくて、元の髪色は金色だから目立ってしまう。
 人さらいの標的にされたりとか、変なおじさんの目線を浴びたりとか、最初の頃は大変だったよ。
 そういうことが続いて、ユーレアスから男装を提案された。
 髪色は自分で変えると決めて、話し方とか作法も少しずつ男性に合わせている。
 モデルはユーレアスだから、所々で被ることが多いかもしれない。

「以前は小さなお姫様だったけど、今は誰もが振り向く美少年だね」
「はははっ、ユーレアスは変わらないね」
「それが僕だからね」
「うん。でも、私だって変わらないよ? 見た目は変わっても、ちゃんと女の子だからね?」

 と、意味深な視線を向けて言った。
 ユーレアスは表情一つ変えず、普段通りに答える。

「もちろんわかっているさ。姿を変えても、性別までは変わらないからね」
「……はぁ」
「おや? どうしてここでため息?」
「何でもないよ……鈍感」

 彼には聞こえない小さな声で呟いた。
 五年間ずっと変わらない想い。
 私はユーレアスのことが大好きだ。
 口で、態度でそれを伝えても、彼にはちゃんと伝わらない。
 まだ子供だと思われているみたいで悲しい。

「負けないからね」
「ん? 何と戦っているんだい?」

 こんな感じだけど、彼との旅はとても楽しい。
 新鮮で、愉快で、刺激的な毎日。
 時には怖いこともあるし、のんびり過ごすこともある。
 全てにおいて自由で奔放な日々を、私たちは送っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】捨てられた悪役令嬢を救います!

古い炭酸水
恋愛
王太子に浮気され、その浮気相手には虐められたと嘘をつかれ悪役にされたベルリーナ。 明日は卒業パーティー。 どうせありもしないことを言われて断罪されるんだろう。 だったら断罪されて辛い人生を送る前に死んでやる! ―――――――――――――――― そんなベルリーナを見守っていた女神が彼女になりきって断罪に立ち向かう話。

処理中です...