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懐かしく愛しい、あの姿

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出立前夜。私は窓の前に立ち、ぼうっと空を眺めていた。不気味なほどに丸く、そして明るく輝いている。開け離した窓から入り込んだ風が、私の頬をさらりと撫でた。

「…」

分からない、何が正しいことだったのか。

もしかしたら今こうしてここに居ることすら、間違いなのかもしれない。

聖女としてあのまま永遠に、スティラトールの駒として生きていたならば、レイリオの心が苦しめられることもなかった。

全て、私の行動が起因しているのならば。

(私は…)

このまままっすぐに歩み続けることは、本当に正しいことなのだろうかと。

考えても仕方のないことは考えないと、私もそんな風に合理的な思考が出来たならいいのにと、不甲斐なく思う。

いつまでもふせっていても仕方がないと、窓に手をかける。閉めようとした瞬間、きらりと光る何かがこつんと当たった。

暗がりの中、目を凝らす。

(この子は…)

「オーロ…いえ、アザゼル様…っ!」

黄金に光る艶のある羽、闇に溶け込む漆黒の瞳、小さな身体。

かつて孤独だった私を救ってくれた小鳥であり、私がオーロと名付けた子。オーロの正体がアザゼル様と知り衝撃を受けたことが、遠い昔のように感じられる。

この姿を目にするのは、スティラトールに居た時以来。胸に広がる懐かしさに、思わず両手を伸ばした。

金色の小鳥は素直に私の腕に収まり、その滑らかな羽を擦り寄せる。指で優しく撫でると、気持ち良さげに瞳を細めた。

(温かい…)

じわりと、目の端に涙が浮かぶ。アザゼル様には、全てお見通しだったのだ。私の浅はかな懺悔も後悔も、全て。

「わざわざオーロの姿で慰めにきてくれたのですね、アザゼル様」
「…」
「嬉しいです、とても」

言葉にしなくても、肯定されていると分かる。あの出逢いは間違いではなかったと、小さな身体が伝えてくれる。

(愛しい)

ありったけの想いを込めて、滑らかな羽にキスを落とす。そしてしばらくののち、ゆっくりとベッドの上に下ろすとくるりと背を向けた。

「オーロの姿のアザゼル様に会えて、本当に嬉しいです。だけど、欲張りでごめんなさい。今度はアザゼル様のお顔が、見たいです」

オーロの方は見ることが出来ない。だって元の姿に戻った時、アザゼル様はきっと何も身につけていないのだろうから。

「イザベラ」

シーツの擦れる音と共に、低く甘い声が私の耳元で聞こえる。アザゼル様は後ろから、そっと私を抱き締めた。

「私、嬉しいです。どちらのアザゼル様も、本当に好きです」
「少しは元気出たか?」
「ふふっ。はい、とても」

彼に身を任せ、瞼を閉じる。彼の滑らかな髪が頬をくすぐったかと思うと、唇に優しいキスが落ちてきた。

「お前の考えていることくらい、全部お見通しなんだよ」
「そうですね。アザゼル様に隠しごとはできないみたいです」
「お前のせいじゃないと言ったところで、意味もないだろう」

シーツでは隠しきれていない肌が直接背中に触れ、そこが熱を帯びる。私はきちんと寝着を着ているのに、痛いほどに胸が高鳴る。

「イザベラ、これを」
「これは…」

アザゼル様が私に差し出したのは、羽だった。細く滑らかなそれは、持ち主の元を離れてもなお光り輝いている。

「肌身離さず持ってろ」
「はい、必ず」

ふわふわとしていて、すぐにどこかへ飛んでいきそうだ。私は受け取ったそれを、そっと握り締めた。

「例えお前が世界を滅ぼしても、傍に居る。背負ってやるよ、お前の全てを」
「…嬉しい、アズ様」
「“魔王”だからな、俺は」

愉快そうに喉を鳴らす愛しい人に全てを委ねるように、私は再び瞼を閉じた。
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