上 下
208 / 252

捕虜の扱い

しおりを挟む
281日目

朝、日が昇り出す頃、兵士達は少し遅い朝食の支度をはじめ、部隊ごとに食事を摂り始めます。
捕虜たちの食事も作る為、炊飯の煙が通常以上に上がっていますが、砦を奪還して捕虜を収容する場所を作成すれば監視や食事の作成など当番制で行えるので少しは兵士達の負担も減って楽になるでしょう。

そう思いながら、朝食を済まし、ゴブリン達に進軍の指示を出していると土田がやってきます。

「武内、本当に今日進軍するのか?」
「ああ、アルチの報告ではハンゾウが指示通りに砦の食料を焼いたから砦に食料がほぼ無い状態だ、相手に補給を受ける余裕を与えず砦を攻める」

「だが、それでも籠られたら厄介じゃないか?」
「まあ籠られれば厄介だけど、間違いなく籠らないで放棄すると思うぞ、だから相手が放棄した砦を再占拠して暫くの間拠点にする」

「まあ確かに食料が無いなら砦に籠ると言う選択肢は無いな…」

そう言って納得したのか土田はバイルエ王国兵の指揮官達に本日進軍をする旨を伝えに行きます。

まあ実際のところ、アルチの報告では壊走したソパニチア王国軍は砦の食料が焼かれたと知ったらそのまま砦を素通りして自国に逃げて行ったって報告受けてるから戦闘なんて起きないんだけどね。

その後、ゾルスにゴブリン軍団の半数を率いて進軍を開始させ、残りはバルタとロゼフに任せて捕虜の監視をさせます。
まあサンダーウルフとミノタウロスに周囲を固められている状態でしかも武装は無いから変なことを考える奴は居ないでしょう。
逃げたら殺しても良いって伝えてるから数人が脱走を図るだろうけど、結末を目にしたら大人しくなるだろうし。

そう思いながらも、進軍準備が完了したバイルエ王国兵と共に砦に向けて進軍を開始しますが、流石に大勢の捕虜を連れてなので通常の行軍より遅い感じです。
あ~、これ今日中に砦まで到着しないパターンだ…。

282日目

予想通り昨日中に砦までは到着しませんでしたが、先行したゾルス達は強行軍をおこなったようで、夜のうちに砦に到着し、無人の砦を確保したようです。

ゾルス達は事前に伝えていた通り今朝から砦の周りに捕虜を収容する牢屋の建設を始めていると思います。

捕虜を連れての行軍で砦に到着したのは日が傾きだした頃でした、流石にゾルス達だけで1万5千人近い捕虜を収容するだけの牢屋を作れず、概ね3割がた完了といったところです。

まあ明日中にゴブリンと兵士を動員して一気に作ってしまいましょうか。

283日目

捕虜を収容する牢の建設を朝からはじめ、夕方にはほぼ完成したので、捕虜を牢屋に入れて行きます。
捕虜の管理をお願いしていた月山部長には、所属する部隊、というより領主である貴族の兵ごとに分けて収容をお願いします。

最初は何故そのような事をと言う顔をしていましたが、月山部長は特に何も聞かず、依頼通り兵士達を収容していきます。
とは言え捕虜の中にも領主である貴族も居たようで、一般の兵士達と同じ扱いを受ける事に激怒し喚いていた人も居たようですが、お構いなしに牢に収容していきます。

「武内君、牢への収容は完了したが、いくら即席とはいえこれではまずくないか?」

そう月山部長が懸念するのももっともで、作った牢屋は屋根はあるものの後は人が抜け出せないように木を組んだだけで、隣の牢の仕切りも無く、木組みで隔てているだけで、言うなれば四方が丸見えで隣りの牢に居る人と普通に話が出来、脱出の打ち合わせをしようと思えば簡単に出来てしまう造りだからです。

「まあこれでいいんですよ、詳しくは後で話しますが、とりあえず、どの牢屋に居る兵がどの貴族の兵かリストは出来てるんですよね?」
「ああ、武内君がリストをと言っていたから作ってはいるが」

