上 下
31 / 45
第五章「タイセツだと思うから」

しおりを挟む
「ん…」

ひと通りのことが済んだ私は、ギンガ君と一緒に甘崎君の様子を見にやってきた。彼はモゾモゾと体を動かすと、ゆっくりと目を開ける。

「あっ、ごめんね。起こしちゃった?」

「し、白石?何でウチに」

「兄ちゃん何言ってるの?ツバサさん手伝いに来てくれたでしょ?」

ギンガ君の言葉に、甘崎君は思い出したように「そういえば…」と呟く。

「体調はどう?まだ辛い?」

「寝たら大分熱が下がった気がする」

甘崎君はまだ意識がハッキリしてないのか、何度も瞬きを繰り返してる。いつものしっかりした彼とは違っていて、ちょっと可愛いなんて思ってしまった。

「おかゆ作ったんだ。もし良かったら食べて」

トレーに乗せたおかゆをベッドサイドにあるテーブルに置く。

「それから薬とお水も。ご飯食べた後に飲んでね」

「これ、白石が作ってくれたの?」

「あ…うん、スマホのレシピ見ながら。想像してたより水分の少ないおかゆになっちゃって、ちょっとボソボソしてるかもしれないけど…」

あんなに料理上手な甘崎君に私の作ったものを食べてもらうのは、かなり恥ずかしい。

甘崎君はレンゲでおかゆをすくうと、ふーふーしながら口に運んだ。

「だ、大丈夫?ちゃんと食べられそう?」

「…おいしい」

甘崎君はさんそう言ってひとくち、またひとくちとどんどん食べ進めてくれた。

この間甘崎君に嫌な思いをさせちゃったのに、そんなこと関係なくちゃんと食べてくれる。

こんな時でも優しい彼の姿に、私は涙が出そうになった。

「水もうないね。僕取ってくる」

「あっ、私行くよ」

「いいから、ツバサさんはここにいて」

ギンガ君はそう言うと、コップを持って部屋を出て行った。小学二年生なのに、しっかりしてるよなぁ。

シュタロー君も私より年上に見えるくらい落ち着いてるし、ミドリ君とアオ君も今日は凄くテキパキ動いてた。

甘崎兄弟は皆、力を合わせて頑張ってるんだ。私も、寂しいなんて言ってられない。

「…あ」

ふと、今自分が甘崎君と二人きりだということを思い出す。途端に恥ずかしくなって、体がガチガチに固まった。しかも今更だけど、初めて男の子の部屋に入っちゃったし。

「あ、あの私、アオ君達の様子見てくるね!」

甘崎君の方を見られないまま立ち上がると、部屋を出て行こうとする。

「待って、白石」

パシッと手を掴まれて、その瞬間私は体が動かなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワガママ姫とわたし!

清澄 セイ
児童書・童話
照町明、小学5年生。人との会話が苦手な彼女は、自分を変えたくても勇気を出せずに毎日を過ごしていた。 そんなある日、明は異世界で目を覚ます。そこはなんと、絵本作家である明の母親が描いた物語の世界だった。 絵本の主人公、ルミエール姫は明るく優しい誰からも好かれるお姫さま…のはずなのに。 「あなた、今日からわたくしのしもべになりなさい!」 実はとってもわがままだったのだ! 「メイってば、本当にイライラする喋り方だわ!」 「ルミエール姫こそ、人の気持ちを考えてください!」 見た目がそっくりな二人はちぐはぐだったけど… 「「変わりたい」」 たった一つの気持ちが、世界を救う…!?

魔法少女は世界を救わない

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 混沌とした太古の昔、いわゆる神話の時代、人々は突然現れた魔竜と呼ばれる強大な存在を恐れ暮らしてきた。しかし、長い間苦しめられてきた魔竜を討伐するため神官たちは神へ祈り、その力を凝縮するための祭壇とも言える巨大な施設を産み出した。  神の力が満ち溢れる場所から人を超えた力と共に産みおとされた三人の勇者、そして同じ場所で作られた神具と呼ばれる強大な力を秘めた武具を用いて魔竜は倒され世界には平和が訪れた。  それから四千年が経ち人々の記憶もあいまいになっていた頃、世界に再び混乱の影が忍び寄る。時を同じくして一人の少女が神具を手にし、世の混乱に立ち向かおうとしていた。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

ビワ湖の底からこんにちわ

あとくルリ介
児童書・童話
遠い未来の世界で、お爺さんと孫娘、学校の友達や先生が活躍するコメディです。 地獄でエンマ大王に怒られたり、吸血鬼に吸われたり、幽霊船で嵐の島を目指したりします。終盤、いろんなことを伏線的に回収します。 (ジャンル選択で男性向け女性向けを選ばなければならなかったのですが、どっち向けとかないです。しいて言えば高学年向け?)

魔法が使えない女の子

咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。 友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。 貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...