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短編章 余暇
ちっちゃな立珂のちっちゃな腸詰(二)
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そして翌日、薄珂が目を覚ますと立珂はすでに着替え終わっていた。
薄珂の服も用意していて、着替えを急かされ朝食も食べないうちに家を飛び出すこととなった。
立珂に手を引かれて莉玖堂に向かうと、店主が開店準備をしているところだった。
「おお! こりゃあ早くに来たな! ちゃあんとできてるぞ、小さい腸詰」
「わあい! ちっちゃい腸詰っ! ちっちゃい腸詰っ!」
「朝ごはんまだなんだ。ついでに野菜定食二つもらえる? 立珂には辛い腸詰付けて」
「はいよ。じゃあ座って待っててくれ。立珂ちゃん。すーぐ持ってくからな」
「はあい! じゅーたん!」
立珂はぴょんぴょんと飛び跳ねながら店へ入ると昨日と同じ場所に座った。
莉玖堂は精肉店だが、頼めば食事も出してくれる。腸詰をたくさん食べたい立珂には夢のような場所でもある。
立珂は座ったもののそわそわしっぱなしで、こうなったら大人しくしろと言っても自分では抑えられない。
他の人もいる飲食する場所なので、いつもは足の間に挟んで抱えるようにして抑えるが今日は開店直後で誰もいない。薄珂はぽんっと立珂の頭を撫でるに留めた。
少しして店主はお盆を二つ持ってやって来た。大きな器に野菜がいっぱい入っている。
これも立珂を知ってから店主が有翼人のために用意した献立だ。香辛料を好まず素材そのままが好きな有翼人に大好評らしい。
だが今日はそれだけじゃない。約束通り小さな腸詰をたくさん盛った皿も乗っている。
立珂は店主が机に置くより前に立ち上がり、ぐぐっと小さな腸詰の山に顔を寄せた。
「ふあー! かわいい! ちっちゃい! ぼくのゆびよりちっちゃい!」
「一口でいけるくらいだな。食べてみてくれよ。味は同じだからな」
店主は立珂に小ささく削った細い竹の棒を握らせる。立珂は竹の棒を小さな腸詰に突き刺すと、いつもなら齧り付いて数回に分けて食べるところを一口で食べてしまった。
もぐもぐと咀嚼するたびに立珂の大きな目は輝きを増し、ごくんと食べきると両手を挙げて飛び跳ねた。
「おいしー! かわいー! たのしー! すき!」
「有難う。これなら持ち歩けるし夜食にもちょうどいいよ。立珂。ちゃんとお礼して」
「う! そうだった! とってもおいしいちっちゃい腸詰ありがとうございます!」
「いいってことよ。なあ立珂ちゃん。これ店で売ってもいいかい。他の有翼人の子にも良いんじゃないかと思うんだよ。親は便利だろう」
「もちろんだよ! きっとみんなうれしいよ! たのしいよ!」
「《りっかのおみせ》でお知らせしようか。立珂が作ってもらった腸詰売ってるって」
「そりゃあいい! 大人気間違いなしだ。たくさん作っておかなきゃな!」
それから、店主は様々な大きさの腸詰を作って販売を始めた。
小さい腸詰は小さな有翼人の子供とその家族には大好評で、ほんの少しだけ食べたい草食獣人にも人気を博した。女性は小さいというだけで気に入ったようで、種族問わず大人気の商品となった。
だが売れるようになったのは他にもある。それは《はっかのおみせ》のある商品だ。
「立珂君と同じお弁当袋ください! 黄色いの!」
「私は桃色がいい! 柄は立珂ちゃんと同じので!」
薄珂は持ち歩くための弁当箱を入れる袋を作った。生地は当然《りっかのおみせ》で売っている服の共布で、立珂も気に入って持ち歩いている。
響玄は飛ぶように売れる弁当袋を見てくくっと笑った。
「お前は機を見逃さないな。腸詰という名目があるから分かりやすくていい」
「弁当箱にしようかと思ったんだけど、用途が限られて売れにくいと思って止めた。製造原価もかかるし保管場所も取るし。でも余り生地で作れる袋なら楽でいいよね」
「販管費も考えられるようになったな。侍女が作れる範疇なら人件費もかからない」