そう言って不思議そうな顔をする月山部長と共に砦に戻り、各指揮官達と捕虜返還交渉をどうするかの話し合いを始めます。

会議はどの様にソパニチア王国に捕虜が居る旨を伝えるかの話から始まります。
まあ戦争したばかりで気が立っている相手にこちら側の人間がノコノコ行ったら殺される可能性もある上、王都までたどりつけるかも疑問です。

最終的には捕虜にした貴族を使者にする事に決まりました。

その後、捕虜の扱いに関して、自分の意見を伝えると、一同が驚いたような表情を浮かべます。

「武内君、一部の捕虜を優遇し、一部は冷遇すると言うのは納得できんぞ、倫理的に公平に扱うべきだろう」

月山部長が真っ先に反対の意見を述べますが、それを手で制し、説明を始めます。

「月山部長が言われることはもっともですが、何も冷遇する捕虜を飢えさせるようなことはしません、ただ一部の捕虜の食事を優遇したりするぐらいです。 とは言え冷遇されている捕虜からしたら優遇されている捕虜に対して疑問を覚えさせるぐらいにですが」
「それは何の意味があるんだ? 公平に扱っておけば今後、再度戦争をしようという時に反戦論が広がるかもしれないじゃないか?」

「まあ確かに月山部長の言う通り公平に手厚く扱えば反戦論も生まれるかもしれませんが、最終的に戦争するかどうかを決めるのは貴族たちですから兵士を厚遇してもあまり効果は無いと思うんですよ」
「では、何か理由があると言うのか?」

「はい、まず厚遇された兵士は訳も分からず冷遇されている兵士から反感を受けます、そして捕虜を解放した後、故郷に戻り領主である貴族に自分達が受けた扱いを伝えるでしょう。 その際厚遇を受けた貴族の兵が居たと伝われば、兵を冷遇された貴族は厚遇された貴族が何らか我々と繋がりがあるんじゃないか? と思うはずです」
「まあ確かに、冷遇された人間からしたら厚遇された者達は何かしら我々と繋がっているから厚遇されたと思うかもしれないな」

「そうです、そうなると、兵士を厚遇された貴族と、冷遇された貴族の間に疑心が生まれます。 その上ソパニチア王国の直属兵も冷遇しますので、国内で厚遇された貴族に対し疑惑の目が向けられますから、ソパニチア王国内の貴族がまとまる事の出来ない状況を作るのが目的です」
「そういう事か、それでどのように厚遇と冷遇を分けるんだ?」

「そうですね、侯爵家の兵士は厚遇、複数の伯爵家の兵はどちらでもいいので片方を厚遇、他は適当でいいと思います」
「そうか、王国直属を冷遇し、爵位が高い貴族の兵を厚遇し、かつ一部は冷遇する事で、王国内の貴族間の繋がりを疑心で引き裂くんだな?」

そう言って納得する面々に、とりあえず捕虜の中に子爵が居るとの事なので、その者にあずかっている兵士は厚遇し、解放の際にはそれなりの食料を持たせて解放する約束をし、使者にする事になりました。

夜、いきなり牢屋から呼び出された子爵は最初殺されるのかと怯えていましたが、使者の役目の話をし、捕虜の厚遇を約束すると即座に使者となる事を了承しました。

使者となる子爵には、従兵として10人程を牢屋から選別させ、選別した者達と共に別室を用意し食事や酒を与えます。

さて明日は馬を与えて使者としてソパニチア王国に戻って貰う事になるけど、反応が帰って来るのはいつになるかな…。
首都遠いもんな~、片道1週間ぐらいは覚悟しないといけないかな。

そんな事を思いながらも、今後の事後処理をどうしようか考えますが、捕虜の身代金や不可侵の約束など面倒なので土田に任せて自分と月山部長はとりあえずプレモーネに戻ってチョイチョイ顔を出す事にします。

まあ不可侵の約束っていっても流石に2万5千人以上の死者が出てるからそうそう再度の進攻は無いと思うけどね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

