くまのくま吉さん

大人になった、その後も

　最後になんて言おうか迷った。でも、すぐに答えが出た。
「お父さん、僕がずっといい子でいようとしたことで、チャンスが巡ってきたなら、また逢えるように、話せるように、やっぱりいい子でいようと思う。だけど！」
『……。だけど？』
　笑うつもりで、ちょっぴり涙が溢れたけれど、僕はハッキリと言った。
「お母さんに、お父さんのことも大好きって、ちゃんと伝える！　だから、お父さんのこと、お母さんのことも、僕にちゃんと聞かせてほしいって！　お母さんのこと、早く大人になって助けていくって！」
　
『りょうくん……。ずっと、見守っているクマ……！』
　パタッと倒れて、その後、喋らなくなった「くまのくま吉さん」を、抱き寄せて、ほおずりした。

　翌朝、動かなくなった「くまのくま吉さん」を、僕はお母さんにあげた。
「いいの……？」
「うん！　お母さんも甘えたいでしょ？」
「……りょう」
「僕にはお母さんがいるからいいんだ！　もちろん、お父さんもね！」

　これからは素直になろう。
　大人になった、その後も。