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第三章「異性を魅了する花の話」

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「どうしたの?オズベルト」
「……いや、なんでもない」
「もしかして、僕は君を怒らせてしまったかな?」
「まさか、本当のことだ。僕がフィリアを気にするのは罪悪感が原因で、それ以上でもそれ以下でもない」
 まるで自分に言い聞かせるかのように、きぱりとそう言い切った。
「僕は彼女を、愛していない」
「それはなんとも、極端だね。もう、愛だのという言葉が出るとは」
「ち、違う!断じてそういうあれではない!」
 熱くなる頬を腕で隠しながら、なぜか普段より数倍声が跳ね上がる。
「はいはい、分かってるって。ちょうど良いじゃないか。奥様には花香が通じないんだし、女避けになってもらえばいい。それに、実家から遠く離れてこんな田舎に一人で嫁ごうという女性に、あんな手紙を送りつけてくる鬼畜男なんて好きになるはずないんだから」
「き、鬼畜……」
「だってそうでしょう?お互い望んでそうなら構わないけど、君の場合は一方的だった。結果的に向こうもそれを望んでいたから良いものの、いくら政略結婚の相手とはいえあまりにも礼を欠いているよ」
 テミアンは元来、可愛らしい顔に似合わずずばずばと物申す性分だ。そこが付き合いやすいと思っているが、今日は特に言葉がきつい気がする。
 いやそれとも、言われていることが全て図星だからそう思うのか。冷静になって考えてみれば、僕の女性不信は相手になんの関係もない。白い結婚の提案をするにしても、きちんと順を追って話し合うべきだったのだ。
「おや、その顔は反省しているね」
「……うるさい、馬鹿野郎」
「まぁ、結果オーライということで。これから奥様には、思いきり好きなことをさせてあげたら良いよ。買い物でもお茶会でも、秘密の恋人でも」
 最後の台詞を聞いて、こんなにも胸がざわつくのはなぜだろうと考えても、答えは出せそうにない。
「あの手紙の有効性は、互いだからね。彼女は君の行動に口を出さない。そして君は彼女の行動に口を出さない。もちろん、常識の範囲内で」
「……テミアン。今回は珍しく色々と口出ししてくるじゃないか」
「サイコロを提案した僕にも、一応の責任はあるからさ」
 そのにやけ面は確実に面白がっていると、思わず舌打ちをしたくなる。とはいえ、なんだかんだで心の内を見せられる友人はこの男だけだ。
「まさかこんな展開が見られるなんて、実際に奥様にお目に掛かれる日が待ち遠しいなぁ」
 テミアンがぼそぼそと何か呟いているのが分かったが、どうせ碌なことではないので聞き返さないでおいた。
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