えと…婚約破棄?承りました。妹とのご婚約誠におめでとうございます。お二人が幸せになられますこと、心よりお祈りいたしております

暖夢 由
恋愛
「マリア・スターン!ここに貴様との婚約は破棄し、妹ナディアとの婚約を宣言する。 身体が弱いナディアをいじめ抜き、その健康さを自慢するような行動!私はこのような恥ずべき行為を見逃せない!姉としても人としても腐っている!よって婚約破棄は貴様のせいだ!しかし妹と婚約することで慰謝料の請求は許してやる!妹に感謝するんだな!!ふんっっ!」 …………… 「お姉様?お姉様が羨ましいわ。健康な身体があって、勉強にだって励む時間が十分にある。お友達だっていて、婚約者までいる。 私はお姉様とは違って、子どもの頃から元気に遊びまわることなんてできなかったし、そのおかげで友達も作ることができなかったわ。それに勉強をしようとすると苦しくなってしまうから十分にすることができなかった。 お姉様、お姉様には十分過ぎるほど幸せがあるんだから婚約者のスティーブ様は私に頂戴」 身体が弱いという妹。 ほとんど話したことがない婚約者。 お二人が幸せになられますこと、心よりお祈りいたしております。 2021年8月27日 HOTランキング1位 人気ランキング1位 にランクインさせて頂きました。 いつも応援ありがとうございます!!

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

婚約破棄したのはそっちよね? 今更泣いて縋っても無駄よ! あとお兄様がクソ。

百谷シカ
恋愛
「エリアナが婚約!? 馬鹿な……取り返さなくては!!」 「え?」 「こうしちゃいられない。ルシア、君との婚約は破棄させてもらう!!」 「ええ?」 「エリアナ~! 目を覚ますんだぁ~っ!! 愛してるぅ~ッ!!」 こうして私ウィッカム伯爵令嬢ルシア・フラトンは婚約破棄された。 マーニー伯爵令息ブランドン・コーンウェルは幼馴染を愛していたのだ。 ブランドンの幼馴染ソマーズ伯爵令嬢エリアナ・パターソン。 そのエリアナに求婚したクレヴァリー伯爵レナード・マッコーコデール。 手を取りあって見つめあうふたりに突っ込んでいく、ブランドン。 「みっともない。お前に魅力がないせいで恥をかいたぞ!!」 兄エドウィンは私を責めた。兄の婚約者イヴェットは私を嗤った。 「大惨事だ。エドウィン、イヴェット。ルシアを頼む」 父は大慌てで事態の収束に務めた。 なんといっても私たちはロイエンタール侯爵家の昼食会に招かれている身。 スキャンダルを起こすなんて言語道断……なのに。 「あなたのせいよ、ルシア」 イヴェットの目が悍ましく煌めく。 私は罰として、衣装室に閉じ込められてしまった。 「大丈夫かい? 恐くないから、出ておいで」 助けてくれたのは、ロイエンタール侯爵令息ドミニク・ハイムその人だった。 でも、私は彼の優しさを信じられなくて…… =================================================== 『「華がない」と婚約破棄された私が、王家主催の舞踏会で人気です。』のドミニク卿の物語です。 この物語だけでお読み頂けます。

【完結】転生したら「人魚姫」でした

若目
恋愛
17歳で亡くなって、転生したら人魚姫でした。 そう、あの有名なアンデルセンの「人魚姫」です。 でも私は海の泡になんてなりたくない! だから王子様を見つけても助けないし、海の魔女のところにも行きません! ずっと海底で、家族と楽しく暮らすの! どうせ王子様は別の女性と結婚するのだし、放っておいても、みんながみんなハッピーエンドで済むはず! でも、事はそう簡単に運ばなくて……

グッドデザインシティ

畦道伊椀
SF
何もかもが完璧に設計された街、グッドデザインシティで起こる悲劇と救い

【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして

Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。 伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。 幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。 素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、 ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。 だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。 記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、 また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──…… そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。 ※婚約者をざまぁする話ではありません ※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...