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悲痛な胸の内

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「どうか、女神様のご加護があらんことを」

にこりと微笑み、淡く光を放つ自身の手を胸に当てる。治癒を施した老紳士は、頷きながら去っていった。私が治した彼の足の傷は、下級の魔物につけられたもの。

ここ最近、今までではあり得なかった場所で魔物が出現するようになった。それは、深林の外だ。仮に被害が出たとしても、深林付近の村までだったのに。

「次の方、こちらへ」
「アンタ一体、何をやっているの!」

突然、女性が私に飛びかかってくる。鬼のような形相で髪を掴まれ、思わず眉間に皺が寄った。

「アンタのせいでうちの子は、うちの子は…あぁぁぁっ!!」

ボロボロと涙を流し、ガラガラに枯れた声で叫ぶ。彼女の悲しみを理解した私は、抵抗もせずされるがままに詰られた。

きっと、魔物の被害に遭ったのだ。治癒を求めないということは、手遅れだということ。彼女の悲しみは、永遠に晴れることはなくなったのだ。

「ちょっと落ち着きなさい。どうしたというんだ」
「うちの子が、ちょっと目を離した隙に深林の側まで行っちまったんだ。気付いた頃には魔物の爪に、ズタズタに引き裂かれて死んでたんだよ…」

側にいた老紳士に宥められた彼女は膝から崩れ落ち、わんわんと泣き喚きながらことの顛末を口にする。

誰もが彼女の心の痛みを分かち合い、そして深く同情した。

「最近魔物が深林を出てうろついてるんだろう?そうじゃなきゃ、あの子が死ぬことだってなかったんだ。アンタの聖女の力は一体何の為にあるんだ!私達を守る為にあるんじゃないのかい!」
「仰る通りでございます。聖女とは民の為に…」
「じゃあ何であの子を守ってくれなかったんだこの役立たず!!」

バチン!と乾いた音が辺りに響く。左頬にまるで刃物で引き裂かれたかのような、強烈な痛みが走った。そして間髪入れず、右頬にも同じ衝撃が走る。

「返せ!ウチの子を返せ!!」
「…申し訳ございません。私が至らないばかりに」
「聖女の使命を全うしないアンタに、何の価値があるっていうんだい!」

天高く手を振り上げたまま、涙でぐちゃぐちゃに濡れた瞳は憎悪に満ちている。ドンと強く体を押されて、そのまま地面に倒れ込んだ。

「わあぁぁぁっ!!」
「可哀想に、可哀想に」
「我が子を失うなんて、こんなに悲しいことはないよ」

その場にいた誰もが彼女に寄り添い、先程私をぶったその手を温かく包み込む。

火で炙られたように熱い両頬を、私はひんやりとした土の上に擦り付けた。

「申し訳ございません…申し訳ごさいません…」

鉄の味が広がった口を懸命に動かし、私は何度も何度も懺悔の言葉を口にし続けた。
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