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酒血肉躙

天王

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「もう終わりましたかぁ? こっちは準備万端ですよ! あとは火をつければ終わりです!」

 振り返ると、天王がにこにこと笑っていた。その横には縛られ、身動きがとれない島崎が転がっていた。

「......ああ。もう全て殺した。あとは......そうだな......」

 私はそう言いながら天王に近づいた。

「はい? なにか?」

 天王はきょとんとしたまま首を傾げている。私はその顔に拳を打ち込んだ。

「ギャッ!」

 天王はもろに攻撃を受け、檻に激突する。
 すかさず私は手錠を取り出し、檻の柵と天王の腕を繋いだ。

「......ど、どういうつもりですか...冗談にしてはキツくないですか?」
 天王は口の端から血を流し、繋がれた手を動かす。しかし私は手錠を外すつもりはなかった。

「天王。お前は私の敵だ。ここで死ね」




「......何を言ってるんですか?」

 天王は意味がわからないと言いたげに首を振った。

「......お前は私を殺そうとしただろう」

「............」

 私と天王は無言で睨み合った。

「......あはは! 何をいっているんですか? そんなわけないでしょう」

 天王は笑いながら、繋がれていない方の手で頭を掻いた。
 天王が私を殺そうとした証拠はない。しかし、こいつは私を殺そうとした。そんな気がしていたのだ。無理に答えを出すとすれば『殺人鬼』の勘といったところだ。
 そこで『天王の殺意』ありきで考えてみたのだ。その結果が今のこの状況だ。

「......いくつか訊きたいことがあるのだが、いいか?」

「いいですよ~。何でも訊いてください」

 天王の表情はなぜか余裕があった。いつもへらへらしている奴ではあったが、死の間際までこの調子とは......。
 私は呆れながらも質問する。

「先日島崎から貰った少女がいただろう? その時お前は『眼球を傷つけず、殺したら連絡してほしい』と言ったな。なぜだ?」

「......え...っと...あの時は急ぎでどうしても眼球が必要だったんですよ」

「本当に必要だったなら、島崎が少女を持ってきた時点で眼球をえぐりだせばいいだけの話だ。しかしそうしなかった。そもそもお前は『急ぎ』とは一言も言っていなかったではないか」

「......急ぎ...と言っても緊急ではなかったんですよ」

「そうなのか? その割りには私が電話した時に、あっさり眼球を諦めたと記憶しているのだが」

「............」

 私は黙りこんでしまった天王に尋ねる。

「お前、最初は島崎の家ではなく私の屋敷を燃やそうとしていた。違うか?」
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