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最終章「ぽっちゃり双子は暗躍する!」

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 歳を重ねたケイティベルがどれだけ迫ろうとも、彼は頑として首を縦に振らなかった。そういうことは結婚してからだと口にしながら、いつも満足げに頭を撫でるだけ。
「私から逃げないで、レオ!」
「べ、別に逃げているわけでは……」
「何よ、嫌なの!?だったらそうって言ってよ!」
 彼の答えなど分かりきっているが、つい卑屈になってしまうのが女心というものだ。ふにふにの頬をぷくうっと膨らませて、腰元に手を当てている。本人は威嚇のつもりだが、ただ可愛らしく拗ねているようにしか見えない。
 レオニルは唇を噛みながら、おそらくこれまでの人生で最も頭を悩ませた。ケイティベルは世界一愛する女性であり、彼女を幸せにする為ならばどんなことでもすると誓っている。けれど唯一、レオニル自身からは守ることが出来ないのだ。
 大切に思うあまりに神格化し過ぎてしまい、自身が触れると汚してしまうのではないだろうかと本気でそう思っていた。タガが外れてしまった時の自分がどうなるのか、想像もつかないから怖いと。
「僕は、君に触れる資格がないのかもしれない」
「どうして?だって貴方は私の旦那様でしょう?」
 その響きはレオニルの心臓のど真ん中を撃ち抜き、ぐう……っと悶えさせる。それでも頑なに顔を背ける彼に、空色の瞳はたちまちうるうると潤み始めた。
「私は今よりもっとレオに近付きたいのに、レオは違うのね」
「ケイティベル……」
「もう知らない」
 控室を出ていこうとしたケイティベルの手を、レオニルがぱっと掴む。彼女の表情は暗く沈んでいて、不甲斐ない己に何発か拳を打ち込みたくなったが、それはただの自己満足にしか過ぎない。この先の長い時間を預けてくれたケイティベルには、いつだって笑顔でいてほしい。
「すまない、ケイティベル。僕に度胸がないせいで、君を傷付けてしまった。いつの間にか、側にいるのが当たり前だと傲慢になっていたのかもしれない。寄り添う努力を怠った僕を、どうか許してほしい」
「別に、そんなに大きな話ではないんだけど……」
 ただ普通の恋人のように、触れ合ってキスを交わして、お互いに愛を伝えたいだけ。好きな人に触れたいと思う気持ちはごく自然なことだと、いい加減レオニルにも分かってほしい。だって自分は、天使でもなんでもない普通の女の子なのだから。
「しよう、キス。いや、僕がしたいからさせてくれ」
 ケイティベルの腕をふわりと引き寄せ、正面から見つめ合う。澄んだ空色の瞳に映るのは、初恋の相手。
「愛している、この先も永遠に」
「レオ、私も」
「ベルに出会えて、僕は幸せだ」
 罪悪感も背徳感もすべて取り払って、残ったのは純粋な愛情だけ。そっと瞼を閉じるケイティベルの睫毛が微かに震えていることに気付いたレオニルは、なぜだか涙が溢れそうな衝動に襲われた。
 柔らかな頬にそっと手を添え、優しく口づけを交わす。とても言葉には表せないほどの多幸感に包まれ、息をすることさえ忘れてしまいそう。
「ふふっ、レオの手が震えてる」
「……情けないな」
「そんなところも好き」
 度胸があるのは、いつだって彼女の方。もう一度ねだるように唇を尖らせるケイティベルに、このまま時が止まれば良いと思いながら、瞳が潤んでいるのを気取られないうちにと、レオニルもそっと目を伏せたのだった。
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