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episode15-1
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蒼汰が漆原朔也を知ったのは美作本社の入社式だった。
新卒が集められて自己紹介をして交流するという場があったのだが、控えめに言って独壇場、悪く言えば一対全女性新卒の合コン状態だった。
それも明らかに本人は興味がないようでろくに会話もしない不遜な態度は男性陣を苛立たせた。
その中で唯一朔也と話した男性新卒が蒼汰だった。
「お前! 穂積蒼汰だろ! アンドロイド医療唯一の成功者!」
「せ、成功?」
この年の新卒で最も異色なのは蒼汰だった。
既に禁忌といっても過言ではないアンドロイド医療唯一の生存者で、当時は人ならざる人のようにも扱われた。それくらいアンドロイド医療は死と隣り合わせで、だから『成功』ではなく『生存』と呼ばれる。
だから蒼汰に好き好んで近付く者は少なく、近付いてくるのは下心のある研究者かマスコミくらいだった。他の人間は基本的には口をつぐみ腫れもの扱いだ。
それだけに、蒼汰にとって朔也はあまりにも型破りな存在だった。
「なんでアンドロイド医療なんてやろうと思ったの? 死ぬ確率の方が高いんだろ?」
「……真っ向からそういうこと聞く?」
「遠回しにじわじわ言えって? 嫌じゃねえ?」
「どっちにしろ嫌だよ」
「え、嫌なの?」
「嫌に決まってるだろ!」
「何で? せっかく生きてるのに?」
周囲がざわつく中で、朔也は無垢な眼差しで首を傾げた。
既に蒼汰と朔也は水の中に放り込まれた油のようだった。
「なあ、お前部署どこ?」
「え、だ、第二。パーソナル」
「俺第一。なあ、共同開発しようぜ。俺ボディ作るからお前パーソナル作れよ」
「え、な、なんで」
「面白いからに決まってんじゃん。アンドロイド医療なんて貴重な体験、活かさない手はないって!」
「……自分の成果のために僕を利用するの」
「利用? 馬鹿言え。活用だろ。失敗は成功のもと。お前にとってその目が失敗かどうかは知らないけど、その経験が誰かのためになれば失敗じゃない」
「失敗じゃ、ない……?」
「お前は失敗でいいの?」
「……それは」
それから朔也は蒼汰に付いて回り共に開発をし切磋琢磨し、気が付けば蒼汰はパーソナル開発を担当する第二のマネージャーになっていた。
その頃には既に蒼汰がアンドロイド医療の生存者であることなど誰も話題にしないくらい、朔也は抜きんでた存在になっていた。おかげで蒼汰が話しかけられる理由はアンドロイド医療ではなく漆原朔也唯一の友人というものにすり替わった。
朔也は何の意図もないだろうが、それは白い目を向けられることの多かった蒼汰にとって幸せなことだった。
だから蒼汰は朔也の頼みは断らない。朔也が意味のないことをするはずがないし、困っているのなら助けてやりたいと思っている。
(けど、まさか女の子の相談されるとは思ってなかったなあ)
珍しく社内で電話がかかって来た。何かと思えば、自分の部署のインターンの論文を見てほしいという話だった。
朔也がインターン一人に時間を割くこと自体が稀だったし、ましてや女の子なんて論外なのだ。
なにしろ女性インターンは朔也目当てであることが多く、過去にそれを見抜けずうっかり入社させたら色恋沙汰で問題になったことがあった。それも女性が一方的に熱を上げストーカー化した結果朔也に怪我をさせるというなかなか派手な事件があり、それ以来、女性インターン生には注意するようにというお達しが出ている。
だから朔也はインターンには優しくしないし必要以上に手を掛けることはしない。それがまさか特定の一人のために動くとは、誰も思っていなかった。
「朔也」
「おー。お疲れ」
朔也に頼まれたインターン生の久世美咲の論文を見てやった報告にやって来た。
