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氷のミライ
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一方ミライの方はその昔姉と過ごした氷山に向かってひたすら歩き続け、三日間かけてようやくたどり着いたところだった。
(ここに姉さんが強くなれた秘密がある)
そう信じてここに来るしか彼に選択肢はなかったのだ。
一歩を踏み込むと猛烈な吹雪によって、まるで「立ち入るな」と言わんばかりに後方へ吹き飛ばされた。
とはいえここまで来て帰る訳にもいかず、何度も一歩踏みこんでは吹き飛ばされるという繰り返し。
(昔は入れたのに何で入れないんだ?ちょっと待て、一度冷静になって昔の事を思い出してみよう)
そう自分に言い聞かせ近くの岩に腰を降ろして当時を思い出す。
(父と母は大戦で亡くなって、姉さんと二人この氷山に逃げ込んだ。あの時は姉さんが俺の手を握って二人ともひたすら走った、 息も苦しいし横っ腹も痛かったけれど、
《軍の奴らに殺されるよりはいい》
って姉さん言ってたっけ。すごく寒い中二人で身体を寄せ合って木の穴の中で震えてたな。だんだん眠くなってきて、二人とも寝てしまった。起きたら・・・)
『思い出した、氷の妖精だ!そして必ず挨拶があった!』
辛く苦しかった記憶だったので自分の中で封印していたが、こうして冷静に思い出してみるといろいろと当時の姿が鮮明に浮かんでくる。
氷山の入り口である北側に周り、二本そびえる大木の前に立ち、あの時妖精から教わった挨拶を行う。
(両側の大木に敬意の念を込めて優しく触れ「フリーズ」と唱える、その後大木の間にある岩に自分の額を着けて妖精に話しかける「清らかなる氷神シヴァ、我に道を示したまえ」)
すると吹雪はピタッと収まり、「この道を辿りなさい」というように森の中に氷の道が現れた。
昔はすんなり歩けたような記憶があるが、今は滑って脚を取られそうになる、一歩ずつ慎重に歩を進める。
辿り着いた先には大きな氷の扉があり、紋章が描かれている。
『氷神シヴァよ、我が名はミライ。汝の血を継ぐものなり』
ゆっくりと扉が開き、蒼く透明な美しい女性がそこにはいた。
【我が名を呼ぶ者よ、お前とは昔あった事があるな】
『はい。姉と二人でこの森に迷い込み、凍えて眠ってしまった時に貴女に助けて戴きました』
【凛々しくなったものよ、姉レイワに比べるとお前の力は赤子の様じゃ】
『はい。私も強くなりたくて貴女の元に参りました。どうぞ力をお貸しください』
【汝に問う、なぜ強さを欲するのか?】
『姉に、そしてあの三人と対等、いやそれ以上の力をつけて見返してやりたいのです』
【愚かな弱きものよ、扉の外に出て雪山に籠り、1年間生きていられたらその時また汝に問おう。さらばだ】
そういうと氷神シヴァはキラキラと結晶になって姿を消してしまった。
(どういうことだ?こんな何もない雪と氷の山の中で一年間も生き抜けと。でもやらない事にはシヴァは教えてくれないという事であろう、であればやるしか道はない)
氷の扉から外に出ると、再び扉は閉まってしまった。
そして夥しい数の殺気に囲まれている事に気づく、野生のウルフだ。
扉を背にしてウルフと早速一戦交える事になってしまったが、集団戦闘訓練なら受けてきたし特獣と闘った時の事を思えば可愛いものだ。
ウルフの攻撃パターンは前後左右さまざまな方向から襲い掛かってくるものの、どれも直線的だ。
避けては斬るのカウンター戦法が有効だろう、保険と言っては何だが自分に「トランス」を掛けておこう。
『トランス』
脅えどころか気迫に満ちていくのがわかる。
訓練通り冷静に、避けては斬り避けては斬りであっという間にウルフを全滅させた。
(ふん、シヴァの試練などこんなものか)
そんな事を考えながらひとまず寝床にできそうな穴を探しながら山の頂上を目指して歩いた。
喉の渇きは雪やりの塊を溶かしたもので何とかなるが、空腹は水では治まらない。
