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第三章「仲間を増やそう大作戦」
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「お久しぶりです、レオニル殿下」
来賓室に通された三人は、相変わらず完璧な佇まいでこちらを見据えている我が国第二王子レオニルに挨拶をする。普段なら絶対にいるはずのない双子がこの場にいても、まったくと言っていいほど表情は変わらない。
「こんにちは、レオニル殿下」
「今日はお姉様に無理を言って連れてきてもらったんです」
二人は昔から、レオニルのことも苦手だった。姉のリリアンナと並ぶとそれはそれは絵になるほど美しいが、本当に絵画を見ているかのように人間味がない。たまに顔を合わせて会話をしても続かず、無表情で流されるだけで楽しい雰囲気になったことは一度もない。
怖いもの同士お似合いだと思っていたけれど、姉の本心を知った今では見方が違う。大切にしてくれないなら、結婚はしてほしくないとやきもきしていた。
「や、やっぱり怖いね」
「だ、大丈夫!お姉様がいるもの」
ルシフォードとケイティベルは、両サイドから頼るようにぎゅっと姉の手を握る。飛び上がって喜びたいのをぐぐっと堪えながら、リリアンナはきりりと顔つきを整えた。
「変わりはないか」
「はい、特には」
「そうか」
たったこれだけで、婚約者同士の会話は終了した。今までなら別に構わなかったのだが、今日はさらに踏み込まなければならない。
「あ、あの。殿下」
「どうした?」
聡明で頭の回転が早いリリアンナは、弟妹のこととなると途端にぽんこつになる。二人に良いところを見せようと張り切った結果、なんとも頓狂な質問が口から飛び出した。
「私について、どのようにお考えでしょうか」
「……は?」
「いや、ですからその」
なぜそんな質問をしてしまったのか、彼女自身も分からない。態度からしても恋愛感情がないのは明白だが、なんのお咎めもなく婚約破棄を許可したという点が引っかかる。しかも、代わりにケイティベルを新たな婚約者として置いた。実質、エトワナ家には不利益どころか得しかない。
リリアンナの評判は地に落ちるだろうが、もともと地面すれすれだったのでそこはあまり問題ではない。
「質問の意味が分かりかねる」
「殿下は、私との婚約がお嫌ではないのかと」
「今さら?」
「ほ、他にお慕いしている方など……」
口を開けば開くほど支離滅裂になってしまう。表情にはほとんど出ていないが、今リリアンナの両掌は手汗でびっしょりと濡れていた。
――ああ、ごめんなさい二人とも。ふっくらとした愛らしい手に私の汗がついてしまうなんて、こんなに可哀想なことはないわ。
嫌われたらどうしようと焦る姉を安心させるべく、双子はにこっと笑みを浮かべる。あまりの可愛さに思わず声が漏れそうになるリリアンナだが、その時なぜかレオニルがいきなり立ち上がった。
「で、殿下?」
「……ああ、すまない」
少々バツが悪そうに顔を顰めながら、ゆっくりと腰を下ろす。三人は顔を交互に見合わせ、どうしたのだろうかと首を傾げた。
「申し訳ございません、不快でしたでしょうか」
「いや、そうではない」
「では、お答えいただけますか?」
引き下がらないリリアンナを前に、レオニルは元の調子を取り戻す。形の良い唇を規則正しく動かして、突拍子もない質問に答えた。
「考えたこともない。結婚に私情を挟むべきではないという点において、私達の見解は一致していると思っていたが」
「はい、確かに仰る通りです。ですが最近になり、今まで一度も殿下のお気持ちに寄り添おうとしなかったことを、後悔しているのです」
今まで一度も見たことのない表情を浮かべる彼女を見て、レオニルは微かに目を見開く。両手から流れ込んでくる幸せな温もりは、鉄仮面リリアンナの心を柔らかく解していた。
来賓室に通された三人は、相変わらず完璧な佇まいでこちらを見据えている我が国第二王子レオニルに挨拶をする。普段なら絶対にいるはずのない双子がこの場にいても、まったくと言っていいほど表情は変わらない。
「こんにちは、レオニル殿下」
「今日はお姉様に無理を言って連れてきてもらったんです」
二人は昔から、レオニルのことも苦手だった。姉のリリアンナと並ぶとそれはそれは絵になるほど美しいが、本当に絵画を見ているかのように人間味がない。たまに顔を合わせて会話をしても続かず、無表情で流されるだけで楽しい雰囲気になったことは一度もない。
怖いもの同士お似合いだと思っていたけれど、姉の本心を知った今では見方が違う。大切にしてくれないなら、結婚はしてほしくないとやきもきしていた。
「や、やっぱり怖いね」
「だ、大丈夫!お姉様がいるもの」
ルシフォードとケイティベルは、両サイドから頼るようにぎゅっと姉の手を握る。飛び上がって喜びたいのをぐぐっと堪えながら、リリアンナはきりりと顔つきを整えた。
「変わりはないか」
「はい、特には」
「そうか」
たったこれだけで、婚約者同士の会話は終了した。今までなら別に構わなかったのだが、今日はさらに踏み込まなければならない。
「あ、あの。殿下」
「どうした?」
聡明で頭の回転が早いリリアンナは、弟妹のこととなると途端にぽんこつになる。二人に良いところを見せようと張り切った結果、なんとも頓狂な質問が口から飛び出した。
「私について、どのようにお考えでしょうか」
「……は?」
「いや、ですからその」
なぜそんな質問をしてしまったのか、彼女自身も分からない。態度からしても恋愛感情がないのは明白だが、なんのお咎めもなく婚約破棄を許可したという点が引っかかる。しかも、代わりにケイティベルを新たな婚約者として置いた。実質、エトワナ家には不利益どころか得しかない。
リリアンナの評判は地に落ちるだろうが、もともと地面すれすれだったのでそこはあまり問題ではない。
「質問の意味が分かりかねる」
「殿下は、私との婚約がお嫌ではないのかと」
「今さら?」
「ほ、他にお慕いしている方など……」
口を開けば開くほど支離滅裂になってしまう。表情にはほとんど出ていないが、今リリアンナの両掌は手汗でびっしょりと濡れていた。
――ああ、ごめんなさい二人とも。ふっくらとした愛らしい手に私の汗がついてしまうなんて、こんなに可哀想なことはないわ。
嫌われたらどうしようと焦る姉を安心させるべく、双子はにこっと笑みを浮かべる。あまりの可愛さに思わず声が漏れそうになるリリアンナだが、その時なぜかレオニルがいきなり立ち上がった。
「で、殿下?」
「……ああ、すまない」
少々バツが悪そうに顔を顰めながら、ゆっくりと腰を下ろす。三人は顔を交互に見合わせ、どうしたのだろうかと首を傾げた。
「申し訳ございません、不快でしたでしょうか」
「いや、そうではない」
「では、お答えいただけますか?」
引き下がらないリリアンナを前に、レオニルは元の調子を取り戻す。形の良い唇を規則正しく動かして、突拍子もない質問に答えた。
「考えたこともない。結婚に私情を挟むべきではないという点において、私達の見解は一致していると思っていたが」
「はい、確かに仰る通りです。ですが最近になり、今まで一度も殿下のお気持ちに寄り添おうとしなかったことを、後悔しているのです」
今まで一度も見たことのない表情を浮かべる彼女を見て、レオニルは微かに目を見開く。両手から流れ込んでくる幸せな温もりは、鉄仮面リリアンナの心を柔らかく解していた。
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