既に二十一時を回っていて既にフロアには誰もいないが、朔也だけがパソコンに向かっている。
新卒が集められて自己紹介をして交流するという場があったのだが、控えめに言って独壇場、悪く言えば一対全女性新卒の合コン状態だった。
それも明らかに本人は興味がないようでろくに会話もしない不遜な態度は男性陣を苛立たせた。
その中で唯一朔也と話した男性新卒が蒼汰だった。
「お前! 穂積蒼汰だろ! アンドロイド医療唯一の成功者!」
「せ、成功?」
この年の新卒で最も異色なのは蒼汰だった。
既に禁忌といっても過言ではないアンドロイド医療唯一の生存者で、当時は人ならざる人のようにも扱われた。それくらいアンドロイド医療は死と隣り合わせで、だから『成功』ではなく『生存』と呼ばれる。
だから蒼汰に好き好んで近付く者は少なく、近付いてくるのは下心のある研究者かマスコミくらいだった。他の人間は基本的には口をつぐみ腫れもの扱いだ。
それだけに、蒼汰にとって朔也はあまりにも型破りな存在だった。
「なんでアンドロイド医療なんてやろうと思ったの? 死ぬ確率の方が高いんだろ?」
「……真っ向からそういうこと聞く?」
「遠回しにじわじわ言えって? 嫌じゃねえ?」
「どっちにしろ嫌だよ」
「え、嫌なの?」
「嫌に決まってるだろ!」
「何で? せっかく生きてるのに?」
周囲がざわつく中で、朔也は無垢な眼差しで首を傾げた。
既に蒼汰と朔也は水の中に放り込まれた油のようだった。
「なあ、お前部署どこ?」
「え、だ、第二。パーソナル」
「俺第一。なあ、共同開発しようぜ。俺ボディ作るからお前パーソナル作れよ」
「え、な、なんで」
「面白いからに決まってんじゃん。アンドロイド医療なんて貴重な体験、活かさない手はないって!」
「……自分の成果のために僕を利用するの」
「利用? 馬鹿言え。活用だろ。失敗は成功のもと。お前にとってその目が失敗かどうかは知らないけど、その経験が誰かのためになれば失敗じゃない」
「失敗じゃ、ない……?」
「お前は失敗でいいの?」
「……それは」
それから朔也は蒼汰に付いて回り共に開発をし切磋琢磨し、気が付けば蒼汰はパーソナル開発を担当する第二のマネージャーになっていた。
その頃には既に蒼汰がアンドロイド医療の生存者であることなど誰も話題にしないくらい、朔也は抜きんでた存在になっていた。おかげで蒼汰が話しかけられる理由はアンドロイド医療ではなく漆原朔也唯一の友人というものにすり替わった。
朔也は何の意図もないだろうが、それは白い目を向けられることの多かった蒼汰にとって幸せなことだった。
だから蒼汰は朔也の頼みは断らない。朔也が意味のないことをするはずがないし、困っているのなら助けてやりたいと思っている。
(けど、まさか女の子の相談されるとは思ってなかったなあ)
珍しく社内で電話がかかって来た。何かと思えば、自分の部署のインターンの論文を見てほしいという話だった。
朔也がインターン一人に時間を割くこと自体が稀だったし、ましてや女の子なんて論外なのだ。
なにしろ女性インターンは朔也目当てであることが多く、過去にそれを見抜けずうっかり入社させたら色恋沙汰で問題になったことがあった。それも女性が一方的に熱を上げストーカー化した結果朔也に怪我をさせるというなかなか派手な事件があり、それ以来、女性インターン生には注意するようにというお達しが出ている。
だから朔也はインターンには優しくしないし必要以上に手を掛けることはしない。それがまさか特定の一人のために動くとは、誰も思っていなかった。
「朔也」
「おー。お疲れ」
朔也に頼まれたインターン生の久世美咲の論文を見てやった報告にやって来た。
既に二十一時を回っていて既にフロアには誰もいないが、朔也だけがパソコンに向かっている。
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