こうして立珂のちっちゃい腸詰は莉玖堂とはっかのおみせの売上を大きく変えたのだった。
薄珂の服も用意していて、着替えを急かされ朝食も食べないうちに家を飛び出すこととなった。
立珂に手を引かれて莉玖堂に向かうと、店主が開店準備をしているところだった。
「おお! こりゃあ早くに来たな! ちゃあんとできてるぞ、小さい腸詰」
「わあい! ちっちゃい腸詰っ! ちっちゃい腸詰っ!」
「朝ごはんまだなんだ。ついでに野菜定食二つもらえる? 立珂には辛い腸詰付けて」
「はいよ。じゃあ座って待っててくれ。立珂ちゃん。すーぐ持ってくからな」
「はあい! じゅーたん!」
立珂はぴょんぴょんと飛び跳ねながら店へ入ると昨日と同じ場所に座った。
莉玖堂は精肉店だが、頼めば食事も出してくれる。腸詰をたくさん食べたい立珂には夢のような場所でもある。
立珂は座ったもののそわそわしっぱなしで、こうなったら大人しくしろと言っても自分では抑えられない。
他の人もいる飲食する場所なので、いつもは足の間に挟んで抱えるようにして抑えるが今日は開店直後で誰もいない。薄珂はぽんっと立珂の頭を撫でるに留めた。
少しして店主はお盆を二つ持ってやって来た。大きな器に野菜がいっぱい入っている。
これも立珂を知ってから店主が有翼人のために用意した献立だ。香辛料を好まず素材そのままが好きな有翼人に大好評らしい。
だが今日はそれだけじゃない。約束通り小さな腸詰をたくさん盛った皿も乗っている。
立珂は店主が机に置くより前に立ち上がり、ぐぐっと小さな腸詰の山に顔を寄せた。
「ふあー! かわいい! ちっちゃい! ぼくのゆびよりちっちゃい!」
「一口でいけるくらいだな。食べてみてくれよ。味は同じだからな」
店主は立珂に小ささく削った細い竹の棒を握らせる。立珂は竹の棒を小さな腸詰に突き刺すと、いつもなら齧り付いて数回に分けて食べるところを一口で食べてしまった。
もぐもぐと咀嚼するたびに立珂の大きな目は輝きを増し、ごくんと食べきると両手を挙げて飛び跳ねた。
「おいしー! かわいー! たのしー! すき!」
「有難う。これなら持ち歩けるし夜食にもちょうどいいよ。立珂。ちゃんとお礼して」
「う! そうだった! とってもおいしいちっちゃい腸詰ありがとうございます!」
「いいってことよ。なあ立珂ちゃん。これ店で売ってもいいかい。他の有翼人の子にも良いんじゃないかと思うんだよ。親は便利だろう」
「もちろんだよ! きっとみんなうれしいよ! たのしいよ!」
「《りっかのおみせ》でお知らせしようか。立珂が作ってもらった腸詰売ってるって」
「そりゃあいい! 大人気間違いなしだ。たくさん作っておかなきゃな!」
それから、店主は様々な大きさの腸詰を作って販売を始めた。
小さい腸詰は小さな有翼人の子供とその家族には大好評で、ほんの少しだけ食べたい草食獣人にも人気を博した。女性は小さいというだけで気に入ったようで、種族問わず大人気の商品となった。
だが売れるようになったのは他にもある。それは《はっかのおみせ》のある商品だ。
「立珂君と同じお弁当袋ください! 黄色いの!」
「私は桃色がいい! 柄は立珂ちゃんと同じので!」
薄珂は持ち歩くための弁当箱を入れる袋を作った。生地は当然《りっかのおみせ》で売っている服の共布で、立珂も気に入って持ち歩いている。
響玄は飛ぶように売れる弁当袋を見てくくっと笑った。
「お前は機を見逃さないな。腸詰という名目があるから分かりやすくていい」
「弁当箱にしようかと思ったんだけど、用途が限られて売れにくいと思って止めた。製造原価もかかるし保管場所も取るし。でも余り生地で作れる袋なら楽でいいよね」
「販管費も考えられるようになったな。侍女が作れる範疇なら人件費もかからない」
こうして立珂のちっちゃい腸詰は莉玖堂とはっかのおみせの売上を大きく変えたのだった。
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第二章完結おめでとうございます!