ふと見上げると雪をかぶった木の傘の中に何やら黄色い実が見える。
『おっ、食い物じゃん!これくらいの高さならお手のものだぜ』
ひょいひょいと木を上り、実をもいで食べてみた。
『うまい。身体は温まるし魔力も回復できているのを感じるぞ、こんな魔法の身があるんだったら楽勝だな、何個か持って行こう』
寒くて一人ぼっちの時には独り言が多くなる、誰に話すわけでもなくまるで自分に言い聞かせるように声に出しながら、実を袋に入れていると突然根元から木が激しく揺さぶられた。
見降ろすと、クマだ!しかもただのクマじゃない、獰猛なホワイトベアーだ。
(こんな木、一瞬で折られてしまう)
そう思った瞬間、その鋭い爪で引き裂かれるように木は折られ、俺は空中に投げ出されてしまった。
(落ち着け、これくらい訓練で何度もやってきた)
俺はネコの着地を思い出し、冷静に地面に着地した。
腹をすかせたホワイトベアーは大きな口を開けて威嚇しながら二本足で立ちあがった。
流石にでかい、立ち上がるとその大きさはより一層大きく見える。
『トランス、さあ掛かってこいよ、熊め!』
ホワイトベアーの鋭い爪を剣で受け止められるわけもなく剣ごと吹っ飛ばされた、こいつはさっきのウルフみたいに簡単にやられてくれそうにない。
真正面から攻撃を受けても、物理攻撃でクマに敵うわけがない。
『ゴ―マ』
自分の剣に炎を宿し、炎の剣と化した剣でホワイトベアーの首元を斬った。
折れたのはクマの首ではなく、自分の剣であった事を吹っ飛ばされた空中で知る。
(嘘だろ?剣が折られるなんて、何なんだよあのクマは。どうやって闘えばいい、考えろ、考えろ、考えろ・・・)
空中に吹っ飛ばされたほんの二秒ほどの間に僕の頭はフル回転していた。
『物理攻撃がダメなら魔法をぶち込んでやる、ラゴ―マ』
炎の玉が降り注ぎ、ホワイトベアーは炎に包まれた。
今度は外さない、弱ったベアーのコメカミめがけて折れた剣を突き刺した。
『ちょっと苦戦したな、まあ天才と言われた俺にしてみりゃ大したことは無いけどな。さっきの実は潰れちまったけど、でっかい食料が手に入った』
クマを捌き炎で焼いて俺の腹は満たされた、こんなに食べたのはいつ以来だろうというくらい貪り食った。
残った肉は氷づけにして保存用に取っておこう、貴重なタンパク質だ。
折られた木をソリの様に使い、保存食と化したホワイトベアーを引っ張って歩くと、眠るのに丁度よさそうな洞穴を見つけた。
『ちょっとしたサバイバルだな、シヴァはこんな事で俺の力を試しているつもりか?』
魔法で火を灯し暖を取り、ベアーの毛皮を被って考えていた。
(抜駆けしやがって、俺の居ない間に強くなっただと?絶対に認めねぇ)
ふと気が付くと何時間か眠っていたようだ、疲れもとれて体も軽い。
(今日からしばらくここをネグラにして、薬草とか水の貯えとか揃えよう。次の敵が現れる前に、先ずは折れた剣の代わりを探さなきゃな。とはいうものの、こんな雪山の中で代わりになりそうなものといったら見渡す限り、木くらいだ。ホワイトベアーに鉄の剣を折られたんだぞ?木なんて対峙できるはずがない)
呆然としながら折れた剣先を見ていると、外から舞い込んできた雪が剣先に降り、氷の粒となって固まった。
(氷山だもんな、これだけ寒けりゃ凍るよな。あそこにぶら下がっているツララが剣だったら・・・ツララか)
中でも形のよさそうなものをポキッと追って削って作ってみた。
(だめだ、弱すぎる。そりゃそうだよなー、これがこう、根元の部分からくっついて硬くなってくれたら恰好いいのにな)
剣の柄を外して自作の氷刃をはめようとした時、柄の裏に書かれている文字に気づいた。
(あれ、こんなのあったんだ)
【氷の力を受け継ぐ者よ、汝らの刀身は呪文によって開かれる】
(姉さんも知ってて同じ剣を使っていたって事か)
確かに大見え切って奴らの元を離れる時、渡されたのがこの剣だ。
「呪文によって開かれる」
って事は、これはひょっとして魔法剣なのか?
