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1章

魔術を説明されたぁぁぁぁ!

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1.「また、あのおうちいくの?」
 サキが、裕次郎の前を走り回りながら聞いてくる。
 今日は、俺とサキはマリアさんの所へ行き、イザベルは一人で豆芝を連れて学校に行った。流石に二日豆芝を連れていかなかったら、シャルロットが発狂してしまうかもしれない。
「そうだよ。マリアさんが来てくれって」 
 そう言いながら、裕次郎はこちらに駆け寄ってきたサキと手を繋ぐ。
「なんで?」
 サキは繋いだ方の手をブンブン振りながら、聞いてくる。
「うーん、俺もよくわからない」 
 裕次郎は正直にそう答える。
 本当によく分からないし。この前の事についてだとは思うんだけど・・・
「パパもしらないんだ! サキもだよ!」
 サキは満面の笑みでこちらを見てくる。
 裕次郎はその顔を見ながら考える。
 もしかして、サキは夢魔サキュバスじゃなくて、天使なんじゃないかな? と。

2.サキと並んで道を歩き、やっと屋敷に到着した。前来た時のような禍々しい雰囲気は無い気がする。やっぱりこの間は気のせいだったのかな?
 裕次郎はサキと一緒に、屋敷の入り口まで歩いていく。
「お待ちしておりました」
 執事服を着た老人が前と同じ場所に立っている。裕次郎達は案内されるまま、部屋の中に入る。
「いらっしゃい。そこに座って」
 部屋の中にはマリアが一人で座っていた。裕次郎とサキは言われた通りに椅子に座る。
「実は、出来るだけ早く確認したいことがあるの。貴方の魔法と魔術について、分かる範囲だけでいいから話してくれる?」 
 マリアは髪をかきあげながら、優しくそう言った。
「はい。わかりました」
 裕次郎は魔術の才能はあるらしいということ、絶滅属性ロストと呼ばれている煙属性しか使えないこと等をマリアに伝える。異世界から転生してきたとは、言わないことにした。
「......なるほどね」
 マリアは納得したように頬杖をつく。
「いいですか? 貴方には知っておいた方が良いことがたくさんあります。今から順に説明していきますね」
「はい」
「まず、貴方が使える煙属性魔法は役に立たないわけではありません」
「ふぇ?」
 ・・・なんで? だって煙属性魔法、ただもくもく煙出てくるだけやん? 意味無かったやん、今まで。
 今まで煙属性がカス魔法だと思っていた裕次郎は、ポカンとしながら首をかしげる。
「ですから、魔法使い側から見た煙属性は無意味ですが、魔術師側から見ればそうではないのです」
「? ? ?」
 裕次郎は、マリアの言っている意味が全くわからなかった。
「......私の言っていること理解してます?」
「全然わかりません」
「......それでは最初から説明します。今から50年前に魔術が滅びました。そして代わりに魔法が創られました。ここまではいいですか?」
「・・・はい」
「しかし、正確には魔術と魔法が同時に存在した時期がありました。そしてその間に作られた魔法は、大気中の少なくなったマナを何とか補給しようとするためのものです」 
「はい」 
「その魔法こそ絶滅属性ロストなのです」
「!! それで煙属性はどんな効果が?」
 裕次郎は興奮していた。説明はイマイチ分からなかったが、どうやら魔術が使えるみたいだ。
 諦めていた、『俺最強、モテモテハーレム』が作れるかもしんない!
「貴方の煙属性の真価は、自分自身の魔力を煙状のマナとして放出することです。ヘンリーと闘った時、魔術が使えたでしょう?」
 マリアがやっとわかってくれましたか、と言いたげな表情を作る。
「分かりました! つまり俺は魔術が使える最強の男ってことですよね!」
 裕次郎は、嬉しさのあまり、隣にいたサキの頭をわしゃわしゃと撫でまくる。
「パパ! やめて!」
 サキが嫌そうに顔をしかめるが、構わず続ける。が、裕次郎は一つの恥ずかしい勘違いをしていたことに気付き、手を止める。
 ・・・俺、この前は、怒りによってスーパーな潜在能力が発揮したと思ってた・・・確かに冷静に考えれば、怒って魔術が発動すれば苦労しないよなぁ・・・これは結構恥ずかしいかも・・・
そう思いながら裕次郎は、『自分には最強の力が眠っているぜ!』と信じていた中学生時代を思い出していた。
「ちょっと? 聞いてます?」
 ふと気づくと、マリアが裕次郎の目の前で手を振っていた。
「ああ、すいません、何ですか?」
「ですから、貴方の魔法の弱点ですよ」
「え?」
 弱点、と聞こえた裕次郎は思わず聞き返す。
「ですから、煙属性魔法には致命的な弱点があるんです」
「・・・何ですか?」 
 もしかしてこれは、期待させておいて後で落とされる、いつものパティーン?
「もう一回説明しますよ?」
「・・・はい」
「一つ目は、煙属性魔法を発動した後、魔術を発動する必要があるので、魔術を素早く発動できません」
「・・・・・・はい」
「二つ目は、風の日は煙が飛んで行きますから、魔術を発動できません」
「・・・・・・」
「三つ目は、雨の日も煙が雨粒と一緒に流れるので、魔術を発動できません」
「・・・・・・」
「四つ目は、敵が魔法で煙を吹き飛ばしたら魔術が発動できません」
「・・・・・・」
「五つ目は......」
「ちょとまって!」
 マリアがそこまで言った所で、裕次郎はたまらず話を止め、質問する。
「逆に、どんな状況なら魔術使えるんですか?」
「......そうですね、煙が出ていかないように部屋の中で闘って、敵が魔法を使って煙を吹き飛ばさなかったら、魔術が使えます」
 それを聞いた裕次郎は絶望する。
 ・・・制約ありすぎじゃない? 条件が厳しすぎじゃない? そもそもどうやって敵を室内に誘き寄せて魔法をつかわせないように闘うの? 『すいません、俺インドア派なんで室内で闘いません? それと魔法アレルギーなんで、魔法も無しでお願いしますね!』とか敵に言うの? ばかなの?
「・・・マリアさん」
 裕次郎は泣きそうになりながらも必死でこらえる。
「......何かしら」
 マリアも少し気まずそうに視線を逸らす。
「・・・今日は、魔術の発動条件がメチャクチャ厳しいと言う為に呼んだんですか?」
 裕次郎のその言葉で、思い出したようにマリアが話を初めた。
「......違います! 伝えたいことは別にあります! 良いですか? 今魔術を使える人は凄く珍しくて、実験や解剖をしたがる魔力使いが大勢いるんです。そんな時に、貴方あんな魔術を使ったでしょう? 感知されるのも当然です。それで今血眼になって、貴方を探している魔法使いが大勢いるみたいなの。最悪、殺してでも連れ去ろうとするかもしれません。それを今日は伝えたかったんです」
 そう言ってマリアは裕次郎を心配そうに見つめた。


続く。







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