第一章の戦闘場面がとても好きで、大変ワクワクしながら読ませていただきました。
薄珂の弟を守ろうとする強い意志や深い愛情にいつも感動しています😭
立珂が夢でご飯を食べるのを見ていたり、侍女などと楽しくしているのをみると「🥰🥰🥹🥹」本当に心が浄化します。純粋無垢な立珂がこれからもいっぱい好きなことができて薄珂の横で笑っていれますようにと願いながら読ませていただいていました…!
薄珂と立珂の過去もとても気になります。天藍と薄珂のこれからの進展もどうなるのかハラハラしつつ、楽しみでなりません…!!
好きなキャラクターが多く全員大好きなのですが、護栄の無駄の無い性格とても性癖に刺さりました😇一周回って可愛い…という気持ちになってしまいました。
二章最後あたりの護栄と立珂がお話ししている所が本当に尊くて、可愛い…お二人尊い…となりました…!
薄珂がこれからどのように商売していくのがとても楽しみで、応援しています!!(蛍宮にいたら買い占めたいです)
どのキャラクターも一人ひとり個性があって、素敵で読んでいてワクワクが尽きません…!
第三章もとても楽しみにしております。
蒼衣先生がご無理のない範囲で応援しております…🙏🙏
本当に素敵なお話しをありがとうございました。
とん様
嬉しいコメント有難うございます!
こんなに熱い感想頂けたのは初めてでとっても嬉しいです!
薄珂と立珂の兄弟愛を描きたくて始めた連載なので、
二人がお互いを想いあい、日々きゃっきゃしている様子を気に入って頂けたなら本懐を遂げられました……!
立珂は私にとっても癒しの存在なので、
読んで下さっている皆様にも可愛がっていただけたならとっても嬉しいです。
立珂にはもっともっと好きなことを見つけて幸せになってほしいです^^
護栄! 私が書いていて一番楽しいキャラクターです!
優れた人だけど抜けているところもあり、
薄珂立珂とはまた違う愛され方をしてもらえるキャラになればなと思っていたので、好きになって頂けたなら作者としても大変嬉しいです!
第三章でも立珂を愛でつつ、一生懸命頑張る兄弟の姿を書いていこうと思います。
もうじき連載開始となるので、また読んで頂けたら嬉しいです。
感想下さり本当に有難うございました!
これからも薄珂と立珂をよろしくお願いします!
蒼衣ユイ
第一章完結おめでとうございます!!尊い…たまにはこんな感じのほんわかしてちょっぴり切ないのもよきですね(*´꒳`*)マジで尊いが溢れてました笑笑
第二章もあるんですねっ!!!めっちゃ楽しみに待ってます!これからも頑張ってください( _ _)
あーる。様
最後まで読んで下さり有難う御座います!
あまり世間を知らない二人は揺さぶられるものも多いですが、少しずつ進んでいければいいなと思います。
尊いと言っていただけてとっても嬉しいです。
第二章への応援も有難う御座います!
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あーる。様
読んで下さり有難うございます!
気にして頂けてとっても嬉しいです。
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