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ウェース聖教国の使節団2

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夜になり晩餐会が始まる為、ウェース聖教国の使節団の面々とドグレニム領の主要な人たちが会場に集まってきます。

「月山部長、面倒くさいんで帰っていいですかね?」
「武内君、それは駄目だろう、まあ聖女さんもなかなか可愛らしいお嬢さんだから悪い話ではないぞ」
そう言って笑いながら冗談をいう月山部長に愛想笑いで返し会場を見回します。

今回は日本人が使節団に居ない様なので、うまいこと情報収集が出来そうにありませんが、とりあえず挨拶と雑談だけは笑顔でしておいてあげる予定です。
まあウェース聖教国の狙いが明らかなので情報収集も必要なさそうですがその辺はグランバルさん達が頑張ってくれるでしょう。

そうこうしているうちにグランバルさんの挨拶が始まり乾杯の音頭と共に晩餐が始まります。
さすがに日本人が居ない分、今回出されている料理は初めて見る物ばかりで使節団の人達も困惑気味ですが、ドグレニム側の人達に促されて、物は試しと言わんばかりに少し口に運んだあと、驚きと共にバクバクと料理を食べ始めます。

まあこの世界の味付けは元々塩と香辛料、あとは食材の味だけですから、日本の調味料を使った料理は未知の味な上、日本で料理人をしていたプロが作っているので不味い訳がありません。

お酒に関しても、最初は恐る恐る口にしていましたが、味がわかるとグイグイ飲んでいます。
日本酒や焼酎、ウイスキーとかアルコール度数そこそこあるのでグイグイ飲むと後が大変じゃないかと思いますが取りあえず放っておきましょう。

「マサト様、少しお時間よろしでしょうか?」
そう言って声をかけて来たのは、聖女と言われていたステレーネさんです。
うん、逃げ損ねた・・。

「ええ、大丈夫ですよ。まあ気分屋の天邪鬼ですので話していても楽しくはないでしょうが」
「いえ、そのような事はございません、わたくしはこの度、救国の英雄と呼ばれてもおかしくない方とお話をする機会を頂けたのですから、これもネレース様のお導きと思っています」

「ネレースのお導きね・・・・。まあそのせいで自分達がこの世界に転移させられて迷惑をしているんですが、まあそれを聖女様に言っても仕方ないですね」
「マサト様達、異世界の人々をネレース様がこの地に転移させたのは何か深いお考えがあっての事と思います。なればわたくしたちウェース聖教国の者達はその深いお考えに従って異世界から来た人々に安寧と安住の地をご用意するのが務めと思っております」

「安寧と安住の地ですか、話に聞くと異世界人を異端者として処刑し、今も異端者狩りをしていると聞きますが?」
「そのような事はございません。それは恐らくウェース聖教国をよく思わない者が流した噂でしょう」

「噂ね・・・。で聖女様は今回わざわざ使節団に加わって日本人をウェース聖教国へ連れ帰る為に来たんですか?」
「いえ、確かに望む方がおられればウェース聖教国としてもお迎えするつもりではありますが、この度は純粋に友好的な関係構築と交易の活発化に向けた話をしに来たのです。あと、わたくしの事は聖女様ではなく、ステレーネとお呼びください」

「そうですか、ステレーネさんは今回の使節団が持って来られたお話がうまく進むとお思いですか?」
「ええ、とはいえ相互技術、知識供与につきましては難しいと思いますが、領主のグランバル様も我々の信仰するネレース様の御心を考えれば色よいお返事を頂けると思っております」

「色よい返事ね・・・・。自分には友好的な関係構築と交易の活発化だけは可能と思いますが、まあその他をネレースの名の下に強制すれば友好的な関係どころか戦争が起きる気がしますがね」
「それはドグレニム領側からウェース聖教国へ兵を向けると?」

「いえ、逆ですよ、交渉がうまくいかなければウェース聖教国が軍をドグレニム領に向ける可能性が高いという事です。まあ攻め込んで来てもバイルエ王国軍と同じく森で魔物に襲われてろくに戦争をする前に逃げ帰る事になるでしょうが」
「そのような事はございません、我々ウェース聖教国は自分達の利益の為に戦争をするなど致しません」

そう言ってえらく真剣な目を向けられましたが、どうも自分達は正しい事をしていると疑っていない様な感じです。
ていうか日本人を巡ってつい最近戦争してたのはどの国なのか?それともまさか戦争が起きた事をしらないのか?

「それに難民を引き渡せと言うのも飲めないと思いますよ。なんせウェース聖教国軍が食料を徴発し田畑を焼いてその後に補償も何もしないから生きるために生まれ育った地を離れる決断をした人たちですから」
「それについてもマサト様をはじめ多くの人々に真実が曲がって伝わっておりますわ、田畑を焼き略奪をおこなったのはバイルエ王国軍です。ウェース聖教国軍はバイルエ王国軍の奇策により武運拙く敗戦し砦で軍を立て直している間にバイルエ王国軍が行った蛮行でございます。危険な森を超えてこの地に来た難民となった人々もウェース聖教国に帰ることを望んでいる思います。その為にわたくし達は迎えに来たのです」

うん、どうやら噛み合わなと思ったら、恐らくこの人、教国に都合の良い情報や捻じ曲がった情報しか与えられてないんだ。

「まあ、それぞれ国が替われば見方も変わりますからね、それとどうやら聖女でいらっしゃるステレーネさんと話がしたそうな人が居るようですので自分はこの辺りで失礼させて頂きます」
そう言ってステレーネさんの元を辞して会場を見回すと全体的に和やかな感じではありますが、どこかギクシャクした感じが見受けられます。

月山部長が1人で居たので話をしたらどうやら月山部長もそう感じているらしく、教国の人と話してもどうも教義が先に来て話が噛み合わな感じだったそうです。

「武内君はさっきまで聖女様と話をしていたようだが、はたから見ているとなかなかいい感じだったぞ。」
「いや、冗談は止めてください、ここまであからさまな政略結婚なんてまっぴら御免ですよ」

そう言って苦笑いをしながら話していると、再度ステレーネさんがやってきます。
「じゃあ武内君、年寄りは邪魔だろうから失礼するよ」

そんな言葉と共に月山部長は歓談している人の中に入っていきます。
いや、年寄りは邪魔どころかむしろ聖女のお相手でもして頂きたかったんですが・・・。

「マサト様、それにしてもこの度の晩餐に出ているお料理とお酒は初めて口にするものばかりですが、これはすべて異世界の物なのですか?」
「そうですね、お酒は日本の物ですね、料理は調味料などは日本の物ですが材料はこの世界の食材ですよ。作っているのは日本人の料理人ですからこちらの世界の人には珍しいかもしれませんね」

「そうなのですね、どれも初めて食べる物ばかりで美味しいのでつい食べ過ぎてしまいそうです」
「そうですね、自分達が居た世界では普通だったんですけどね、それにあちらにあるスイーツ何かは女性に人気の品ですから是非食べてみてください」

スイーツコーナーを指さしケーキ類をおススメしておきます。
「ではマサト様、がおススメを選んでくださいませんか?」
「自分が選ぶんですか?むしろそんな事を気にせずに見た目で選んで食べてみる方が楽しみが増しますよ」

「そうですか、マサト様に選んでいただいたのなら間違いはないかと思ったのですが」
「それは気にしなくて大丈夫ですよ。全部本職の料理人が作ったものですからハズレはありませんから。それに一つ一つが小さく作ってあるんで幾つかを食べ比べできるようになってますから是非スイーツを堪能して行ってください」

そう言ってステレーネさんをスイーツコーナーに案内して選んでいるうちにその場を離れます。
さて、今度は何処に逃げるか・・・。
そう思いながら会場を見回して逃げ場を探していると、グレームさんが声をかけてきます。

