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大聖堂攻め

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214日目

大聖堂を封鎖して3日が経過しましたが、戦闘どころか小競り合いすらなく町は静まり返っています。
とは言え、土田に依頼して乱暴狼藉をしない、穀物を格安で小売りするという掲示を町中にした効果が表れたのか、家に籠っていた人が少しずつ外出しはじめています。

「お前、よくこんな事考え付くよな」
そう言って土田が本陣でゴブリンを動員してステレーネさんが書いた降伏勧告文章のコピーを矢に括り付ける作業をしている自分の所にやってきます。

「ん? コピーの事か? 大量に作るとなると時間かかるじゃん? だったら日本政府に頼んでコピーしてもらえば1時間もしないで数千枚とか作れるし効率的じゃない?」

「いやそれもそうなんだが、俺が言いたいのは、大聖堂陥落後に国民の扱いがどうなるかをステレーネさんの自筆で書かかれた紙を町中に配った事だよ、あれは効果抜群だ。」
「まあな、町の住民の関心はウェース聖教国がどうなるかより自分達の今後がどうなるかだろうからな」

「そんなものか? 自分が生まれ育った国が無くなるかもしれないんだぞ? それなのに自分達の今後の生活の方が優先か?」
「まあそりゃそうだろ。 善政を敷いてた国ならともかく、腐敗した上層部が治める国なんだから不満もあるだろうし、国民からしたら税率が下がるか上がるかの方が生活に直結するから重要だろ。」

そんな言葉を聞いて土田は納得したかのような顔をしています。

「それより土田、大聖堂の動きは全くないか?」
「ああ、全く動きはない、むしろこっちが攻め込まないのを分かっているのか悠々としているよ」

「そうか、てことは食料は十分にあるって事だよな。じぁあ残っている矢に降伏勧告の文章を結び終えたら撃ち込んで様子を見てみるか。 土田、矢を撃ち込んだら出入り口の一つを封鎖解除して逃亡しやすくしてあげて。 とはいえ、要人が逃げ出した際は確保できるように監視は徹底させてだけど」
「おう、分かった、じゃあ弓兵の手配と封鎖の解除と監視を指示してくる」

そう言て土田が兵士に指示を出しに行ったのでこちらは矢にコピーした文章を結びつける作業を続けます。

大体3000本ぐらいには結びつけたでしょうか、地味な作業ですがゴブリン達は手先が器用なのかサクサクと作業を進めてくれたので予想よりも早く終わった感じです。

準備が出来たので、矢を前線に運んで弓兵に命じて大聖堂に矢文を撃ち込みます。
最初は攻撃が始まったのかと大聖堂に籠る兵は慌てた感じでしたが矢文と気が付くと大聖堂内は落ち着きを取り戻したようです。

さて効果は出るのかな…。


215日目

「土田、逃亡兵は出てる?」
そう朝の挨拶がてら土田に声をかけると、内田は軽くうなずいて逃亡兵を拘束している場所に案内をします。そこには、聖堂から半数近い兵士が逃亡してきていました。
「てか逃亡兵は確保しなくてもよかったのに…」
「いや、そうなんだが、逃亡兵と見せかけて町中でゲリラ戦を展開されても困るし、略奪とかも心配だったからな。 とりあえず捕獲して暫く拘束しておこうかと思ってな」

「ああ~そういう事ね、確かに、的確な判断だね」
「そうだろ? それで兵士に大聖堂内の状況を聞いたが、どうやら半分近い兵士が命令されるがまま大聖堂に籠った兵らしい」

「ていう事は今残っている半分の兵士は信仰心の篤い兵士って事か?」
「いや、反対だ。信仰心の篤い兵士は逃亡をして、今大聖堂に籠っているのは言われるがまま籠った兵で報酬目当てらしい」

「うわ、一番めんどくさい相手だな…」
「確かにな、こっちが兵士として雇用を保証しても、それよりも今目の前にある金に飛びついてるんだから」

「それで食料の方は?」
「ああ、かなりあるらしい。それに逃亡した兵士分が余るから更に余裕がある感じだな」

「そうか、てことはこのまま囲んでいても降伏は見込めないうえに、長引けば隣国が干渉してくる可能性もあるか。そうなると、やはり力攻めしかないか」
「そうだな、出来れば血は流したくなかったんだけど、こうなったら仕方ないだろう」

そう言って土田も力攻めをするしか案は思いついていないようです。

「じゃあ明日の早朝の総攻めで行くか?」
「早朝? 朝駆けか?」

「ああ、ただし、今から総攻めの雰囲気を出し続けるぞ」
「どういう事だ? 総攻めの雰囲気を出すって?」

不思議がる土田に概要を話し、納得をさせます。
「そうか、こっちの兵士は半分を休ませて半分は明日の朝まで攻めかかるように見せかけて、相手を疲れさせるんだな?」

「まあそういう事、ていうか実際は総攻め開始の2時間前ぐらいまでやって、終わったと思って安心したところで総攻めだな」

意味を理解したのか土田が本陣の幕僚の所に向かって行き指示を出しています。
暫くすると、各方面で喊声があがり、それに合わせて大聖堂の兵士達も慌ただしく動き出します。

このまま継続して日付が替わっても暫く続ければ明日の朝には疲れ切ってるだろうな。

うん、それにしても騒がしいから夜に自分が寝れるか心配になってきたな…。

216日目

昨日の夕方から寝ようかと思っていましたが、土田に捕まり本陣で待機を余儀なくされています。
うん、眠たいよ…。

「武内、そろそろ攻めかかるフリを止めて2時間になるが、やるか?」
「そうだな、もういいんじゃない? もうすぐ空も白みだす時間だし、頃合いでしょ。 とは言え今回は喊声を上げて突撃したら意味無いから極力静かに攻めかかる様に徹底させろよ」

「それはもう通達済みだ、俺達も先陣をきるぞ!」
「はい? 俺も? 土田だけでよくないか?」

「いやお前も突出戦力だろうが。、味方の被害を抑える為に俺たちが一気に攻め込んで門を中から開ける事でスムーズに突入できるだろ?」
「まじか…。 俺は指揮を執るから門を開けるのはハンゾウに任せるよ」

「いや、それも既に予定に組み込んであるからな、 俺と武内、そしてハンゾウで3つの門を同時に開けてそこから一気に突入する」

そう言って土田は頑なに自分の参戦も決定事項と言い張ります。
拒否を続けて時間を浪費するのも無駄なので、諦めて受け持ちの門の前に移動をし準備を始めます。

ていうか大まかに10分後に開始ってどんだけ適当なの?
普通何かしらの合図とかあるんじゃない?

そう思いながら10分が経った頃を見計らい門に向けて全力疾走し手前で足に力を込めてジャンプします。
元々防衛を考えていない大聖堂の門は豪華な作りではあっても、さして高くも無く簡単に飛び越えられるので、一気に飛び越え門の裏に居る兵士を斬り捨てて閂を外して門を開き兵士に合図を送ります。

門が開くと同時に待機していた兵士が一斉に駆け込んで来ますが、喊声も上げず無言で駆けこんで来るので味方なのに結構不気味な光景です。

うん、無言の突撃…これ怖いな…。
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