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僕は貧弱ではない

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私達は道中、よく燃えそうな枯木を拾い集めていた。イアンがそれに火をつけたものを投げ入れる。時間差で燃えるように魔術がかけられたそれは、上手い具合に魔術師達の気を逸らしてくれた。

事前にアレイスター様から頂いていた薬品も、枯木に混ぜておいた。命を奪うようなものではないけれど、目や鼻に強烈な刺激を与えるものだ。

「相手は手練れです、用心してください」
「分かってる!」
「レイリオ、怪我をしたらすぐに知らせて!」

レイリオは私に向かって力強く頷き、そして初めて出会った時と同じ、大きな狼へと姿を変え走り去っていった。

私は全身の血液の流れを意識するようにして、聖力を流し込んでいく。淡い光に包まれた私は、二人にだけ聞こえるよう声を潜めた。

「僕とロココで耐火の魔術を施してありますが、限界はあります」
「充分だわ、ありがとう!」

煙に紛れて、私達は前へと進む。レイリオが上手く引きつけてくれているおかげで、進路はそれ程妨害されていない。

イアンの炎に加え、ロココさんが壁を吹き飛ばしてくれるのも、大きな要因だ。

「イザベラ様、後ろです!」
「聖女様ご覚悟を!」
「…っ」

(お願いどうか…!)

振り向きざまに手をかざし、そこに力を集中させる。私に向かって放たれた魔力の塊は、聖力とぶつかり合い弾け飛んだ。

「聖女と獣人以外は殺せ!」
「ただの貧弱男と女だ、どうということはない!」

団員の誰かがそう声を荒げた瞬間、どん!という凄まじい轟音と共に一角が激しく燃え始める。そしてその中心には、イアンが立っていた。

燃え盛る炎とは対照的な、冷ややかな表情。至って冷静な口調で、彼は言葉を紡いだ。

「誰が貧弱だ、くそ野郎が」

(こっ、怖い…っ)

「あーあ。ああなったらもう、手がつけられないわよ」
「だっ、大丈夫なのでしょうか」
「平気平気。ここはあの二人に任せて、私達は行きましょ」

私達はただひたすらに上階を目指す。この城は構造が複雑で、ロココさんの爆破がなければ階段すら見つけることは難しかったかもしれない。彼女は進路が断たれないよう、上手く衝撃を調節してくれていた。

「アザゼル様の居場所は、イザベラに任せたからね!」
「はい、大丈夫です!」

胸元に輝く、ゴールドのロケットペンダント。その中には、あの夜アザゼル様から貰ったオーロの羽が仕舞われている。

(これがあれば、あの方の居場所が分かる)

魔力が込められているからなのか、詳しくは分からない。だけどはっきりと、アザゼル様の気配を感じ取れる。

彼はこの為に、私に羽を授けてくれたのだ。

「待て!止まれ!」
「こんなことをしてタダで済むと思うなよ!」
「やだ、三流がよく使うセリフね」

四方八方から湧き出てくる魔術師達を、ロココさんが細かな爆破で蹴散らす。

(不思議な感覚だわ)

ただ治癒にだけ力を注いでいた頃とは違う。アレイスター様と訓練をしていたおかげだと、いまここには居ないあの方に感謝する。

聖女の力は、私の力。私が願えば、それはいかようにも形を変える。

「死ねぇ!」
「ロココさん!」

両手をかざし、光の防御壁を作り出す。彼女に向けて放たれた無数の魔力の弾は、それによって全て弾かれた。

「イザベラ、あんためちゃくちゃじゃないの!」
「やってみたら出来ました!」
「なによそれ!」

ロココさんはけらけらと楽しげに笑いながら、少し煤けてしまった薄桃色の髪を可愛らしく揺らした。
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