22 / 165
そわそわ、してしまう
しおりを挟む
私の為に用意された部屋は、とても素敵だった。魔物に攫われた人間がこんな部屋に案内されるなんて、本当におかし過ぎる。
(これは…きっとあれね。油断させておいて、その後殺すんだわ)
どちらにしても、彼らに私が必要な理由なんてそのくらいだ。それとももっと、私が想像もできないような残忍なことを考えているのだろうか。
(このまま舌を噛んで自害したら、この国に聖女がいなくなってしまう)
それは最終手段、人質や交渉材料にでも使われそうになった時に考えればいい。とにかく今は、冷静にならなければ。
「他の人達に怪我がなくてよかったわ…」
私以外誰もいない部屋の椅子に浅く腰掛け、先程の出来事を思い出す。魔王は、私以外の人達には手を出していなかったはず。攫われたのが私だったことは、考えようによっては良かったのかもしれない。
(大神官様にまた迷惑をおかけしてしまう)
きっと今頃、大神官様は心を痛めておられることだろう。とても慈悲深い方だから。
鉄格子も何も嵌められていない窓に近づき、そっと下を覗く。二階か三階だろうか、落ちても即死ではなさそうな高さだ。
ふぅと溜息を吐き、私は再び椅子にちょこりと腰掛ける。魔王にどんな酷いことをされようとも絶対に屈したりしないと、決意を新たにぐぐっと拳を握り締めた。
その時ごんごんとドアを叩く音が聞こえ、間髪入れずに開かれた。
「腹減っただろ?飯用意したから下に…」
黒髪を揺らしながら、魔王がこちらを見つめる。一体何なのかと身構えていると、彼は意味の分からないことを真顔で口にした。
「イザベラ、椅子の座り方わかんねぇのか?」
「…は?」
「いや、そんなはずねぇよな。前は普通に座ってたし」
(この人、何を言ってるの…)
つかつかと私の側にやってきた魔王は、ぐいっと私の腕を引く。突然のことで前につんのめりそうになった私の体を、彼はしっかりと抱きとめた。
「…っ」
戸惑う私を他所に魔王は私の両肩を掴むと、再び椅子に座らせる。
「椅子はこうやって座んだよ」
「…はい?」
「何でさっきは、あんな浅く座ってたわけ?」
どうして、そんなにどうでもいいことが気になるのだろう。けれど彼の表情は真剣で、私は言葉に詰まる。
「なぁ、何で?」
「それは…」
恥ずかしさから、顔が熱くなる。私は俯きながら、ぽそりと呟いた。
「こんなに素敵な椅子に座るの、慣れていなくて…」
(ああ、きっと馬鹿にされるわ)
そう身構えていた私に返ってきたのは、予想外の言葉。
「イザベラお前、可愛いな」
「っ」
思わずパッと顔を上げると、優しげな金の瞳と視線が絡む。
どうしようもなくむず痒い気持ちになって、私はまたすぐに俯いたのだった。
(これは…きっとあれね。油断させておいて、その後殺すんだわ)
どちらにしても、彼らに私が必要な理由なんてそのくらいだ。それとももっと、私が想像もできないような残忍なことを考えているのだろうか。
(このまま舌を噛んで自害したら、この国に聖女がいなくなってしまう)
それは最終手段、人質や交渉材料にでも使われそうになった時に考えればいい。とにかく今は、冷静にならなければ。
「他の人達に怪我がなくてよかったわ…」
私以外誰もいない部屋の椅子に浅く腰掛け、先程の出来事を思い出す。魔王は、私以外の人達には手を出していなかったはず。攫われたのが私だったことは、考えようによっては良かったのかもしれない。
(大神官様にまた迷惑をおかけしてしまう)
きっと今頃、大神官様は心を痛めておられることだろう。とても慈悲深い方だから。
鉄格子も何も嵌められていない窓に近づき、そっと下を覗く。二階か三階だろうか、落ちても即死ではなさそうな高さだ。
ふぅと溜息を吐き、私は再び椅子にちょこりと腰掛ける。魔王にどんな酷いことをされようとも絶対に屈したりしないと、決意を新たにぐぐっと拳を握り締めた。
その時ごんごんとドアを叩く音が聞こえ、間髪入れずに開かれた。
「腹減っただろ?飯用意したから下に…」
黒髪を揺らしながら、魔王がこちらを見つめる。一体何なのかと身構えていると、彼は意味の分からないことを真顔で口にした。
「イザベラ、椅子の座り方わかんねぇのか?」
「…は?」
「いや、そんなはずねぇよな。前は普通に座ってたし」
(この人、何を言ってるの…)
つかつかと私の側にやってきた魔王は、ぐいっと私の腕を引く。突然のことで前につんのめりそうになった私の体を、彼はしっかりと抱きとめた。
「…っ」
戸惑う私を他所に魔王は私の両肩を掴むと、再び椅子に座らせる。
「椅子はこうやって座んだよ」
「…はい?」
「何でさっきは、あんな浅く座ってたわけ?」
どうして、そんなにどうでもいいことが気になるのだろう。けれど彼の表情は真剣で、私は言葉に詰まる。
「なぁ、何で?」
「それは…」
恥ずかしさから、顔が熱くなる。私は俯きながら、ぽそりと呟いた。
「こんなに素敵な椅子に座るの、慣れていなくて…」
(ああ、きっと馬鹿にされるわ)
そう身構えていた私に返ってきたのは、予想外の言葉。
「イザベラお前、可愛いな」
「っ」
思わずパッと顔を上げると、優しげな金の瞳と視線が絡む。
どうしようもなくむず痒い気持ちになって、私はまたすぐに俯いたのだった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います
高井うしお
恋愛
※なろう版完結済み(番外編あり〼)
ハーブ栽培と本が好きなOL・真白は図書館で不思議な薬草辞典と出会う。一瞬の瞬きの間に……気が付くとそこは異世界。しかも魔物討伐の軍の真っ只中。そして邪竜の毒にやられて軍は壊滅状態にあった。
真白が本の導きで辞典から取り出したハーブを使うと彼らはあっという間に元気になり、戦況は一変。
だが帰還の方法が分からず困っている所を王子のはからいで王城で暮らす事に。そんな真白の元には色々な患者や悩み事を持った人が訪れるようになる。助けてくれた王子に恩を返す為、彼女は手にした辞典の加護で人々を癒していく……。
キラッキラの王子様やマッチョな騎士、優しく気さくな同僚に囲まれて、真白の異世界ライフが始まる! ハーブとイケメンに癒される、ほのぼの恋愛ファンタジー。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!
参
恋愛
男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。
ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。
全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?!
※結構ふざけたラブコメです。
恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。
ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。
前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。
※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる