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エルク猟隊は木々の開けた場所から、白い大木の乱立する森に入った。

森に手入れがされているのか、下草やごちゃついた低木なんかの障害物が少なく、まだ歩きやすい。そんな森の中を、ゆるゆると曲がりくねりながら伸びる獣道を行く。

無言で迷いなく先頭を進むエルクと、その後ろにサンバー、春人、殿にターミンというフォーメーション。やはりエルクがリーダー格のようだ。

一応、ターミンが後ろから春人に気をかけてくれている。単に監視役なのかも知れないけど。

「ハル、君が肩に背負っているのがイガリの言っていた魔法の弓矢かい?」

ターミンが後ろから耳元に小声で話しかけてくる。
どうやら猪狩のじーさまから鉄砲のことを聞いているようだ。

「そうだよ。猪狩さんがどう説明したか知らんけど、俺らの弓矢みたいなもんさ」

「イガリからその魔法の弓矢はとても強力故に危険で、認められた者にしか扱うことが出来ないと聞いている。イガリはもう扱えなくなって手放したとも言っていたね」

猪狩は年齢的にもう重たい銃を持って獲物を追い回すのがキツくなったのかもしれない。よく聞く話だ。

「まあ、実際のところ試験とか色々と合格しないと触ることすら許されない物ではあるよ。本当に危ないし」

「凄いじゃないか。特別なんだね君は。その矢を放つ様を早く見てみたいよ」

そう言ってターミンはイケメンスマイルを放った。

「ターミン、ハルト、静かにしろ。そろそろ獲物がいるエリアだ」

ほんの僅かに振り向きながら、エルクが苛立った様子を醸し出してくる。

「すまないエルク。ハル、そろそろ気を付けて」

ターミンがより小さな声で囁き、少し後ろに離れていった。

それからもう少し森の奥に入った時、エルクがピタッと立ち止まり、振り返らず左手で止まるように指示を出した。

彼女の指示通り、後ろの3人も立ち止まり気配を探る。

春人もサッと肩から銃を下ろし、ガンカバーを静かに外した。
別に隠す必要もなかったのに、ついガンカバーを今の今までかけっぱなしだった事は反省点だ。
マジックテープの音がしないように静かに外すのは意外と難しいし、こんな事してたら獲物に逃げられてしまうと春人は内心焦った。

いったいどんな獲物が飛び出すのかわからないので、どの弾を込めようか迷いどころだ。
スラッグか、大物用のOOB弾か、鳥~小動物用にバラ弾か。春人はとりあえずいつでも装填できるように、どの弾がどのホルダーにあるか確認して身構える。

その時---

春人の後ろで風が舞った。ターミンが何かに反応して素早く身を翻したのだ。

バシッ!っと、春人が振り向くと同時に、何かがぶつかる音と、獣の悲鳴のような声が弾けた。

「な、なに⁉︎」

春人がターミンの背後から覗き込むと、そこにはビクビクと痙攣する、小型犬くらいのサイズの焦げ茶色の生き物が落ちていた。

「トビギツネだよ。木の上から飛んできて、背後から獲物に食らいつく厄介な奴らさ。これが増えると俺たちの獲物が減ってしまうんだ」

腰につけていた謎の羽子板は対トビギツネ用の武器らしく、どうやらそれで飛んできたトビギツネを叩き落としたようだ。
地面に伏せた瀕死の獲物に短剣でトドメを刺しながらターミンが教えてくれる。

「ほら。ここに飛ぶための膜があるだろ。これを使って静かに飛んでくるのさ」

ターミンは息絶えたトビギツネの首根っこを掴んで前脚を持ち上げて見せた。
確かに、顔はキツネだが、まるでムササビやモモンガのような皮膜があり、口からは鋭く長い犬歯が飛び出ている。

「これ、食うの?」

春人のハンティングへの情熱の根底にあるのは食い意地だ。美味しい物を食うために猟をしているのだ。仕留めた獲物が食べられるのか食べられないのかは一番重要である。

「うーん。正直いうとトビギツネはそんなに美味しくはないんだ。ただ、こいつらは毛皮がいいから、毛皮を利用して何か作ったり、人間に売ったりするよ」

「なるほど」

実食レビューは残念なようだが、キツネを食べたことがないので味見はしてみたい春人だった。

「ターミン!サンバー!まだたくさんいるぞ!気を付けろ!」

エルクの声に仄暗い樹上を見上げると、ハッキリとは姿を見せないものの、何かが蠢いて居るのがわかる。
狡猾な捕食者たちが飛びつく機会を窺っているのだろう。

エルクは、横合の低めな位置から飛びついたトビギツネの頭を、ラケットでスマッシュを決めるように叩き落とし、トドメを刺す必要もなくその一撃で絶命させていた。 

「エルクこええ・・・」

飛びつくキツネたちをバチンバチンと叩き殺すエルクにちょっと引く春人だった。
自分もさっさと準備しなければと、春人はハンティングベストの左ポケットから7.5号弾を3発取り出す。

「ハル!危ない!」

しゃがんで7.5号弾を装填していた春人に、ターミンが叫ぶ。

ターミンのカバーできない範囲からトビギツネが春人の背後に向けて飛んだのだ。

「マジか」

振り向いた春人のすぐ目の前に、捕食者の顎門が迫っていた。
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