「これはマサト殿、聖女ステレーネ様とはいい雰囲気で歓談されていたようですが今はお一人ですか?」
「グレームさんでしたよね、改めて初めまして、マサト=タケウチです」

「これは丁寧なご挨拶をありがとうございます。今回の使節団の団長を務めるグレームです」
そう言いながら少し大袈裟な感じで挨拶をして笑顔でほほ笑んでいる感じですが、この人は世間知らずな感じじゃなく、すべてを知っていてその上で平然としている感じがします。

「それにしてもウェース聖教国と言うだけあって栄えた所からこんな辺境に来たら何もない場所ですからガッカリされたのではないですか?」
「いえ、この町の活気もそして料理もお酒もとても素晴らしくこのままこの町に移り住みたいぐらいです」

そう笑いながら話すグレームさんですが、腹の中が見えない感じがして嫌な感じです。
そう思いながらも雑談をしていると、晩餐も終わりの時間になったようで、グランバルさんが締めの挨拶を始めます。

「それではマサト殿、まだ話足りない感じではありますが今宵はここまでという事で」
そう言ってグレームさんはウェース聖教国の使節団の人達と共に迎賓館に戻っていきます。

使節団が帰った後は毎回恒例になりつつある各自が聞き出した情報を纏める会議です。

とはいえ今回は皆さんあまり有意義な情報を聞き出せていないようであまり情報が出てきません。
「グランバルさん、これじゃウェース聖教国の意図が見えてこないですね」
「そうだな、これは私見なんだがあのグレーム卿が全権を握っていてそれ以外はただのお付きって感じだな」

「そんな事あり得るんですか?」
「普通はあまり考えられないが、教国の宰相と言われているだけの人間だからあながち間違えではないかもしれん」

「そうですか、まあ自分はあの聖女のステレーネさんに付きまとわれてまともに情報収集出来ませんでしたので何ともいえませんが、一つ分かった事は、恐らく聖女のステレーネさんには教国に都合の良い情報や捻じ曲がった情報しか与えられていない感じがしました」
「ほう、それでそれが何かあるのか?」

「何かあるというよりも、今回の使節団にそんな世間知らず的な人を加えたうえ、晩餐に出席させる理由が分かりませんね」
「それはマサトとの婚姻を狙っているからだろ?」
「それにしても、難民が出た理由は、砦で軍を立て直している間にバイルエ王国軍が田畑を焼き食料を略奪した蛮行だとか、まじめな顔して力説とかするんですよ?そんな自分から情勢には無知ですと言わんばかりの人を加えるのはデメリットしかない気がするんですがね」

「まあ確かにな、そのデメリットを無視してでもマサトを取り込みたいんだろう」

そう言ってあまり収穫が無かった情報のとりまとめは終わります。
「で、グランバルさんは教国の提案と要求をどこまで飲むんですか?」
「友好的な関係強化と交易の活発化促進だけだ、それ以外は受け入れられんし受け入れる理由もない」

「そうですか、まあそれを聞いて安心しました。とりあえず自分は明日、明後日と城壁作成してますんで何かあったら使いを送って下さい」
「おい、あとは俺に丸投げか?」

「まあ日本人が外交の場に出て来るならば自分や月山部長も出ますが、この世界の人が相手ならグランバルさん達が一番適任でしょうし、自分が出る幕も無いでしょうから城壁建設をしておきます。できれば最終日の晩餐は体調不良で欠席したいくらいですが」
「欠席は認めんぞ、とりあえず出席して聖女殿に婚姻の話はきっぱりと断りを入れるんだな」

そう言ってグランバルさんが席を立ち、会議は終わります。

本当に異世界に来たらハーレムがテンプレとか誰が言ったんだよ、14歳の王女の次は世間知らずの聖女とか、しかも両方とも政略結婚狙いとかばっかじゃん、普通にハーレム展開とか無いのかよ・・・。
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