柄の裏に書いてある文字を読んでみる。
『ラド・フリーズ・ソラル』
頼りなかったツララの刃が見事な氷の剣になった。
(おお、これは美しく強そうな剣だ。呪文と唱えて刃が出来たって事は、あの時俺も氷の力を受け継いでいたって事か。ならば先ずは試し切りだ)
洞窟の外に出て目に前に立つ大木に向かって剣を振り下ろした、見事に剣が粉々に砕けてしまった。
(強度が足りない、ならば氷属性の攻撃魔法を加えてみたらどうなのか)
時間が経つのも忘れてあれやこれやとやっている内に木を両断できるレベルにまでなった。
(まだ足りない、これではクマには勝てない)
ふとコジロウとバディーを組んで刃獣に挑んだ時を思い出した。
『あの時は気を高めて、更に力をドーピングさせて・・・俺はベゴマイトでアイツみたいにフラフラになったりしない、やってみるか』
「ラド・フリーズ・ソラル」
で氷剣をつくり、
「トランス・ベゴマイト」
と唱えてみた。刃は青白く光り輝き、まるで鋼鉄の刀身であるかのように美しく形を変化させた。
(さすがに疲れたな、そういえば飲み水がない。割と近くから滝の音が聞こえるから水を汲みに行こう)
少し歩いたところに表面は氷で覆われ、氷の内側を流れる綺麗な滝があった。
空になった水筒に水を汲もうとした時、滝壺の中から無数の氷の刃が現れ、自分に向かって飛んできた。
先程作った剣で応戦するもキリがないほどに無数の刃が飛んでくる、何とか避けるのが精一杯だ。
右に逃げても左に逃げても刃は自分のいる方向に的確に飛んでくる。
『くそ、これじゃあラチが明かねえ。どっかにこいつらの親玉はいないのかよ』
少しずつ飛んでくる刃のスピードにも慣れてきたその時、滝壺に浮かぶ氷の結晶みたいなものが視界に入った。
(あいつが親玉かよ、遠いな。魔法で粉砕するか)
『ラフリーズ!』
魔法で出来た氷の刃を親玉に突き刺し、戦いは終わったかに見えた。
だが敵の氷刃はまだ容赦なく飛んでくる、突き刺した親玉を見てみると結晶の形が変わっていた。
何度も親玉らしき結晶を壊しては再生されを繰り返し、意識は朦朧とし魔力の限界が見えた時、
「諦めるな!」
そうコジロウが頭の中で叫んだような気がして我に返った。
(あいつが思い浮かぶようじゃ俺もまだまだだな、冷静になれ、親玉らしき奴はダミーだ。本体がどこかに居るはず、それを探らないと串刺しだ)
『見るんじゃない、感じろ!』
そう自分に言い聞かせ、深く息を吐き静かに目を閉じた。
飛んでくる氷刃の動きや気配はわかる、でも親玉らしきものが方角には何も感じない、むしろ滝本体の方から大きな気配を感じる。
(滝が本体か!滝が相手となるとこんなデカイ奴、フルパワーで出し惜しみは出来ないな。大丈夫、俺ならできる)
『ベゴマクト・ラドフリーズ』
最大パワーの凍てつく波動で滝を完全に凍らせ、「氷飛の斬」 持てる限りの最大力を叩きつけた。
自分に向かって飛んできていた氷刃はバラバラと地面に落ち、自らも力を使い果たしてその場に倒れ伏した。
頭の中に声が聞こえる、氷神シヴァだ。
【愚かなり弱き者よ、この程度か。レイワはこんなものではなかったが】
『ふざけるな、こんなもの一晩寝れば回復できる』
誰に言うわけでもなく自分に言いながら、とはいえ歩いて帰る体力も残っておらず、自分の惨めさに涙しながら這いずりながら何とか巣穴に戻った。
(何かいる!でもとても戦える状態じゃない、俺はここまでなのか)
(ここに姉さんが強くなれた秘密がある)
そう信じてここに来るしか彼に選択肢はなかったのだ。
一歩を踏み込むと猛烈な吹雪によって、まるで「立ち入るな」と言わんばかりに後方へ吹き飛ばされた。
