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いつもよりずっと
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いつもとは違う雰囲気に、身体が固まって動かない。今この瞬間の彼は確かに“魔王”であるように見えた。
「ま、そんな話はおいといて…っと」
ぱっと表情を戻すと、彼はにたりと口角を上げる。そしてふわりと、私の体を持ち上げた。
(まっ、また抱き抱えられてる…っ)
「離してくださいっ!」
突然のことに驚きつつも、足をじたばたしながら抵抗する。彼には何の効力もなく、下ろす気は微塵もないようだった。
「ほら、首に手回して掴まってろ」
「いっ、嫌です!どうしてそんなこと」
「あ?そりゃ、落ちたら死ぬからに決まってんだろ」
どういう意味ですかと、そう尋ねる前に私達の体は重力に逆らい始める。そしてあっという間に、ぶわっと宙に浮いた。
「キャ…ッ!」
ここに拐われてこられた時と同じように、強烈な浮遊感が私を襲う。反射的にぎゅうっと彼の首元に抱き着いてしまった。
一体どこに…と思う間もなく、魔王はとんと大きな木の上に着地する。木登りというにはあまりにも大胆過ぎて、心臓がばくばくと脈打っている。
「イザベラ、降ろすぞ」
あれだけ抱き抱えられるのが嫌だったのに、今は降ろしてほしくないと思うなんて。言えるはずもないので、私は恐る恐る太い木の枝の上に立った。
魔王がしっかりと私を支えてくれているおかげで、バランスは取れている。
(あれ…?意外とぐらぐらしない)
やはり普通の木とは樹齢が違うのか、その幹も枝もとても太い。隣の彼に倣い、私も恐る恐る足を投げ出し枝に腰掛けた。
「つか今更だけど、高い所駄目だったか?」
「分かりません、初めてなので」
「気分悪くなったら言えよ」
相変わらず距離が近いので、顔は熱いしそわそわしてしまう。けれどさすがにこんな場所で暴れるわけにはいかない。
それに下を見ても生い茂った葉に覆われ、どれだけ高い位置に自分がいるのかが分からなくて怖い。
こんな時ばかり頼るのは忍びないと思いつつも、私は彼の腕から手を離すことができなかった。
しばらくじっとしていると、段々と慣れて余裕が出てきた。目線を前に向けると、先程まで視界を遮っていたものがほとんどなくなり、目の前いっぱいに青い空が広がる。
「なんて綺麗なの…」
感嘆の溜息と共に、思わずぽつりと溢れた。
「高い所はいいだろ?こうしてると、大概のことはどうでもよくなる」
(どうでも、よくなる)
私の心は、いつも追われていた。それに疑問を持つこともなかった。
「この国は、こんなにも広いのですね…」
私が思う以上にこの木は高いのだろう。それとも、この深林自体が高い場所に位置しているのか。
遠くの眼下に広がるスティラトールの街や村が、とても小さく見えた。
一瞬ざあっと強い風が吹き、私は思わず魔王の腕にしがみつく。こんなことはよくないと理解しつつも、落ちるかもしれないという恐怖の方が勝った。
「す、すみません」
「…別に」
彼はふいっと、そっぽを向く。風にゆらゆらと遊ばれているその黒髪が、いつも以上に綺麗だと思った。
「ま、そんな話はおいといて…っと」
ぱっと表情を戻すと、彼はにたりと口角を上げる。そしてふわりと、私の体を持ち上げた。
(まっ、また抱き抱えられてる…っ)
「離してくださいっ!」
突然のことに驚きつつも、足をじたばたしながら抵抗する。彼には何の効力もなく、下ろす気は微塵もないようだった。
「ほら、首に手回して掴まってろ」
「いっ、嫌です!どうしてそんなこと」
「あ?そりゃ、落ちたら死ぬからに決まってんだろ」
どういう意味ですかと、そう尋ねる前に私達の体は重力に逆らい始める。そしてあっという間に、ぶわっと宙に浮いた。
「キャ…ッ!」
ここに拐われてこられた時と同じように、強烈な浮遊感が私を襲う。反射的にぎゅうっと彼の首元に抱き着いてしまった。
一体どこに…と思う間もなく、魔王はとんと大きな木の上に着地する。木登りというにはあまりにも大胆過ぎて、心臓がばくばくと脈打っている。
「イザベラ、降ろすぞ」
あれだけ抱き抱えられるのが嫌だったのに、今は降ろしてほしくないと思うなんて。言えるはずもないので、私は恐る恐る太い木の枝の上に立った。
魔王がしっかりと私を支えてくれているおかげで、バランスは取れている。
(あれ…?意外とぐらぐらしない)
やはり普通の木とは樹齢が違うのか、その幹も枝もとても太い。隣の彼に倣い、私も恐る恐る足を投げ出し枝に腰掛けた。
「つか今更だけど、高い所駄目だったか?」
「分かりません、初めてなので」
「気分悪くなったら言えよ」
相変わらず距離が近いので、顔は熱いしそわそわしてしまう。けれどさすがにこんな場所で暴れるわけにはいかない。
それに下を見ても生い茂った葉に覆われ、どれだけ高い位置に自分がいるのかが分からなくて怖い。
こんな時ばかり頼るのは忍びないと思いつつも、私は彼の腕から手を離すことができなかった。
しばらくじっとしていると、段々と慣れて余裕が出てきた。目線を前に向けると、先程まで視界を遮っていたものがほとんどなくなり、目の前いっぱいに青い空が広がる。
「なんて綺麗なの…」
感嘆の溜息と共に、思わずぽつりと溢れた。
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(どうでも、よくなる)
私の心は、いつも追われていた。それに疑問を持つこともなかった。
「この国は、こんなにも広いのですね…」
私が思う以上にこの木は高いのだろう。それとも、この深林自体が高い場所に位置しているのか。
遠くの眼下に広がるスティラトールの街や村が、とても小さく見えた。
一瞬ざあっと強い風が吹き、私は思わず魔王の腕にしがみつく。こんなことはよくないと理解しつつも、落ちるかもしれないという恐怖の方が勝った。
「す、すみません」
「…別に」
彼はふいっと、そっぽを向く。風にゆらゆらと遊ばれているその黒髪が、いつも以上に綺麗だと思った。
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