とはいえここまで来て帰る訳にもいかず、何度も一歩踏みこんでは吹き飛ばされるという繰り返し。
(昔は入れたのに何で入れないんだ?ちょっと待て、一度冷静になって昔の事を思い出してみよう)
そう自分に言い聞かせ近くの岩に腰を降ろして当時を思い出す。
(父と母は大戦で亡くなって、姉さんと二人この氷山に逃げ込んだ。あの時は姉さんが俺の手を握って二人ともひたすら走った、 息も苦しいし横っ腹も痛かったけれど、
《軍の奴らに殺されるよりはいい》
って姉さん言ってたっけ。すごく寒い中二人で身体を寄せ合って木の穴の中で震えてたな。だんだん眠くなってきて、二人とも寝てしまった。起きたら・・・)
『思い出した、氷の妖精だ!そして必ず挨拶があった!』
辛く苦しかった記憶だったので自分の中で封印していたが、こうして冷静に思い出してみるといろいろと当時の姿が鮮明に浮かんでくる。
氷山の入り口である北側に周り、二本そびえる大木の前に立ち、あの時妖精から教わった挨拶を行う。
(両側の大木に敬意の念を込めて優しく触れ「フリーズ」と唱える、その後大木の間にある岩に自分の額を着けて妖精に話しかける「清らかなる氷神シヴァ、我に道を示したまえ」)
すると吹雪はピタッと収まり、「この道を辿りなさい」というように森の中に氷の道が現れた。
昔はすんなり歩けたような記憶があるが、今は滑って脚を取られそうになる、一歩ずつ慎重に歩を進める。
辿り着いた先には大きな氷の扉があり、紋章が描かれている。
『氷神シヴァよ、我が名はミライ。汝の血を継ぐものなり』
ゆっくりと扉が開き、蒼く透明な美しい女性がそこにはいた。
【我が名を呼ぶ者よ、お前とは昔あった事があるな】
『はい。姉と二人でこの森に迷い込み、凍えて眠ってしまった時に貴女に助けて戴きました』
【凛々しくなったものよ、姉レイワに比べるとお前の力は赤子の様じゃ】
『はい。私も強くなりたくて貴女の元に参りました。どうぞ力をお貸しください』
【汝に問う、なぜ強さを欲するのか?】
『姉に、そしてあの三人と対等、いやそれ以上の力をつけて見返してやりたいのです』
【愚かな弱きものよ、扉の外に出て雪山に籠り、1年間生きていられたらその時また汝に問おう。さらばだ】
そういうと氷神シヴァはキラキラと結晶になって姿を消してしまった。
(どういうことだ?こんな何もない雪と氷の山の中で一年間も生き抜けと。でもやらない事にはシヴァは教えてくれないという事であろう、であればやるしか道はない)
氷の扉から外に出ると、再び扉は閉まってしまった。
そして夥しい数の殺気に囲まれている事に気づく、野生のウルフだ。
扉を背にしてウルフと早速一戦交える事になってしまったが、集団戦闘訓練なら受けてきたし特獣と闘った時の事を思えば可愛いものだ。
ウルフの攻撃パターンは前後左右さまざまな方向から襲い掛かってくるものの、どれも直線的だ。
避けては斬るのカウンター戦法が有効だろう、保険と言っては何だが自分に「トランス」を掛けておこう。
『トランス』
脅えどころか気迫に満ちていくのがわかる。
訓練通り冷静に、避けては斬り避けては斬りであっという間にウルフを全滅させた。
(ふん、シヴァの試練などこんなものか)
そんな事を考えながらひとまず寝床にできそうな穴を探しながら山の頂上を目指して歩いた。
喉の渇きは雪やりの塊を溶かしたもので何とかなるが、空腹は水では治まらない。
ふと見上げると雪をかぶった木の傘の中に何やら黄色い実が見える。
『おっ、食い物じゃん!これくらいの高さならお手のものだぜ』
ひょいひょいと木を上り、実をもいで食べてみた。
『うまい。身体は温まるし魔力も回復できているのを感じるぞ、こんな魔法の身があるんだったら楽勝だな、何個か持って行こう』
寒くて一人ぼっちの時には独り言が多くなる、誰に話すわけでもなくまるで自分に言い聞かせるように声に出しながら、実を袋に入れていると突然根元から木が激しく揺さぶられた。
見降ろすと、クマだ!しかもただのクマじゃない、獰猛なホワイトベアーだ。
(こんな木、一瞬で折られてしまう)
そう思った瞬間、その鋭い爪で引き裂かれるように木は折られ、俺は空中に投げ出されてしまった。
(落ち着け、これくらい訓練で何度もやってきた)
俺はネコの着地を思い出し、冷静に地面に着地した。
腹をすかせたホワイトベアーは大きな口を開けて威嚇しながら二本足で立ちあがった。
流石にでかい、立ち上がるとその大きさはより一層大きく見える。
『トランス、さあ掛かってこいよ、熊め!』
ホワイトベアーの鋭い爪を剣で受け止められるわけもなく剣ごと吹っ飛ばされた、こいつはさっきのウルフみたいに簡単にやられてくれそうにない。
真正面から攻撃を受けても、物理攻撃でクマに敵うわけがない。
『ゴ―マ』
自分の剣に炎を宿し、炎の剣と化した剣でホワイトベアーの首元を斬った。
折れたのはクマの首ではなく、自分の剣であった事を吹っ飛ばされた空中で知る。
(嘘だろ?剣が折られるなんて、何なんだよあのクマは。どうやって闘えばいい、考えろ、考えろ、考えろ・・・)
空中に吹っ飛ばされたほんの二秒ほどの間に僕の頭はフル回転していた。
『物理攻撃がダメなら魔法をぶち込んでやる、ラゴ―マ』
炎の玉が降り注ぎ、ホワイトベアーは炎に包まれた。
今度は外さない、弱ったベアーのコメカミめがけて折れた剣を突き刺した。
『ちょっと苦戦したな、まあ天才と言われた俺にしてみりゃ大したことは無いけどな。さっきの実は潰れちまったけど、でっかい食料が手に入った』
クマを捌き炎で焼いて俺の腹は満たされた、こんなに食べたのはいつ以来だろうというくらい貪り食った。
残った肉は氷づけにして保存用に取っておこう、貴重なタンパク質だ。
折られた木をソリの様に使い、保存食と化したホワイトベアーを引っ張って歩くと、眠るのに丁度よさそうな洞穴を見つけた。
『ちょっとしたサバイバルだな、シヴァはこんな事で俺の力を試しているつもりか?』
魔法で火を灯し暖を取り、ベアーの毛皮を被って考えていた。
(抜駆けしやがって、俺の居ない間に強くなっただと?絶対に認めねぇ)
ふと気が付くと何時間か眠っていたようだ、疲れもとれて体も軽い。
(今日からしばらくここをネグラにして、薬草とか水の貯えとか揃えよう。次の敵が現れる前に、先ずは折れた剣の代わりを探さなきゃな。とはいうものの、こんな雪山の中で代わりになりそうなものといったら見渡す限り、木くらいだ。ホワイトベアーに鉄の剣を折られたんだぞ?木なんて対峙できるはずがない)
呆然としながら折れた剣先を見ていると、外から舞い込んできた雪が剣先に降り、氷の粒となって固まった。
(氷山だもんな、これだけ寒けりゃ凍るよな。あそこにぶら下がっているツララが剣だったら・・・ツララか)
中でも形のよさそうなものをポキッと追って削って作ってみた。
(だめだ、弱すぎる。そりゃそうだよなー、これがこう、根元の部分からくっついて硬くなってくれたら恰好いいのにな)
剣の柄を外して自作の氷刃をはめようとした時、柄の裏に書かれている文字に気づいた。
(あれ、こんなのあったんだ)
【氷の力を受け継ぐ者よ、汝らの刀身は呪文によって開かれる】
(姉さんも知ってて同じ剣を使っていたって事か)
確かに大見え切って奴らの元を離れる時、渡されたのがこの剣だ。
「呪文によって開かれる」
って事は、これはひょっとして魔法剣なのか?
柄の裏に書いてある文字を読んでみる。
『ラド・フリーズ・ソラル』
頼りなかったツララの刃が見事な氷の剣になった。
(おお、これは美しく強そうな剣だ。呪文と唱えて刃が出来たって事は、あの時俺も氷の力を受け継いでいたって事か。ならば先ずは試し切りだ)
洞窟の外に出て目に前に立つ大木に向かって剣を振り下ろした、見事に剣が粉々に砕けてしまった。
(強度が足りない、ならば氷属性の攻撃魔法を加えてみたらどうなのか)
時間が経つのも忘れてあれやこれやとやっている内に木を両断できるレベルにまでなった。
(まだ足りない、これではクマには勝てない)
ふとコジロウとバディーを組んで刃獣に挑んだ時を思い出した。
『あの時は気を高めて、更に力をドーピングさせて・・・俺はベゴマイトでアイツみたいにフラフラになったりしない、やってみるか』
「ラド・フリーズ・ソラル」
で氷剣をつくり、
「トランス・ベゴマイト」
と唱えてみた。刃は青白く光り輝き、まるで鋼鉄の刀身であるかのように美しく形を変化させた。
(さすがに疲れたな、そういえば飲み水がない。割と近くから滝の音が聞こえるから水を汲みに行こう)
少し歩いたところに表面は氷で覆われ、氷の内側を流れる綺麗な滝があった。
空になった水筒に水を汲もうとした時、滝壺の中から無数の氷の刃が現れ、自分に向かって飛んできた。
先程作った剣で応戦するもキリがないほどに無数の刃が飛んでくる、何とか避けるのが精一杯だ。
右に逃げても左に逃げても刃は自分のいる方向に的確に飛んでくる。
『くそ、これじゃあラチが明かねえ。どっかにこいつらの親玉はいないのかよ』
少しずつ飛んでくる刃のスピードにも慣れてきたその時、滝壺に浮かぶ氷の結晶みたいなものが視界に入った。
(あいつが親玉かよ、遠いな。魔法で粉砕するか)
『ラフリーズ!』
魔法で出来た氷の刃を親玉に突き刺し、戦いは終わったかに見えた。
だが敵の氷刃はまだ容赦なく飛んでくる、突き刺した親玉を見てみると結晶の形が変わっていた。
何度も親玉らしき結晶を壊しては再生されを繰り返し、意識は朦朧とし魔力の限界が見えた時、
「諦めるな!」
そうコジロウが頭の中で叫んだような気がして我に返った。
(あいつが思い浮かぶようじゃ俺もまだまだだな、冷静になれ、親玉らしき奴はダミーだ。本体がどこかに居るはず、それを探らないと串刺しだ)
『見るんじゃない、感じろ!』
そう自分に言い聞かせ、深く息を吐き静かに目を閉じた。
飛んでくる氷刃の動きや気配はわかる、でも親玉らしきものが方角には何も感じない、むしろ滝本体の方から大きな気配を感じる。
(滝が本体か!滝が相手となるとこんなデカイ奴、フルパワーで出し惜しみは出来ないな。大丈夫、俺ならできる)
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最大パワーの凍てつく波動で滝を完全に凍らせ、「氷飛の斬」 持てる限りの最大力を叩きつけた。
自分に向かって飛んできていた氷刃はバラバラと地面に落ち、自らも力を使い果たしてその場に倒れ伏した。
頭の中に声が聞こえる、氷神シヴァだ。
【愚かなり弱き者よ、この程度か。レイワはこんなものではなかったが】
『ふざけるな、こんなもの一晩寝れば回復できる』
誰に言うわけでもなく自分に言いながら、とはいえ歩いて帰る体力も残っておらず、自分の惨めさに涙しながら這いずりながら何とか巣穴に戻った。
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